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12-3.血の導き(月詠視点)
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広がる、広がる。
血潮に、血潮。
数多の人間達が屠られていく。
月読命である月詠は、ビルの屋外から地上を見下ろしていた。
「……これは、想像以上に侵攻していますね」
呪怨の気配がしたので、街にやってきたらこの有様だったのだ。別で調査している弟神にはまだ知らせていないが、おそらく察知はしているはず。
姉神であるエミも、なんらかの方法で知ってはいるだろう。少し距離はあるが、彼女と穫、あと佐和の気配もしたから。
「……かつて、これまでに呪怨の被害を受けた報告は」
冥府の神でもある月詠は、地獄の長である閻魔大王とは別次元で管理を任されている。
戦乱の世ならともかく、戦のない現世でここまで被害が出たことがあったか。人災なら幾度かあったが、怪異などはほぼない。
考えながらも、閻魔大王経由で地獄から通知リストをダウンロードする形で情報を共有しているが、なかなかヒットしなかった。
となると、ここ百年近くは、呪怨は呪怨として活動を休止していたとわかる。
何故だ。
「……閻魔大王、送っていただいたリストはたしかですか?」
【ええ、戦時中ならともかく。今こちらに送られてきている死亡件数は……魂まで吸収されているため、数しかわかっていません。呪怨を完璧に倒さない限り、それらの魂も幽世には来られないでしょう】
「……わかりました。厄介ですね?」
念話でのやり取りをしながら、リストを見ても特に変わらず。
しかも、死者を導くための通路も、魂を呪怨が喰っているので回収出来ないのは本当に厄介だ。
人間達の刑罰はともかく、導けなければ輪廻転生なども叶わない。
閻魔大王との念話を終えてから、月詠はビルから地面に瞬時に降り立ち、腰に佩いていた剣を抜いて、空高く掲げた。
「この者らの魂を導け。我に呪怨の元へと導け」
剣が淡い青に光り、血溜まりになっていた箇所がどんどん血を剣に向けて集結したかと思えば、一本の糸のようになって。
一直線になって、空に目掛けて伸びていく。
はじめからこの方法をしなかったのは、死人の血でしかこの術は使えないからだ。
「……あなた達の魂が消滅する前に、救い出します」
適材適所。
月詠は己が出来ることをするのみ。
呪怨を直接手に掛けるのは穫の役割だから、それはしないが。でないと、万乗の直系に呪詛返しをさせてしまうからだ。
穫の、願いだから。
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