イタコ(?)さんと神様は、インスタント食品がお好きだそうな?

櫛田こころ

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17-3.呼び捨て

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 *・*・*









 起きたら、夢かと思いかけた。

 大好きな大好きな、六つ歳上の恋人である笑也えみやが。隣で寝ていたのだ。

 だが、寝起きでもすぐに、どうしてこうなったのか思い出せた。

 昨日の、誕生日パーティー。

 そこで、下手すれば死にかけてしまったこと。

 無事に戻れたが、怖くて怖くて仕方なくて、咲夜さくや羅衣鬼らいきに連れられて。

 笑也の部屋に放り込まれる形で、押しかけてしまったのだ。だから、無性に安心出来て泣いてしまい、彼と一緒にベッドで寝ることになったのだった。


「……寝顔まで綺麗だなんて」


 天照大神あまてらすおおみかみを降ろせる、唯一の男性イタコであるから、美しくて当然かもしれないが。

 女性に見紛うくらいの造形だと言うべきか。

 彫りの深い輪郭。

 バサバサと長いまつ毛。

 柔らかそうな、薄いピンク色の唇。

 ああ、この唇には昨夜も幾度か重ね合ったかと思うと。

 思わず、みのりの顔に熱が集まった。まだ付き合いたてだし、体云々の関係ではないにしても。

 人生初の美しい男性が彼氏で恋人でもあるだなんて、真実が。嬉し恥ずかし過ぎて、両手で顔を覆った。

 だが、すぐに。初めて見る、腐海の森以外で倒れていない、笑也の寝顔に。

 美しくて、見飽きなくてじーっと見つめていたら。

 いつの間にか、近づいていて、ちょんっと唇に唇を重ねてしまった。

 自分からの拙いキスだなんて初めてだったので、さらに恥ずかしくなったが。

 離れようとしたら、穫の後ろでだらんと布団に下りていた彼の長い腕が。大きく動き出して、離れそうだった穫をガッチリとホールドしてしまった。

 ついでとばかりに、利き手では穫の顎をしっかりと固定してしまい。

 今にも、キス出来そうな距離感まで抱き寄せられ、穫はあわあわと口を上下に動かしたのだった。


「え……え、え、え、笑也……さん?」
「……くくく。結構大胆におはようのキスしてくれたのに、穫ちゃんそんなにも恥ずかしがるんだ??」


 可愛い、と言われてしまい。

 そのあとは濃密なくらい、キスをお見舞いされてしまった。

 当然、昨夜の怖い出来事が吹き飛んでしまったが。

 あまりの、笑也のテクニックに腰砕けになってしまったので。今日は一日笑也と一緒にいることになった。休日だが、穫のバイトも今日は入っていない日であるし、もともと笑也と一緒に過ごす予定でいたからだ。

 ベッドでのんびりしていると、昨夜の怖い出来事は嘘だったように思える。

 だが、あれは現実だ。目を逸らしてはいけない。


「……私、頑張ります」
「穫ちゃん?」
「笑也さん以外にも、皆さんに協力していただいたのは。呪怨の一件もありますし……弱気になってちゃダメだなって」
「無理してないかな?」
「ちょっとは……でも、今回はいつきさん達の時とは違いますが。私……がまた狙われてますし」
「……穫ちゃんは絶対に渡さないよ?」
「はい!」


 穫は笑也のものだ。それは穫とて望んでいることだ。

 もう一度、ぎゅっと抱きつくと。彼から髪に何度かキスをされた。


「……ねぇ、穫ちゃん?」
「? はい?」
「全然違う話なんだけど」
「?」
「僕ら、付き合ってまだひと月程度でも。そろそろ呼び捨てでも良くないかな??」
「え」


 笑也を呼び捨て。

 歳上の男性に対して、そんなことなんて出来なくて。

 だけど、笑也は。


「……いいでしょ、穫?」


 と、色気たっぷりに穫を呼ぶのだから。

 恥ずかしくて恥ずかしくて、穫は彼の胸の中で倒れ込んでしまい。

 徐々に、と笑也には苦笑いされたので、またいつもの呼び名に戻ったのだった。
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