イタコ(?)さんと神様は、インスタント食品がお好きだそうな?

櫛田こころ

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8-4.達川笑也②(笑也視点)

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 *・*・*(笑也視点)









 二十数年前。

 笑也えみやは、イタコを輩出することで名の知れた達川たちかわ家の宗家の家に生まれた。

 誰もが、長男の誕生に喜びの声をあげたのだが。笑也は弱かった。

 霊力と魂は、歴代の達川の人間としては強大だったのだが。

 得た肉体だけが、とてもか弱くて。このままでは十歳もいかない年頃で死ぬかもしれないとまで、医者に宣告されたのだ。

 ただの人間だったら、そこで諦めるはずだが。達川は霊能者、しかもイタコの家系だ。古い呪法を知っていて当然。

 だから、笑也を『エミ』と言う少女として。女としてしばらく育てることになった。より良い肉体に成熟するまでの、性別を偽る呪法。

 だから、髪も服もすべて女のもの。

 そのせいで、笑也は物心ついても自分が女だと信じて疑わなかった。

天照大神あまてらすおおみかみ』に出会うまでは。


【ふ~ん? あんたが、達川の?】


 ほんの少し。

 ほんの少し、庭で遊んでいた時に。宙に浮いている『おねえさん』がいたのだ。見鬼けんきの才はもともとあったが、幽霊や神様をそれまで視てこなかったのだ。

 必要以上に身体が弱く、霊力に当たれば体調をすぐに崩す程か弱かったために。両親や使用人達から、その類のモノから引き離されていたのだ。

 たとえ、降ろす神であれど。


「お、おねえさん、だれ……?」
【あら? あたしのことも知らされてないの?】
「?」
【あたしは神様。あんたのお母さんが依代……えーっと、身体を借りて動くことが出来るのよ?】
「か……みさま?」
【そうそう。神様】
「わ、たしになにか?」
【あんた、男なのに『わたし』って使うの?……あー、その格好】
「お、とこ?」
【ほんとよ? あんたは女じゃない】
「え、え?」


 意味がわからなかった。

 それまで、本当に『女の子』と信じて疑わなかった人生を送っていたから。

 突然の言葉に、笑也の頭の中はわけがわからないと動かなくなった時に。

 母が、庭にやって来たのだった。


「エミー、エミー?」
「お、かあ……さん」
【あら、珠緒たまお?】
「……何故、大神おおみかみが」
【あんたの息子を見によ?】
「大神、それは!?」
【もう遅いわ。さっき、教えたとこ】
「……そう、ですか」


 地面に膝をついた母親に、笑也は慌てて駆け寄った。

 笑也が来ると、母親はすぐに笑也を抱きしめてくれた。


「お母さん?」
「ごめんね、エミ。いいえ、笑也。あなたの身体が弱いから、お母さん達は逆にあなたを女の子として育ててたの」
「わ、たし……男の子、なの?」
「そうよ。けど、まだ我慢してね? 絶対強くなるから」
【それだけじゃ、不十分よ。珠緒】
「……大神?」


 天照大神の言葉に、母親もだが笑也も彼女に振り返った。


【稀有なのよ。あんたの息子は】
「……と言いますと?」
【男なのに、あたし達神々を降ろせる素質があるわ。将来、あんた以上のイタコにもなれるくらいに】
「笑也が……?」
【試しに、やってみる?】
「けど、今のこの子では」
【笑也、あんたはどう?】
「大神!」
「わ……たしは」


 ずっとずっと、弱かった。

 体が思うようにいかず、友達も出来なかった。

 だけど、それが変わるので有れば。

 笑也は母親から離れて手を差し伸べていた天照大神に、自分の手を重ねた。

 当時、まだ五歳。

 最年少であり、しかも男のイタコが誕生した瞬間だったのだ。

 そこからは、しばらく女児としての呪法も続けながら。定期的に天照大神を降ろすことによって、身体に神力を巡らせて力をつけさせて。

 六条ろくじょうの家や他の分家とも交流をするようになった年頃に、たくみと出会えたのだった。
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