イタコ(?)さんと神様は、インスタント食品がお好きだそうな?

櫛田こころ

文字の大きさ
上 下
113 / 168

21-5.達川家に③

しおりを挟む
 言うまでもなく、今やってきた男性は。

「はじめまして、お嬢さん。笑也えみやの父で、明良あきらと言います」
「は、はは、初めまして!! 万乗ばんじょうみのり、です!」
「ふふ、そっくりでしょう? 穫さん」
「は、はい!!」


 珠緒たまおが楽しそうに言うのに、穫はまだガチガチだ。このような美形の家族に囲まれるなんて初めてだから、緊張しないわけがない。

 明良は穫を見ると、笑也そっくりの笑顔でニコニコと微笑んでいた。


「いやー、笑也にはもったいないくらい可愛らしいお嬢さんじゃないか。玄関で話すのも疲れるだろう? お茶菓子は用意してあるから、ささ、穫さんも上がって」
「お……お邪魔、します」


 一応手土産を用意しようとしたのだが、大丈夫だからと笑也に言われたので何も持ってきていない。

 とりあえず、玄関で話し続けてもいけないから達川たちかわの家に上がらせていただき、珠緒達の案内で客間に行くことになった。

 二階建てらしいが、平家のような造りが立派でよく管理されているのがわかった。中庭もあり、笑也が言っていた業者が手入れしたとわかるくらい素晴らしい風合い。

 思わず見惚れそうになったが、珠緒達と話すのが目的なので笑也に手を引かれながらついていく。


「狭いですけど、どうぞ?」


 この感覚は親子でも同じなのか。

 どう見ても、六畳以上ある畳の敷き具合に、立派な卓があって座布団も座り心地が良さそうな感じである。

 障子には庭を眺めやすいようにガラス窓と組み合わせていた。


「し……失礼、します」


 とりあえず座ることになり、穫は笑也に導かれるままに彼の隣に腰掛けた。


「足は遠慮なく崩していいよ?」
「今日は私達だけだもの?」
「だって、穫ちゃん?」
「お……お気遣いありがとうございます……」


 立ち仕事ならいざ知らず、正座は本当に慣れていないので有り難かった。すぐに、崩してから座ると、廊下側から誰かがやって来る足音がした。


「奥様、旦那様。お茶とお菓子をお持ちしました」


 旅館の仲居さんのような佇まいの初老の女性が、人数分のお茶とお菓子を持ってきてくれた。お茶は、抹茶とかではなくて普通の煎茶のようで安心出来た。一般家庭でしか育っていない穫が、茶道のような作法を会得しているわけがない。

 あの呪怨のせいで、習い事とかも出来なかったのもある。


「ありがとう、イネさん」


 笑也が彼女をそう呼んだので、インターフォンで対応してくれた女性だとわかった。

 穫の前にお茶を出してくれた時に目が合うと、優しそうな微笑みを見せてくれた。多分だが、歓迎されているのだろう。


「さ、穫さん? イネの手作りお菓子は絶品なの。是非召し上がって?」


 イネが去ってから珠緒がそう言うので、穫はお菓子に釘付けになってしまった。

 煎茶に合わせたのか、上生菓子にしか見えない可愛らしい花型の和菓子が、あのイネの手で作られたとは最初信じられなかったが。

 笑也からも、さあ、と言われたので専用の竹楊枝で切り分けてみた。

 赤色の餡子のような部分はとても柔らかく、力を入れずとも楊枝が通り。中は上質なこし餡。花びらひとつを切り分けるようにしてから、口に運ぶ。

 予想通りのこし餡の食感だったが、市販品どころか専門店に負けないくらいの仕上がりだった。珠緒達の前でなかったら、もっともっとと食べ進めていただろう。

 お茶も、煎茶どころか玉露の上質なものではと思うくらい飲みやすくて、甘かった。


「ふふ。穫ちゃん気に入った?」
「はい。とっても美味しいです!」
「良かったわ。イネにもあとで伝えておくわ」
「お願いします!」
「で、穫さん。少し聞きたいんだが」


 明良が身を乗り出す勢いで、穫に問いかけてきた。


「はい?」
「笑也のどこが気に入ったんだい?」
「父さん」
「いいじゃないか? いずれ嫁に来てくれるんだろ?」
「え!?」
「あらあら。穫さんにはまだ言っていなかったの?」
【こいつヘタレだもの?】
「……エミ」
「エミさん!?」


 とっくにいただろうが、タイミングを伺っていたのか。

 エミが、穫の後ろからニョキっという具合に出て来たら、穫の頭に柔らかな胸を載せて穫を大層慌てさせたのだった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

懐古百貨店 ~迷えるあなたの想い出の品、作ります~

菱沼あゆ
キャラ文芸
入社早々、場末の部署へ回されてしまった久嗣あげは。 ある日、廃墟と化した百貨店を見つけるが。 何故か喫茶室だけが営業しており、イケメンのウエイターが紅茶をサーブしてくれた。 だが―― 「これもなにかの縁だろう。  お代はいいから働いていけ」 紅茶一杯で、あげはは、その百貨店の手伝いをすることになるが、お客さまは生きていたり、いなかったりで……? まぼろしの百貨店で、あなたの思い出の品、そろえます――!

【完結】国を追われた巫女見習いは、隣国の後宮で二重に花開く

gari
キャラ文芸
☆たくさんの応援、ありがとうございました!☆ 植物を慈しむ巫女見習いの凛月には、二つの秘密がある。それは、『植物の心がわかること』『見目が変化すること』。  そんな凛月は、次期巫女を侮辱した罪を着せられ国外追放されてしまう。  心機一転、紹介状を手に向かったのは隣国の都。そこで偶然知り合ったのは、高官の峰風だった。  峰風の取次ぎで紹介先の人物との対面を果たすが、提案されたのは後宮内での二つの仕事。ある時は引きこもり後宮妃(欣怡)として巫女の務めを果たし、またある時は、少年宦官(子墨)として庭園管理の仕事をする、忙しくも楽しい二重生活が始まった。  仕事中に秘密の能力を活かし活躍したことで、子墨は女嫌いの峰風の助手に抜擢される。女であること・巫女であることを隠しつつ助手の仕事に邁進するが、これがきっかけとなり、宮廷内の様々な騒動に巻き込まれていく。  ※ 一話の文字数を1,000~2,000文字程度で区切っているため、話数は多くなっています。    一部、話の繋がりの関係で3,000文字前後の物もあります。

老女召喚〜聖女はまさかの80歳?!〜城を追い出されちゃったけど、何か若返ってるし、元気に異世界で生き抜きます!〜

二階堂吉乃
ファンタジー
 瘴気に脅かされる王国があった。それを祓うことが出来るのは異世界人の乙女だけ。王国の幹部は伝説の『聖女召喚』の儀を行う。だが現れたのは1人の老婆だった。「召喚は失敗だ!」聖女を娶るつもりだった王子は激怒した。そこら辺の平民だと思われた老女は金貨1枚を与えられると、城から追い出されてしまう。実はこの老婆こそが召喚された女性だった。  白石きよ子・80歳。寝ていた布団の中から異世界に連れてこられてしまった。始めは「ドッキリじゃないかしら」と疑っていた。頼れる知り合いも家族もいない。持病の関節痛と高血圧の薬もない。しかし生来の逞しさで異世界で生き抜いていく。  後日、召喚が成功していたと分かる。王や重臣たちは慌てて老女の行方を探し始めるが、一向に見つからない。それもそのはず、きよ子はどんどん若返っていた。行方不明の老聖女を探す副団長は、黒髪黒目の不思議な美女と出会うが…。  人の名前が何故か映画スターの名になっちゃう天然系若返り聖女の冒険。全14話+間話7話。

あやかし神社へようお参りです。

三坂しほ
キャラ文芸
「もしかしたら、何か力になれるかも知れません」。 遠縁の松野三門からそう書かれた手紙が届き、とある理由でふさぎ込んでいた中学三年生の中堂麻は冬休みを彼の元で過ごすことに決める。 三門は「結守さん」と慕われている結守神社の神主で、麻は巫女として神社を手伝うことに。 しかしそこは、月が昇る時刻からは「裏のお社」と呼ばれ、妖たちが参拝に来る神社で……? 妖と人が繰り広げる、心温まる和風ファンタジー。 《他サイトにも掲載しております》

星詠みの東宮妃 ~呪われた姫君は東宮の隣で未来をみる~

鈴木しぐれ
キャラ文芸
🌸完結しました!🌸平安の世、目の中に未来で起こる凶兆が視えてしまう、『星詠み』の力を持つ、藤原宵子(しょうこ)。その呪いと呼ばれる力のせいで家族や侍女たちからも見放されていた。 ある日、急きょ東宮に入内することが決まる。東宮は入内した姫をことごとく追い返す、冷酷な人だという。厄介払いも兼ねて、宵子は東宮のもとへ送り込まれた。とある、理不尽な命令を抱えて……。 でも、実際に会った東宮は、冷酷な人ではなく、まるで太陽のような人だった。

劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?

はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、 強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。 母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、 その少年に、突然の困難が立ちはだかる。 理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。 一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。 それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。 そんな少年の物語。

大文字伝子が行く

クライングフリーマン
キャラ文芸
後輩達との友情と交流

月が導く異世界道中

あずみ 圭
ファンタジー
 月読尊とある女神の手によって癖のある異世界に送られた高校生、深澄真。  真は商売をしながら少しずつ世界を見聞していく。  彼の他に召喚された二人の勇者、竜や亜人、そしてヒューマンと魔族の戦争、次々に真は事件に関わっていく。  これはそんな真と、彼を慕う(基本人外の)者達の異世界道中物語。  漫遊編始めました。  外伝的何かとして「月が導く異世界道中extra」も投稿しています。

処理中です...