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9-3.穫の決意

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 *・*・*







 笑也えみやから話があると言われた。

 夕飯のリクエストにしては、少しおかしいと思った。エミからのリクエストなら、多分LIMEのメッセージで送れば済むものなのに。

 まさか、呪怨に関係することだろうか。


みのり~! 講義終わったかい?」


 少し考え込んでいたら、佐和さわが合流してきた。


「あ、うん。笑也さんからメッセ届いてきて」
「うん? 達川たちかわ氏が?」
「お話があるんだって」
「ふーん。穏やかな内容ではないかもしれないねえ?」


 やはり、佐和もそう思ってくれた。

 つい昨日の襲撃の事もある。もしかしたら、万乗ばんじょう全体に何かあったかもしれない。

 宿っている、咲夜さくやからは何もアクションはなかったが。とりあえず、佐和も行くと言ってくれたので、メッセだけ笑也に送ってから帰宅したのだが。

 何故か、笑也は部屋の端で丸まっていて。

 エミから、終始ツンツンと肩を突かれていた。


【あんら、おかえり~? さわちんはいらっしゃーい】
「た、ただいまです」
「お邪魔します。……達川氏、どうしたんです?」
【ちょっとね~? たくみ~? みのりん達帰ってきたわよ?】
「おー」


 笑也は放っておいていいのか、キッチンにいるらしい巧を呼ぶと。彼は、何か料理をしているのかと思えば、ケーキを人数分持ってきてくれたのだ。

 ケーキと言っても、昨日買い出しの際に買ってきたホットケーキミックスで作ったと思われるパンケーキだったが。

 それでも、綺麗な焼き目だった。


「ありがとうございます」
「おお! ホットケーキ?」
「一応パンケーキやで? とりあえず、穫ちゃん。咲夜と羅衣鬼らいきも出して?」
「? はい?」


 頼まれたので二人を顕現させれば、うじうじしていた笑也も回復したのか。ソファに腰掛けたかと思えば、いきなり深々と腰を折ったのだ。


「ごめん、穫ちゃん!」
「え……はい?」
「万乗の人間じゃないんだけど、あの呪怨のせいで死人が出ちゃったんだ!!」
「……え?」


 死んだ。

 誰かが死んだ。

 万乗の人間ではないけれど。

 その事実が、すぐ頭に入って来ず。意識が遠のきかけたが、隣にいた咲夜にすぐに抱きかかえられた。


「気をしっかり持て、穫!」
「け……ど、さく、や」
「たしかに、目を逸らせれない事実だ。だが、穫が悪いことはひとつもない!!」
「そうだぞ、穫!」


 羅衣鬼も叫びながら、穫に抱きついてきた。

 すると、さらに空いている肩の方に誰かが抱きついてきたのだ。


「そうだとも、穫? 君は何も悪くない。金剛刀こんごうとうの所持者と言う理由だけで、呪怨は君を狙っているとは聞いたが。あれは意思を持った呪いだ。自分勝手で動き回っているんだ。言い方が悪いが、今回が最初じゃないだろう。ああ言うのは、人間と違った思考回路の持ち主だからね?」


 佐和が、穫に抱きつきながら教えてくれた。

 たしかに、あの呪怨は自分の意思を持っていた。エミに問いかけるなどの自我を持っていたし、穫を付け狙ってもいた。であれば、弱った隙に畳みかけなければ、今回以上の被害が出るかもしれない。

 なら、と。穫は首を縦に振った。


「笑也さん」
「? うん?」
「あれを退治するのに。万乗の本家さん達に迷惑をかけない方法、教えてもらえませんか?」
「穫ちゃん?」
「これ以上被害が出ないためにも、終わらせたいんです!」


 たとえ、今回が終わっても。万乗の人間の未来はわからない。

 祖母が頑張ってくれたように、子孫達にどう繋がるかもわからない。

 だけど、今ここで祖母の頑張りを無駄にはしたくない。死人もこれ以上出したくない。

 その決意を告げれば、笑也もだが浮いているエミも表情を変えて頷いてくれた。


「わかったよ、万乗穫さん」
【あんたの願い、我らが協力しましょうか?】


 呪怨を消滅させるために。

 穫は決意を固めるのだった。

 その後、冷めてしまった巧のパンケーキはとても美味しかった。
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