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11-1.焦燥
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世間では、不可解な事件が多発していた。
無差別殺人事件として。
おそらく、呪怨が無関係の人間を喰らっているからだろう。
テレビなどでその情報を知った穫は、どうしたらいいのかわからなかった。
あれから、笑也達が呪怨の根城を調べるのに、エミや須佐達と奮闘しているのは知っている。
けれど、死傷者は減るどころか増えている。
何か、何か手立てがないのか。
焦ってしまうが、分身すら寄越して来ない呪怨の手がかりを探そうにも。素人の穫では何も出来ない。
一度、佐和にも相談に乗ってもらおうとしたが。
「やめたまえ、穫」
大学のゼミが終わった時を見計らって、彼女の好きなカフェラテを奢ってから切り出したのだが。
「ダメ……かな?」
今回も空になってからのゼミ室に、穫の小さな声が響いたのだった。
「絶対ダメとは言い切れないが、君はまだこちらの界隈に足を突っ込んだ程度だ。咲夜氏と羅衣鬼氏がいたとて、万全とは言い難い。この前の覚醒も一時的なものだったようだしね?」
「うう……出過ぎた考えかなあ?」
「いいや? 勇猛果敢な勢いを僕は止めやしないよ? とは言え、僕も本番は手伝えないからね?」
「……うん」
ただでさえ、死傷者が出ているのだ。佐和も術師の端くれでも、プロよりはアマチュア寄りらしい。
術もほとんど、素質を見抜かれて本家に連なる先輩に習った以外は独学が多いようだ。この前のあれだけでも凄いとは思うが。
「しかし、万乗の当主とも会うのが明日になったんだ。まずは、向こうの出方がどう来るか心配した方がいいよ?」
「……それもだけど」
そう、明日。
土曜日に、笑也の自宅に万乗の当主が来る予定となっている。
笑也に聞いたところ、随分と昔に彼は万乗の現当主と面識があったらしいが。うっすらとしか覚えていないようで、女性としかわかっていないそうだ。
その当主が、穫の祖母の願いを振り払った。
それについては、怒ると言うか腑に落ちないな気分になるだけ。
何故、祖母からの願いを突っぱねたのに。今になって穫の方に接触をしようとしているのか。
そこがわからないのだ。
「僕の予想のひとつとしては、だね?」
気落ちしていると、佐和がカフェラテのコップを傾けた。
「予想?」
「そう、予想。腐った考えの持ち主なら、穫を本家に引き込んで囲う生活をさせるかもしれない」
「え?」
「術師はね? 僕の方の本家はだいぶマシになったけど、自分達の血筋に光り輝くものがあればそれを持続させるためになんだってしようとするんだ。これは、僕の師匠から教わったんだけどね?」
「そんな……私、監禁されるかもしれないの?」
「可能性の一つだ。もしそうだったら、僕もだけど達川の次期当主である達川氏が、黙っているはずがない」
万乗と達川なら、達川の方が界隈では力を持っているらしい。その次期当主である笑也に保護されているのなら、決定権は笑也が持っていて当然。
だから、心配しなくていいと、佐和は言ってくれた。
「……ありがとう」
「まあ、実は正反対に誠実な人間だったら拍子抜けしちゃうかもしれないけどね?」
「……そんな人かなあ?」
「当主でも家に縛られて発言しにくい立場かもしれないからね? 君のおばあさんの意見を振り払ったのも、そう言った理由があるかもと想像だけなら出来るさ」
とりあえず、明日対面してきちんと話し合おうと、佐和は言ってくれたので。
穫も、まずは目の前の目標をひとつずつ解決していこうと気持ちを切り替えた。
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