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10-1.決断(斎視点)
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最悪の事態になった。
「……呪怨が、無差別に人間を食べている?」
側仕えである、水無と由良からの報告に。斎は二人の前だからこそ、椅子からずり落ちてしまった。
「斎様!?」
完全にラグの上に膝をついた斎に、水無はまだ慣れないのか。少し取り乱しながらも、斎に駆け寄ってくれた。
「だい……じょうふ」
「ですが」
「斎様、紛れもない事実です。警察などは無差別殺人事件として扱っているようですが」
「……そうね。万乗として、私達も動かなければいけない」
若い当主として。
結界師の長として。
本家として、見過ごすわけにもいかない。
分家の少女自身の方が辛いのに、斎一人が弱気になってもいけないのだ。
二人にも手伝ってと言えば、二人とも瞬時に跪いてくれた。
「「なんなりと」」
「思うのだけど。本家の長として、あの穫と言う少女に会うのはダメかしら?」
「あの女に?」
「謝罪で済むか分からないけれど、彼女に事実上一任させてしまっているもの。彼女の祖母には一度拒否してしまったけど……」
あの時は、今みたいに心の余裕がなかった。
呪怨による血の呪いを受けているのは自分だけと思っていたのに。
実際は、穫が一人で引き受けていたのだ。金剛刀の所持者であるが故に、何もかも一人で。
今は、達川の人間に助けてもらっていても、放っておく理由にはならない。
いずれ、呪怨を倒した反動で斎の命が潰えることになろうとも。
「我らはどこまでも」
「貴女様のご意向に従います」
「ええ。達川の当主にも、謝罪しなくてはいけないわ」
過去、一度だけあの青年には会ったことはある。
稀代の当主の中で、男なのにイタコの素質がある存在。
そんなことがあっていいのか、と斎は昔思ったが。まさか、今こちらの分家の人間と関わることになろうとは。
謝罪どころか、平伏しなければいけないかもしれない。
とにかく、アポイントを取らなくては。と、あのマンションの管理を任されている六条の人間に、由良に連絡をさせた。
水無の場合、口が悪いからだ。いい人間であるのは、斎もよく知っているが。
「……今週末、ならと」
「では、手土産に。……私が作りましょうか」
「斎様が手ずから!?」
「あら、水無。私の趣味はお菓子作りよ?」
年相応の趣味だが、あまり長としてはいい印象を持たれていなかった。
けれど、今役に立つのなら。
それを厭わない、と斎は喜んで自分専用の台所に向かうのだった。
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