44 / 168
8-1.ひとときの休息
しおりを挟む*・*・*
片付けをしてからしばらくして。
穫の脱力し切った体力も元に戻り。
今日は宅配にしようと、エミがスマホでささっと注文してくれたのが。
「宅配とかは、ピザとかジャンキーな食べ物よねぇ?」
ほとんどエミの一存で決めたので、チーズは増し増し。サイドメニューは骨無しチキンとフライドポテト。
野菜は、と思ったが一応シーザーサラダが申し訳程度にあるだけだった。
「おお!? 豪華だね!!」
佐和もこう言うのは好きなのか、目を輝かせていた。
「さわちんもたっくさん頑張ってくれたから、ここは奢りよん?」
「では、有り難く」
「咲夜と羅衣鬼もいいわよん?」
「「御意」」
と言うことで、早い夕飯というか、エミにとってはおやつ感覚かもしれないが。
全員でいただきますをしてから、食べ始めた。
「ん~~~~!! みのりんのチーズ増し増しのも美味しかったけど。たまにはいいわねぇ?」
自分の、と言うか正確には笑也の奢りなのだが、エミは遠慮せずにぱくぱくとピザを食べていく。
羅衣鬼は初めて食べるので、チーズの伸びに驚いていたが。小さな身体に戻った今は一生懸命に食べていた。
「? この肉みたいなのは、素手で?」
「そうだとも、咲夜氏。素手でガブっと」
「…………!?」
佐和に教わった方法でかぶりつくと、すぐに咲夜はほっぺを赤くしたのだった。
穫も冷凍食品以外で久しぶりに食べる宅配だったが、エミのセレクトは外れじゃなかった。
チーズ好きには堪らない味付けであるし、シーザーサラダも宅配のなのに美味しい。
ぱくぱくと食べ終えてから、それぞれにコーヒーやカフェオレを淹れてあげたのだった。
「エミ氏。穫を付け狙うあの化け物は、まだ本体でやって来ないのだろうか?」
カフェオレを飲んでる佐和が、唐突に言い出した。
「そうねん? 分身をこれで三回くらい飛ばしてきたから……いい加減くすぶっているはずだわ。近いうちに来そうねぇ?」
「僕も琴波として手伝えないでしょうか?」
「協力はありがたいわ。けど、さわちんは大学内メインでみのりんを守ってあげて?」
「その根拠は?」
「あたし以外にも、弟達もいるから。あいつらの攻撃に必要以上に巻き込まないためねん?」
みのりんは当事者だから避けられないけど。
と、エミが言うので、佐和はこくりと頷いた。
「了解した。天照大神の弟神と言われば……天の三神とも言われる素戔嗚尊と月読命。この御二方がいらっしゃるなら、僕は必要ないでしょうね?」
「さわちんも、結構面白い術を使うけどねえ?」
「はは。恐悦至極」
今日はたまたまだったが、いくら佐和が強くても神様には敵わない。
その神様であるエミ達も、穫が誰も死なせたくないと言うお願いで依頼を進めているのだ。
月詠の最初の発言なら、死者を出していいのなら容易に片付く問題だったが。
たとえ、見ず知らずの親戚が関わっても。穫が死んでもいいとされていても。
穫は、誰にも死んでほしくなかったのだ。傲慢な願いかもしれないが。
「……穫。魂が揺れている」
「え?」
食べる手を止めていたら、咲夜がその手に自分の手を重ねていた。
「……何か気がかりなことがあるのか?」
「穫?」
「みのりん?」
エミ達にも気づかれたようで、穫は渋々話すことにした。
「自分勝手かもしれないですけど。やっぱり、呪怨のせいで誰にも死んでほしくないんです!」
力強く言えば、誰かにぽんぽんと頭を撫でてくれた。
顔を上げれば、エミが笑顔で立っていたのだ。
「言ったでしょ? みのりんの願いのために、笑也はきみと契約したのよん? だから、その気持ちのままでいいの!」
「エミさん……」
すると、真正面から羅衣鬼が飛びついてきた。
「俺だって、穫に死んで欲しくない! だから、穫もわがままになっていいんだ!」
「……羅衣鬼君」
「いいんだよ、穫。僕だって、いきなり知らない誰かが自分のために死んでもらっても嬉しくないからね?」
「佐和ちゃん……」
佐和もぽんぽんと肩を撫でてくれた。咲夜は羅衣鬼ごとぎゅっと抱きついてきて、皆と同じように言ってくれた。
「たしかに。今の万乗の大半は私の知る万乗ではない。だが、穫だから私は選んだのだ」
そして、羅衣鬼が潰れる寸前まで、咲夜はしがみついていたのだった。
20
お気に入りに追加
67
あなたにおすすめの小説

溺愛パパは勇者!〜悪役令嬢の私のパパが勇者だった件〜
ハルン
恋愛
最後の記憶は、消毒液の匂いと白い部屋と機械音。
月宮雫(20)は、長い闘病生活の末に死亡。
『来世があるなら何にも負けない強い身体の子供になりたい』
そう思ったお陰なのか、私は生まれ変わった。
剣と魔法の世界にティア=ムーンライドして朧げな記憶を持ちながら。
でも、相変わらずの病弱体質だった。
しかも父親は、強い身体を持つ勇者。
「確かに『強い身体の子供になりたい』。そう願ったけど、意味が全然ちがーうっ!!」
これは、とても可哀想な私の物語だ。
お嬢様と執事は、その箱に夢を見る。
雪桜
キャラ文芸
✨ 第6回comicoお題チャレンジ『空』受賞作
阿須加家のお嬢様である結月は、親に虐げられていた。裕福でありながら自由はなく、まるで人形のように生きる日々…
だが、そんな結月の元に、新しく執事がやってくる。背が高く整った顔立ちをした彼は、まさに非の打ち所のない完璧な執事。
だが、その執事の正体は、なんと結月の『恋人』だった。レオが執事になって戻ってきたのは、結月を救うため。だけど、そんなレオの記憶を、結月は全て失っていた。
これは、記憶をなくしたお嬢様と、恋人に忘れられてしまった執事が、二度目の恋を始める話。
「お嬢様、私を愛してください」
「……え?」
好きだとバレたら即刻解雇の屋敷の中、レオの愛は、再び、結月に届くのか?
一度結ばれたはずの二人が、今度は立場を変えて恋をする。溺愛執事×箱入りお嬢様の甘く切ない純愛ストーリー。
✣✣✣
カクヨムにて完結済みです。
この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません。
※第6回comicoお題チャレンジ『空』の受賞作ですが、著作などの権利は全て戻ってきております。
俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない
亮亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。
不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。
そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。
帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。
そして邂逅する謎の組織。
萌の物語が始まる。
異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜
KeyBow
ファンタジー
間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。
何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。
召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!
しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・
いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。
その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。
上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。
またぺったんこですか?・・・

二つの願い
釧路太郎
ホラー
久々の長期休暇を終えた旦那が仕事に行っている間に息子の様子が徐々におかしくなっていってしまう。
直接旦那に相談することも出来ず、不安は募っていくばかりではあるけれど、愛する息子を守る戦いをやめることは出来ない。
色々な人に相談してみたものの、息子の様子は一向に良くなる気配は見えない
再び出張から戻ってきた旦那と二人で見つけた霊能力者の協力を得ることは出来ず、夫婦の出した結論は……

陰の行者が参る!
書仙凡人
キャラ文芸
三上幸太郎、24歳。この物語の主人公である。
筋金入りのアホの子じゃった子供時代、こ奴はしてはならぬ事をして疫病神に憑りつかれた。
それ以降、こ奴の周りになぜか陰の気が集まり、不幸が襲い掛かる人生となったのじゃ。
見かねた疫病神は、陰の気を祓う為、幸太郎に呪術を授けた。
そして、幸太郎の不幸改善する呪術行脚が始まったのである。
致死量の愛と泡沫に+
藤香いつき
キャラ文芸
近未来の終末世界。
世間から隔離された森の城館で、ひっそりと暮らす8人の青年たち。
記憶のない“あなた”は彼らに拾われ、共に暮らしていたが——外の世界に攫われたり、囚われたりしながらも、再び城で平穏な日々を取り戻したところ。
泡沫(うたかた)の物語を終えたあとの、日常のお話を中心に。
※致死量シリーズ
【致死量の愛と泡沫に】その後のエピソード。
表紙はJohn William Waterhous【The Siren】より。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる