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20-4.ほうれん草のクリームコロッケ②

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 *・*・*










 エミ達はどこかに行っていたのだろうか。

 神様の服装のままで、かなりくたびれているようにも見えたが。

 エミは、悩ましげに体を起こすとテーブルの上にある料理を見てから、目を輝かせたのだった。


【なあに、なあに!? コロッケぇ? 冷凍コロッケなのん!!?】
「全然違うよ、エミ。みのりちゃん家直伝の手作りクリームコロッケ」
【んま!? たーべーたーいー!!】
「じゃあ、僕に降りて。人数分しか用意してないんだから」
【おぅけぇい!】


 と言うわけで、エミは笑也えみやに憑いて。他の二神は服装を変えてから、人間みたいに実体化したのだった。


「どうぞ。ほうれん草入りのクリームコロッケです」
「「「「「「「「いただきます!!」」」」」」」」


 メインがクリームコロッケなので、佐和さわにはコンソメの野菜スープを作ってもらったが。予想以上に優しい味わいで美味しかった。

 夜だが、クリームコロッケなのでパンで食べることにしたのは正解だった。ひとり二個用意出来たクリームコロッケを、一個は普通に。もう一個は食パンに乗せて軽く潰してから挟むように食べれば、幸せが口いっぱいに広がって行く。


「みのりん、美味しいわ~~!!」


 笑也に憑いたエミは、上機嫌でクリームコロッケを食べてくれていた。穫がパンとの食べ方を教えれば、すぐに実行してくれるくらいに。


「美味ですね? こう言う感じのコロッケはあまり食べたことがありませんが、味付けはシンプルに塩胡椒とバターのみ。なのにこの味わいは絶品ですよ」
「うむ。美味い」


 月詠つくよみ達も気に入ってくれたようで何よりだ。パンの方の食べ方を実行した時には、顔が『カッ』となるくらい変わってしまって微笑ましく感じた。

 ほうれん草の癖と青味は少し気になる程度だが、ホワイトソースのコクと味わいであまり気にならない。そこにウスターソースをかければ、ピリッとした辛味と合わさってなんとも言えない。

 二個だなんてあっと言う間に終わってしまい、これはまた作って欲しいとエミにリクエストされた。


「さて、みのりん?」


 穫が佐和と片付けを終わらせてから、エミが話を切り出してきた。


「率直に言うわ」
「はい」
「……あの八岐大蛇ヤマタノオロチの尾と戦ってきたのよん」
「え」
「苦戦はしましたが、須佐すさが切り込んでくれたおかげで、消滅しました」
「…………」
「ええ!?」


 穫が笑也とデートをしている間に、彼らが退治してくれた。

 もう大丈夫だと分かると、穫は体の力が抜けてソファから落ちそうになった。間一髪で、咲夜さくやが抱えてくれたが。


「まだ懸念事項はあるけど~? 昨日みたいにいきなり魂を抜き取られることはないと思うわん?」
「エミ氏、懸念事項と言うのは?」


 佐和が聞くと、エミは『ふーっ』と息を吐いた。


「……あっさり過ぎたのよん」
「あっさり?」
「あたしと月詠がかけた封印を解いた癖して……地獄で戦ったのに、再生云々はあったけど須佐が草薙剣くさなぎのつるぎで斬り伏せただけで終わった。そこが……いくらなんでもおかしいのよん?」
「……俺も思った。やけにあっさりだった……と」
「だーかーらー、いきなりはないとは思ってもまだ油断出来ないわけ」


 日本の最高の位にいる神々でも、まだ確定とは言えないだなんて。

 穫を、欲しいとか言っていたあの八岐大蛇の尾と言う存在は。

 穫に、何を求めるのだろうか。あるとすれば、今も隣にいる咲夜のことしかないと思う。


「もし……」
「うん?」
「もし……私じゃなくて咲夜が狙いなら、私は渡しません! 咲夜は私の家族なんですから!」
「……穫」
「絶対、悪いことに利用だなんてさせません!」
「その意気よん、みのりん?」


 だから、穫も守られているばかりには行かないのだ。
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