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17-5.須佐と尾(須佐視点)

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 *・*・*(須佐すさ視点)








 八岐大蛇ヤマタノオロチの、怒りの矛先が己に来るとはわかっていた。

 だから、時間稼ぎをするのも、須佐が請け負うことになっていた。

 幽世かくりよではなく、地獄。

 死者の魂が行き来する、いわばあの世で。

 八岐大蛇の本体を封印させているとは言え、完全復活させてはならない。

 だから、姉神と兄神が術を繰り出すまで、須佐が時間稼ぎをする。

 が、倒せるのなら、須佐だけでも倒したいと、対峙する前は思っていたが。

 須佐を見るなり、歪んだ表情になった時。

 須佐は、はるか昔に八岐大蛇と対峙した時のように背筋が凍った気がした。たしかに、あの時は強い酒を飲ませてから倒したのだ。今回、そのような小手先の仕掛けなど出来ない。

 尾とは言え、八岐大蛇の意思を持っている存在だ。相手も二度も引っかかるほど馬鹿じゃない。


「……来い」
「言われなくても……!」


 須佐が手にしている剣は、奴からかつて取り出した草薙くさなぎのつるぎ

 力の残滓は向こうにもあるだろうが、対抗出来る手段は須佐にはこれしかなかった。

 尾は、右手に妖力を纏わせ、剣のようにした。

 それを迎え打つと、かなりの硬度を持った剣だとわかった。どのように、封印を解除したかはわからないが、何千年も蓄積していた妖力を解放したせいか。

 神である須佐を押そうとは、少し侮っていた。


「……だが!!」


 須佐とて、神だ。

 何もせずに、姉達の日本の統治に手を貸していたわけではない。

 あの世の狭間。

 幽世かくりよの長としても。

 そして、これに狙われている、みのり達の今後の未来のためにも。

 須佐は己を巻き込むつもりで、雷光を地獄の雲から尾に向かって落とすのだった。


「が……!? はっ!!?」


 効くかどうかはわからないが、多少ダメージを受けた須佐でも少々痛みはしたが。

 直撃を受けた、尾は。

 当然焦げたのだが、ケタケタと笑っていたのだった。


「……こんなもん~? 素戔嗚尊すさのおのみこと?」


 やはり、一撃だけでは殺せないか。

 だが、今はまだ無防備。隙があったので突撃してした。

 しかし、尾も馬鹿ではないのでまた右手を剣にして、須佐の持つ草薙剣を受け止めたのだった。
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