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12-2.和解していたら
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斎が泣き止むまでは、しばらく時間がかかった。
巧が佐和を連れて来るまでずっと。まるで、子供のように。
でも、それくらいの重責を、彼女はずっとひとりで背負ってきたかもしれないのだ。
「……ふむ。何やら、和解? しあったのですかな? 巧氏?」
「俺に聞いても分からんで? 案内した以外はフロントにおったし」
「ほーほー? エミ氏、伺っても?」
「んふ~? みのりんが、こいつのこころのしこりをとっちゃったのよん」
「ほー?」
「ま、穏便にコトが運びそうなん?」
あんまり穏便とは言い難いが、まあ、概ね言い合うことはほとんどなかった。
エミが斎から、本音を引き出して。穫が当主の座などいらないと突っぱねただけだ。あとは、斎が安心し切ったからか、ずっと泣いている状態。
だが、それもずっとは続かず。
やがて泣き止んだ斎の顔は、目が腫れに腫れまくっていた。せっかくの美人が台無しになってしまっているが、歳上なのに可愛いと思ってしまう。
「とりあえず、蒸しタオル作りましょうか? エミさん、洗面所とタオル借りますね?」
「いーいわよん?」
なので、斎を連れて洗面所に向かい。軽く顔を洗ってもらっている間に、給湯ポットでさっさと蒸しタオルを作って。
いい温度になったら、彼女の目に当てさせた。
「……ごめんなさい。私、泣き虫で」
泣き続けてたせいで、声も少し枯れていたが落ち着いてきたようだ。
「大丈夫ですよ? むしろ、ちょっとほっと出来ました」
「……ほっと?」
「おばあちゃんから直接聞いたわけじゃないんですが。失礼ですけど、もっと酷い人だと思ってましたし」
「でも。実質あなたに酷い目に遭わせたわ」
「はい。けど、笑也さん達に出会えたきっかけになりました。咲夜……あ、十束剣ですけど、彼女の封印も解けました。だから、いいんです」
「……達川さん達をそれだけ信頼しているのね?」
「はい」
さすがに、彼が好きかもしれないと言うことまでは言えないが。
「……私も。万乗の当主として、色々英才教育とかさせられてきたわ。そして、私達に付き纏う呪怨の影に日夜怯えてて。でも、最近。近くにいてくれている人に気づいたの。ちゃんと私を曝け出してもいいんだって」
「良かったですね」
「……本当に。けど、呪怨の狙いはあなたに集中してしまっているわ、穫さん。私も術師としてあいつを倒そうとは思ってる」
ホットタオルを取った斎の表情は。まだ目元が腫れていても、しっかりとしたひとりの大人の女性になっていた。
「……はい。ありがとうございます」
またひとつ、手を取り合うことが出来た。
それだけでも、十分に嬉しい。
次にアイスタオルを作って渡そうとした時に、リビングの窓から大きな音が聞こえてきた。
「なんや!?」
「なんなんだい!?」
「……誰、あんた」
騒がしいので、斎とリビングに戻ったら、窓をすり抜けて入ってきた人物がいた。黒ずくめで、顔は目以外全然わからない誰か。
「……水無!」
斎の知り合いのようだ。
「……大変です。斎様!」
水無と呼ばれたのは男性で、渋めの声だった。
斎が彼の近くに行くと、すぐにひざまずく体勢になった。
「何? まさか呪怨が!?」
「はい。血と肉に飢えて、街中の人間を無差別に喰っています。こちらに向かってくるかは、由良とも確認は取れていませんが……」
「…………倒しましょう」
「斎様!?」
斎は強く手を握っていた。きっと、決意が硬いからだろう。
けど、どれだけ強いかわからなくても、死にに行っては欲しくなかった。
「ダメですよ!? 斎さん、死んじゃうかもしれないです!」
「けど、万乗当主……いいえ、ひとりの人間として見過ごせないもの。水無、連れていきなさい」
「……わかり、ました」
穫の言葉では、彼女の決意を止められず。
エミも止めようとしないので、二人を見送ることしか出来なかった。
穫は、せっかく和解出来た彼女を止められなかったことに、ラグマットの上で膝をついた。
「穫、僕はまだ出会ったばかりだけど」
佐和が、穫の髪を撫でてくれた。
「彼女は、死にに行くつもりはないと思うよ? 当主として、率いる人間らしく立ち向かいに行ったと思う」
「そうよん、みのりん?」
エミが佐和とは違う箇所を撫でてくれた。
「因縁対決に自ら向かうくらいだもの。みのりんはどーする?」
問いかけてきた。なら、と穫もゆっくり立ち上がることが出来た。
「私も行きます! 斎さんもですが、これ以上誰も死なせたくないです!」
「おぅけぇい! さわちんはどーするん? ここまで来たら」
「僕も行きますとも! 術師はひとりでも多い方がいい!」
「じゃ、あ~?」
靴だけ履いてと言われ、準備が出来たらエミの指パッチンでどこかへ瞬間移動させられたのだった。
巧は戦闘には不向きな術師らしいのでお留守番である。
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