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23-4.鈍い恋心(巧視点)
しおりを挟む*・*・*(巧視点)
はじめは、ボーイッシュな女の子としてしか見ていなかった。
穫の大学の友人であり、少し独特な話し方をする女の子だと。
だが、話してみれば意外と付き合いやすく、かつ陰陽師としての実力も高い。
アマチュアだと本人は自負しているが、離魂の術を扱えるだけでも、その実力は高い事が充分評価出来る。
その術の反動で深い眠りについた時は、介抱してやったが。穫に叱られるまで大して気にしていなかったのに、一度巧は佐和の裸を見てしまっていた。
まじまじと見たつもりではなかったが、年相応の綺麗な身体だった事は覚えている。
そのあと、すぐに着替えさせたし、起きてからも簡単に説明した時彼女は気にしていないとも思っていた。
思っていたが。
今の佐和は、穫が出て行った後にあわあわと慌ててしまっている。その様子が、巧には可愛く見えた。
「……佐和ちゃん、ほんまごめん!」
けどまずは、今一度穫が怒っていたことについて謝罪すべきだ。
「た、巧氏……?」
「今更やけど、わっかい子の裸見てしもうとたんや。ほんまごめん!!」
「い、いや……!? あれは仕方がなかったから!」
「そーやけど。なんとも思わん相手に見られて嫌やったやろ?」
「え?」
「ん?」
少々意見が食い違っていたようだ。
巧は佐和の顔をきちんと見ると、彼女の顔はリンゴのように真っ赤っかになっていた。これについては、恋愛事に鈍い巧でも、流石に理解出来た。
「そ……え、ちが……う」
加えて、この慌て様。
確信を持てたが、巧自身はその好意を嬉しく思う以上の感情が出てこない。
いや、目を逸らしていただけかもしれないのだ。
達川に仕える六条の者として、笑也が穫と結ばれて本家にも認めてもらえた。
だから、次は巧の番だとも笑也から言われたが。その選択の時が今なのだろうか、と巧は悶々と考えるしか出来ない。
まったく、彼女とかがいなかったわけではないが、今回の佐和のように悩むまではなかった。
つまりは、そう言うことか。と、合点がいった。
「……なー、佐和ちゃん」
「う……はい」
「俺、勘違いせんでもええの?」
「そ!……れは…………はい」
「おん」
ボーイッシュなのは外見だけだ。
中身は、こんなにも可愛らしい女の子でしかない。
であれば、巧も無理に考え込むのはやめようと頭を軽く振ってから佐和の腕を軽く引っ張った。
「わ!?」
「はは、術師でも軽いなあ?」
柔らかくて、香水じゃないいい匂い。
久しぶりに女の子を腕に招いたが、この香りは巧にとって癖になってしまいそうだ。
もう、離さないと思えるくらい。
「……あの」
佐和が腕の中で身じろぐと、巧の目に入るように顔を上げてきた。
「ん?」
「僕も…………勘違い、しなくていいんですか?」
その可愛いらしい顔に、巧は思わず赤い目尻に唇を寄せた。
「気づいたのは今やけど……ええやろ、佐和?」
「……いい、です」
「んなら、俺もちゃんと呼んで?」
穫だけは特別扱いだが、二人は友人だから当然。
しかし、これから巧とも特別な関係になるのだから呼んで欲しい。
目をうろうろさせていた佐和は、やがて口を開いてくれた。
「好き……です、巧……さん」
「おん。俺も好きや、佐和」
そしてすぐに、巧は佐和の唇を奪った。
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