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7-4.泣く当主(水無視点)
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なんだったのだ、今のは。
今日も、呪怨の気配があったので、あの穫と言う女のところに向かったが。その放った呪力。
呪怨の分身を相殺したどころか、本体にまで影響を与えたらしく、マンションから離れる呪怨の気配が少し弱く感じたくらいに。
「……そんなけ、金剛刀の宿主だから。強いのかよ?」
これまでは、ただの見鬼の才しかなかった女が。
確実に、着実に、力を身につけている。
しかも、今日知ったが友人か知人なのか。あの安倍家の傍流の傍流とは言え、界隈では名の知れた術師である琴波佐和までいるとは。
何故、あの女は恵まれているのだ。
万乗の当主とは違って、何故。
「……強いですね。ですが、我々に降りかかる呪いを一挙に引き受けているのは、彼女自身ですよ」
いつ来たのか、由良が隣に立っていた。相変わらず神出鬼没だ。
「……そうだけどよぉ」
そうだ。
本来なら、万乗一族全体に降りかかる呪いを。金剛刀を所持している穫が一挙に引き受けている状態だ。水無達は幸運なくらい、被害に遭っていない。
妬むのは簡単だが、それまで苦労してきた穫を思えば、本当に幸運も幸運だ。
妬む意味もないくらいに。
「しかし、同級生に琴波が関わっていたとは。今回の件で、穫とは親友のような間柄になったようですし。下手すれば、私達の出番はありません。穫もさらに目覚めたようですから」
「……胸糞悪りぃけど。認めるしねーのかよ」
今まで出来なかった、呪力の解放。
当主に匹敵するかあるいはそれ以上。
加えて、安倍の流れを汲む術師とイタコで名を馳せている達川の強力なバックアップ。
水無達の出番はないに等しいだろう。
ならば、今回も当主に報告するまで、と。とりあえず邸に戻れば。
当主は、部屋でぼんやりと外を眺めているだけだった。
「「戻りました」」
水無達が部屋に入ると、当主はゆっくりと顔をこちらに向けてくれた。
「……どうだった?」
声がいつになく、覇気を感じさせないものになっていた。前回、水無達が確認に行って帰還した時よりもさらに。
「申し上げます。穫の呪力の一部が解放され、金剛刀をさらに強く扱うことが出来るようになりました」
「……協力者には、琴波も加わりました」
「…………そうか」
それ以上、当主は何も言わずに二人に下がるようにと手で指示し。
水無はまた当主が心配になったので、扉の前で待機していたのだが。
少しして、中で泣く声が聞こえたので。思わず開けてしまうと。
泣き腫らしていた、当主が。
年頃の少女のように、泣きじゃくっていたのだった。
「み……な、し……?」
水無と目が合えば、当主は瞬時に顔を赤くしてしまった。
「も、ももも、申し訳ありません!? 勝手に!!」
当然、水無も自分がなんて勝手な行動をしてしまったと自覚して、すぐに土下座したのだが。
あとに入ってきた由良には、大きくため息を吐かれたのだった。
「……知ってしまったのですか」
「そう、みたい。由良」
由良と当主の発言に、水無はさらに混乱してしまったのだが。
「当主とはいえ、年頃の女の子なのですよ。斎様は」
「ごめんなさい。まさか、水無が外にいるだなんて思わなくて」
「バレたのなら、仕方がないですよ」
「い……つき、様?」
「ふふ。ごめんね? 当主として、あんな勝手な顔してたけど。本当は、私……こんな女なの」
血統が正しいだけの、ただの万乗の女。
そう言い切って、斎は水無に向かって苦笑いするのだった。
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