104 / 168
19-5.目が覚めた(佐和視点)
しおりを挟む*・*・*(佐和視点)
目が、やっと覚めた。
どれだけ寝ていたのか、佐和は覚えていないが。体がギシギシ言うので、きっと半日以上は寝ていたかもしれない。
起き上がってみると、着ていた着物はいつ着替えさせられたのか少々ぶかぶかの男物の服を着せられていた。
これは、と思っても誰のか見当も付かず。
無事に帰って来た穫だったら自分のを着せるだろうから、誰か別か。
だとしたら、エミだろうか。神に着せ替えさせただなんて畏れ多いが、短い付き合いでも友人のような間柄になったのだから気にし過ぎてもいけない。
だが。
「……ここは、穫の部屋じゃないね?」
最上階のバーラウンジで、穫を助けるために久しぶりに離魂の術を使ってエミと向かったが。
なんとか間に合って、魂は引き戻せたが。術の反動で佐和は眠りについてしまった。そこはだんだんと思い出せたが、ここは誰の部屋だろうか。
穫や笑也の部屋ではないのは分かっている。部屋の雰囲気がどことなく、和風モダンと言う感じだからだ。シンプル派な二人の部屋とは全然違う。
「お? 起きたか?」
佐和がキョロキョロしてたら、部屋の扉が開いて。入ってきたのは、スーツ姿の巧だった。その服装から察するにコンシェルジュの仕事途中からやってきたのか。
「巧氏……僕は」
「離魂の術つこて、エミと穫ちゃん連れ帰ってくれたんやろ? その反動で寝こけてただけや。服は悪いけど、俺が適当に着替えさせたわ」
「あ……ども」
羞恥心がないわけではないが、知人となった年上の男性に着替えさせられたのは少々くすぐったかった。琴波の家は男が多いので、普段の和装を除けば幼い頃は似たような服装でいた。だから、他人とはいえ、信用している相手の厚意を無碍にはしない。
「穫ちゃんは笑也とちょいデートや。今日くらいは好きに過ごしてもらいたいしな?」
「……元気ならよかった」
「せやな? 君もやで? 俺が出来ればよかったのを、若い子に任せんのも正直言うと反対やった」
「……未熟者だから?」
「ちゃうわ。命の危険と紙一重の術なんや、出来れば使わせたくない」
「……ふふ」
彼も一応術師なのに、考え方が一般人寄りだ。それが嬉しくもくすぐったく感じた。
とりあえず、佐和の荷物はこの家に運んであるらしいので、着てきた着物ではなく簡易浴衣に着替えることになり。
ご飯は、巧もまだだったので一緒に食べることになった。
昨夜は重いジャンクフードばっかりだったからか、あっさりとした卵雑炊と味噌汁。
笑也と違って、インスタント食品ではなく手製だそうだ。
味噌汁はわかめと豆腐で、濃過ぎず優しい味わい。雑炊も食べやすい味付けで、胃に染み渡るようだ。たったそれだけの食事でも、佐和はぱくぱくと食べてしまい、思わずおかわりしてしまうほど。
「若い子はぎょーさん食った方がいいで?」
その人懐っこい笑顔に、一瞬心臓が止まりかけたが。
以前、穫に指摘された想いと言うものは一過性だと佐和は確信していた。
なのに、何故。
知り合って、まだ一年も経っていないこの年上の青年に。
ほんわかと、心が温かくなるのだろうか。
3
お気に入りに追加
67
あなたにおすすめの小説
さようなら竜生、こんにちは人生
永島ひろあき
ファンタジー
最強最古の竜が、あまりにも長く生き過ぎた為に生きる事に飽き、自分を討伐しに来た勇者たちに討たれて死んだ。
竜はそのまま冥府で永劫の眠りにつくはずであったが、気づいた時、人間の赤子へと生まれ変わっていた。
竜から人間に生まれ変わり、生きる事への活力を取り戻した竜は、人間として生きてゆくことを選ぶ。
辺境の農民の子供として生を受けた竜は、魂の有する莫大な力を隠して生きてきたが、のちにラミアの少女、黒薔薇の妖精との出会いを経て魔法の力を見いだされて魔法学院へと入学する。
かつて竜であったその人間は、魔法学院で過ごす日々の中、美しく強い学友達やかつての友である大地母神や吸血鬼の女王、龍の女皇達との出会いを経て生きる事の喜びと幸福を知ってゆく。
※お陰様をもちまして2015年3月に書籍化いたしました。書籍化該当箇所はダイジェストと差し替えております。
このダイジェスト化は書籍の出版をしてくださっているアルファポリスさんとの契約に基づくものです。ご容赦のほど、よろしくお願い申し上げます。
※2016年9月より、ハーメルン様でも合わせて投稿させていただいております。
※2019年10月28日、完結いたしました。ありがとうございました!
麻雀少女激闘戦記【牌神話】
彼方
キャラ文芸
この小説は読むことでもれなく『必ず』麻雀が強くなります。全人類誰もが必ずです。
麻雀を知っている、知らないは関係ありません。そのような事以前に必要となる『強さとは何か』『どうしたら強くなるか』を理解することができて、なおかつ読んでいくと強さが身に付くというストーリーなのです。
そういう力の魔法を込めて書いてあるので、麻雀が強くなりたい人はもちろんのこと、麻雀に興味がある人も、そうでない人も全員読むことをおすすめします。
大丈夫! 例外はありません。あなたも必ず強くなります! 私は麻雀界の魔術師。本物の魔法使いなので。
──そう、これは『あなた自身』が力を手に入れる物語。
彼方
◆◇◆◇
〜麻雀少女激闘戦記【牌神話】〜
──人はごく稀に神化するという。
ある仮説によれば全ての神々には元の姿があり、なんらかのきっかけで神へと姿を変えることがあるとか。
そして神は様々な所に現れる。それは麻雀界とて例外ではない。
この話は、麻雀の神とそれに深く関わった少女あるいは少年たちの熱い青春の物語。その大全である。
◆◇◆◇
もくじ
【メインストーリー】
一章 財前姉妹
二章 闇メン
三章 護りのミサト!
四章 スノウドロップ
伍章 ジンギ!
六章 あなた好みに切ってください
七章 コバヤシ君の日報
八章 カラスたちの戯れ
【サイドストーリー】
1.西団地のヒロイン
2.厳重注意!
3.約束
4.愛さん
5.相合傘
6.猫
7.木嶋秀樹の自慢話
【テーマソング】
戦場の足跡
【エンディングテーマ】
結果ロンhappy end
イラストはしろねこ。さん

イケメン歯科医の日常
moa
キャラ文芸
堺 大雅(さかい たいが)28歳。
親の医院、堺歯科医院で歯科医として働いている。
イケメンで笑顔が素敵な歯科医として近所では有名。
しかし彼には裏の顔が…
歯科医のリアルな日常を超短編小説で書いてみました。
※治療の描写や痛い描写もあるので苦手な方はご遠慮頂きますようよろしくお願いします。

博士の愛しき発明品たち!
夏夜やもり
キャラ文芸
近年まで、私と妹は常識的でゆるやかな日常を送っていました。
しかし、ご近所に住む博士の発明品で、世界と一緒に振り回されてしまいます!
そんなお話。あと斉藤さん。
【あらすじ】
氏名・年齢・性別などを問われたとき、かならず『ひみつ』と答える私は、本物の科学者と出会った!
博士は、その恐るべき科学力と体をなげうつ研究努力と独自理論によって、悍ましき発明品を次々生み出し、世界と私たちの日常を脅かす!
そんな博士と私と妹たちで繰り広げるS・Fの深淵を、共に覗きましょう。
**―――――
「ねえ、これ気になるんだけど?」
居間のソファーですっごい姿勢の妹が、適当に取り繕った『あらすじ』をひらひらさせる。
「なこが?」
「色々あるけどさ……SFってのはおこがましいんじゃない?」
「S・F(サイエンス・ファンキー)だから良いのだよ?」
「……イカレた科学?」
「イカした科学!」
少しだけ妹に同意しているが、それは胸にしまっておく。
「文句があるなら自分もお勧めしてよ」
私は少し唇尖らせ、妹に促す。
「んー、暇つぶしには最適! あたしや博士に興味があって、お暇な時にお読みください!」
「私は?」
「本編で邪魔ってくらい語るでしょ?」
「…………」
えっとね、私、これでも頑張ってますよ? いろいろ沸き上がる感情を抑えつつ……。
本編へつづく
*)小説家になろうさん・エブリスタさんにも同時投稿です。
💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活
XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。
エリート警察官の溺愛は甘く切ない
日下奈緒
恋愛
親が警察官の紗良は、30歳にもなって独身なんてと親に責められる。
両親の勧めで、警察官とお見合いする事になったのだが、それは跡継ぎを産んで欲しいという、政略結婚で⁉
Apricot's Brethren
七種 智弥
キャラ文芸
~あらすじ~
目覚めた時、少年は自分がどこにいるのかわからなかった。周囲は見知らぬ風景で、何の手掛かりもない。記憶喪失に陥り、自分の正体や過去のことを思い出すことができないのだ。
少年は不安と焦りを感じながらも、周囲を探索し始める。いつの間にか迷い込んだ家屋の中で、何か手掛かりを見つけることを期待しながら。
しかし、その最中に家主に発見されてしまう。驚きとパニックに襲われる中、少年は説明しようとするものの、家主は警戒心を抱いている様子だった。
男との腹を割った会話の末、少年は家主に自分の状況を説明する。記憶喪失であり、自分の正体を探しているのだと。家主は悶着の末、少年と行動を共にすることとなる。
そして少年の正体を追求するための冒険へ。彼らは様々な場所を訪れ、人々と出会いながら少年の謎を解き明かしていく。
果たして、少年Xの正体とは何なのか。彼の過去や記憶はどこにあるのか。そして、この見知らぬ世界に迷い込んだ理由とは何なのか。
少年と男の物語は、彼らの運命を変える大きな真実へと続いていく……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる