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13-3.呪怨とようやく

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 *・*・*









 何処かから、稲妻が落ちる音がした。

 けれど、空は曇天どころか晴天。

 雨も降る気配がないのに、何処から、とみのりもだが佐和さわやエミも気づいて立ち止まった。羅衣鬼らいきもキョロキョロとしてたが見つからないようだ。


「今の音!?」
「うむ。術を扱うのなら、雷鳴関係だろうね?」
須佐すさとかよりは弱いけどぉ?」
「あれでですか!?」
「んふ~? 神だもん? 人間に劣るわけないわん?」
「……そうですね」
「……うん。そうだね」


 とりあえず、いつきが呪怨に接触したかもしれない。

 それを示すかのように、何度も何度も雷鳴が響き渡るので。穫達はそちらの方角を目指すことにした。

 途中、佐和の式神が何体か戻ってきて、あの方向へと導いてくれたため。穫達は迷わず、その方角に向かう。

 殺されるかもしれない。

 けれど、自分以外の人間を死んでほしいとは思わない。

 傲慢な考えかもしれないが、穫の考え方はどうしたってただの一般人だ。斎もだが、佐和のように術を駆使する考え方は知らない。

 手にしている咲夜さくやを振るうとしても、相手を倒すのにためらいがないわけじゃないのだ。

 ただの、町にある食堂の孫娘。

 祖母に憧れて、将来の夢は食堂を継ぐ事。それまでに、好きになった学問を学ぶことが出来ればいいなと、今の大学を受験しただけ。

 だから、こんな風に学問以上に、妖怪とかなんとかに関わることになるだなんて。

 思ってもみなかった。


「みーのりん! あれよ!」


 走りながら、エミが指を向けた場所では。

 斎や水無みなし達が、黒くて大きな虎と戦っているのが見えたのだ。


「斎さん!?」


 怪我していないか、こちらからでは見えないが。

 呪怨らしいどす黒い大虎は、背中から触手のようなものを出して、斎達に攻撃をしていた。

 こんな光景が現実にあると思えなかったが。

 事実、現実だった。


「……? み、のり、さん!?」


 何故ここに、と顔に書いてあった。

 振り向いた直後、呪怨の触手が当たりそうだったので。穫は咲夜に頼んで、咄嗟に瞬間移動して。触手を振り払って消滅させたのだった。


「私を……万乗ばんじょうを苦しめてきた、呪怨!!」


 勇気だなんてこれっぽっちもない。

 今も、怖い怖いと思っているくらい小心者だ。

 だけど、誰も死んでほしくない気持ちは本当だ。


【と……つか、を持つ……お、んなぁ!?】
「そう。私! 私が食べたいんでしょ? けど、食べさせない! お前はここで倒す!!」
「当然よん。みのりん!」
「僕も援護する!!」


 ひとりじゃない。

 支えてくれる人達がいるから。

 立ち向かえるんだ、と。咲夜に教わりながらつるぎを振るった。
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