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11-2.当主と対面
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翌日。
いよいよ、万乗の本家、しかも当主に会う日。
笑也の部屋で会うことになっているので、穫は笑也や咲夜達と一緒に掃除をして。
紅茶やコーヒーもインスタントじゃなくて、ちゃんとしたものを道具も込みで購入してから練習もして。エミにも合格点をもらって、巧から内線が来るまで緊張して待っていたら。
内線の合図の音が、部屋に小さく響いた。
「僕が出る?」
「……お願いします」
家主は笑也なのに、今日の主役が穫だからか笑也は気遣ってくれた。
彼が巧にフロアから通すようにお願いしてから、数分後。
インターフォンが鳴り、そちらにも笑也が対応してくれて。いよいよ、万乗の当主との対面になる。
リビングでずっとソファに座っていたが、さすがにダメだろうと笑也が行ってから立って待っていたら。
笑也が戻ってきた。
「穫ちゃん、お待たせ。さ、どうぞ」
笑也が中へと促した相手は。
つい先日、街中で肩をぶつけてしまったあの女性だった。
思わず、大声を出しかけたので口を両手で覆ってしまうくらい驚いてしまい。
あちらには、変な印象を与えたかもしれないが。変な表情どころか苦笑いされてしまったのだ。
「……改めて。はじめまして、穫さん。当主の斎と言います」
「はじめ……まして」
綺麗な所作でお辞儀した斎と言う女性は。
見ただけだと、本当に酷い人だなんて思えなかった。
だって、平凡でしかない穫にも腰を折ってくれたのだから。
「先日は……たまたまだったんです。少し私用で出かけていて、あなたと接触したのも」
「積もる話は長いでしょう? 穫ちゃんも、斎さんも」
「あ、わ、私飲み物淹れてきます! 斎……さんはコーヒーと紅茶、どちらがいいですか?」
「え……ええ。せっかくだから、コーヒーを」
「わかりました」
咲夜と羅衣鬼はまだ顕現しない。咲夜は自分のタイミングで出ると言ったからだ。羅衣鬼も同じく。
キッチンに行くと、指が小刻みに震えているのがわかった。緊張を通り越して、恐怖を感じたからかもしれない。
あの美女が、祖母の願いを振り払っただなんて。ぶつかった時も、優しそうな女性だと思っていたのに。
憶測と現実、どちらが本当か。
佐和の言った二択のどちらかなのか。
わからなくて、手が、体が震えてしまっているのだろう。
佐和は、少し所用があるので遅れるとメールで知らせがあったので、まだいない。
穫は深呼吸をしてから、ぱんっと自分の頬を軽く叩いた。気力をたしかなものにするために。
コーヒーを人数分淹れて、佐和の分をガラスポットに残してから専用のホットウォーマーに設置してからリビングに戻ると。
斎と笑也は何も話していないのか、ソファに座ったまま無言でいた。
笑也は穫がトレーを手にして戻ってきたら、綺麗な微笑みを浮かべてくれた。
まだ淡い気持ちかもしれない恋心に、少し火がついた気がした。
「ありがとう、穫ちゃん」
「いえ。お待たせ致しました」
笑也から順にカップを置くと、斎はまだ苦笑いに近い微笑みで礼を言ってくれた。
そして、穫が彼女の向かいの席に座ると。すぐに深く腰を折ったのだった。
「穫さんには……あなたのご家族に、多大なご迷惑をおかけして申し訳ありませんでした!」
「……え?」
「…………」
いきなりの謝罪。
それが来るとは思わなかったので、穫はすぐに受け止めることが出来ず。
未だ腰を折ったままの斎から目を離すことしか出来なかった。
笑也は、エミにもならず、黙ったままだったが。
「万乗にまつわる因縁をひとりで背負わせてしまい、あなたのおばあ様からの懇願も振り払ってしまって……! 本家の現当主として、深くお詫びします!!」
まだ謝罪が続く。
これは、斎の本心なのか建前なのか穫には訳がわからず。
少し放心していると、笑也の方が動き出したのだった。
「我が身に降ろせ、高天ヶ原の御神。魅入られ、魅入る国津神の御許」
呪文のような、詠唱のように言葉が少しずつ紡がれ、声が高くなっていく。
「我が身に降ろせ、万物の象徴。全てを見通せ、遍く星の声。────さあ、我が身を見よ」
斎の目の前で、イタコの降霊術を披露して。
天照大神こと、エミが仁王立ちで斎の前に立ったのだった。
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