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17-3.呼び捨て
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起きたら、夢かと思いかけた。
大好きな大好きな、六つ歳上の恋人である笑也が。隣で寝ていたのだ。
だが、寝起きでもすぐに、どうしてこうなったのか思い出せた。
昨日の、誕生日パーティー。
そこで、下手すれば死にかけてしまったこと。
無事に戻れたが、怖くて怖くて仕方なくて、咲夜と羅衣鬼に連れられて。
笑也の部屋に放り込まれる形で、押しかけてしまったのだ。だから、無性に安心出来て泣いてしまい、彼と一緒にベッドで寝ることになったのだった。
「……寝顔まで綺麗だなんて」
天照大神を降ろせる、唯一の男性イタコであるから、美しくて当然かもしれないが。
女性に見紛うくらいの造形だと言うべきか。
彫りの深い輪郭。
バサバサと長いまつ毛。
柔らかそうな、薄いピンク色の唇。
ああ、この唇には昨夜も幾度か重ね合ったかと思うと。
思わず、穫の顔に熱が集まった。まだ付き合いたてだし、体云々の関係ではないにしても。
人生初の美しい男性が彼氏で恋人でもあるだなんて、真実が。嬉し恥ずかし過ぎて、両手で顔を覆った。
だが、すぐに。初めて見る、腐海の森以外で倒れていない、笑也の寝顔に。
美しくて、見飽きなくてじーっと見つめていたら。
いつの間にか、近づいていて、ちょんっと唇に唇を重ねてしまった。
自分からの拙いキスだなんて初めてだったので、さらに恥ずかしくなったが。
離れようとしたら、穫の後ろでだらんと布団に下りていた彼の長い腕が。大きく動き出して、離れそうだった穫をガッチリとホールドしてしまった。
ついでとばかりに、利き手では穫の顎をしっかりと固定してしまい。
今にも、キス出来そうな距離感まで抱き寄せられ、穫はあわあわと口を上下に動かしたのだった。
「え……え、え、え、笑也……さん?」
「……くくく。結構大胆におはようのキスしてくれたのに、穫ちゃんそんなにも恥ずかしがるんだ??」
可愛い、と言われてしまい。
そのあとは濃密なくらい、キスをお見舞いされてしまった。
当然、昨夜の怖い出来事が吹き飛んでしまったが。
あまりの、笑也のテクニックに腰砕けになってしまったので。今日は一日笑也と一緒にいることになった。休日だが、穫のバイトも今日は入っていない日であるし、もともと笑也と一緒に過ごす予定でいたからだ。
ベッドでのんびりしていると、昨夜の怖い出来事は嘘だったように思える。
だが、あれは現実だ。目を逸らしてはいけない。
「……私、頑張ります」
「穫ちゃん?」
「笑也さん以外にも、皆さんに協力していただいたのは。呪怨の一件もありますし……弱気になってちゃダメだなって」
「無理してないかな?」
「ちょっとは……でも、今回は斎さん達の時とは違いますが。私……がまた狙われてますし」
「……穫ちゃんは絶対に渡さないよ?」
「はい!」
穫は笑也のものだ。それは穫とて望んでいることだ。
もう一度、ぎゅっと抱きつくと。彼から髪に何度かキスをされた。
「……ねぇ、穫ちゃん?」
「? はい?」
「全然違う話なんだけど」
「?」
「僕ら、付き合ってまだひと月程度でも。そろそろ呼び捨てでも良くないかな??」
「え」
笑也を呼び捨て。
歳上の男性に対して、そんなことなんて出来なくて。
だけど、笑也は。
「……いいでしょ、穫?」
と、色気たっぷりに穫を呼ぶのだから。
恥ずかしくて恥ずかしくて、穫は彼の胸の中で倒れ込んでしまい。
徐々に、と笑也には苦笑いされたので、またいつもの呼び名に戻ったのだった。
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