イタコ(?)さんと神様は、インスタント食品がお好きだそうな?

櫛田こころ

文字の大きさ
上 下
39 / 168

6-6.友人だから(佐和視点)

しおりを挟む





 *・*・*(佐和さわ視点)









 はじめは、本当に興味本位に過ぎなかった。

 少々苦労して入学出来た大学の入学式の時。

 いやに、不穏な気配を感じたのが最初。

 佐和は、どこだと気配を探ったら。少し後ろの列にその対象がいた。

 黒く、昏く。とても不気味な気配を持っている女の子。

 本人はまったく気づいていないのか、靄に包まれながらも真剣に学長の挨拶を聞いていた。

 あれはまずい。

 あれは危険だ。

 だが、常人でなくとも。不用意に近いてはいけない。

 だから、遠巻きに。個人的に可能な範囲で除霊を行ったが。一族でも傍流の傍流である佐和の力では、弱い雨を降らすくらいに等しい。

 それだけ、彼女に巣食う悪霊のようなものは離れなかった。

 それが、二年目の春になって。同じゼミ生になり、自己紹介の時の席が近くて、話すきっかけが出来た。不穏な気配は相変わらず祓っても祓っても酷くなる一方だったが。

 ついに、夏に突入してから。彼女の自宅でラップ現象やなんらかの被害が出てきたそうだ。

 佐和だけで解決出来れば良かったが、原因が万乗ばんじょうみのりに巣食う悪霊か何かは強大だ。そんな雑魚霊程度の事態だけではないと思った。

 だから、ゼミの教授が紹介出来る強力な術師を、せめて頼るだけしか言えなかったのだ。

 佐和は現代社会の術師の中では、まあまあ出来る方でも。結局はそれだけの存在。

 常人が受け入れにくい言葉遣いで、敢えて周囲を寄せ付けにくいようにしていたのに。穫は佐和を厭うことなく受け入れてくれた。

 そんな友達を放っておくことが出来ない。

 だから。事態が丸く収まりそうになっても。依頼料などないに等しい契約方法で、大学内にいるときの護衛を提案したのだ。


「ほ~? おっき過ぎるマンションだねえ?」


 そして今。

 穫が達川たちかわ笑也えみやに佐和を会わせようとしてくれたので、講義が終わってから一緒に来たのだ。

 達川族の異名は、佐和でも聞き慣れていたが。金の使い所が常人とは違うようだ。だが、穫をいきなりでも住まわせる懐の広さは持ち合わせているらしい。

 学内で瞬時に噂になる容姿も気になったが。この目で確かめたかった。

 界隈で名の馳せた、神を降ろすことが出来るイタコの一族でも特異中の特異。『男でイタコ』が出来る相手が。

 とりあえず、一階のフロアに入ると穫を呼んだフロアスタッフが受付に立っていた。


「おかえり~、穫ちゃん?」
「ただいまです。あ、たくみさん。彼女は大学の友達なんですが」
「お?」
琴波ことは佐和さわです」
「おお? 六条ろくじょう巧言いますー。随分とボーイッシュな女の子やね?」
「ふふ。あなたの関西弁といい勝負でしょう?」
「こりゃ、一本取られたわ」


 彼も、何かある。

 六条は、京都なら市民にも点在しているので術師かどうかはわからないが。穫が気を許しているのなら、関係者だろう。

 とにかく、本題は達川笑也なので。穫について行って目的の彼の家までエレベーターで移動した。


「んー。何もなければいいけど」
「どう言うことだい?」
「あのね。笑也さんの家でハウスキーパーになった理由があるんだけど」
「うん?」
「神様がインスタント食品とかが大好きで。しょっちゅう家の中をゴミ屋敷にしちゃうからなんだよね?」
「ああ。昔からの供物に飽き飽きしている神仏は多いだろう」


 その捉え方を出来るのは術師でもごく一部だが。

 なるほど、家政婦にした理由がよくわかった。

 そして、到着してからインターホンを鳴らしても笑也が出て来ないので。

 穫がスペアキーで開けたら、想像以上に部屋が荒れるに荒れていたのだった。


「あっちゃー……」
「これは……僕の想像以上だ。これを君が一人で片付けるのかい?」
「うん。だから、別でお給料も出るんだけど。今朝から羅衣鬼らいき君にお願いすることにしたの」
「?」


 穫が羅衣鬼を顕現させてから、羅衣鬼はゴミの前で大きく口を開けた。


「いっただきまーす!」


 と言って、某ゲームのキャラクターのようにゴミを口に吸い込んでいき。ものの数分で部屋のゴミは彼によって片付けられたが。

 穫と一緒にリビングに行くと、ラグマットの上で寝こけていた一人の男性がいた。彼が、達川笑也本人なのだろう。


「笑也さん、ただいまです」
「あ……穫ちゃん。おかえり~」


 声はまずまず。

 よれた髪越しに見えた、容姿も学内で聞いた噂以上。

 佐和に気づくと、こてんと可愛らしく首を傾げた。


「顔を合わせるのは、はじめまして。琴波佐和と言えばおわかりでしょうか?」
「! 琴波……? え、なんで穫ちゃんと一緒に?」
「大学で同級生なんですよ、僕と万乗氏は」
「知らないうちに、助けてくれてたんです」


 とりあえず、茶を淹れてくると穫が席を外し。

 佐和は真正面から、笑也と向き合うことになった。


「……君がいたから。穫ちゃんが僕のとこに来れたんだね?」
「偶然の偶然が起きた事象でしょう。けれども、達川氏が対処してくれているのなら、僕の出番はほとんどないに等しい」


 しかし、友人としては守りたいと告げれば。

 笑也は唇を弧に描いたのだった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

アイテムボックス無双 ~何でも収納! 奥義・首狩りアイテムボックス!~

明治サブ🍆スニーカー大賞【金賞】受賞作家
ファンタジー
※大・大・大どんでん返し回まで投稿済です!! 『第1回 次世代ファンタジーカップ ~最強「進化系ざまぁ」決定戦!』投稿作品。  無限収納機能を持つ『マジックバッグ』が巷にあふれる街で、収納魔法【アイテムボックス】しか使えない主人公・クリスは冒険者たちから無能扱いされ続け、ついに100パーティー目から追放されてしまう。  破れかぶれになって単騎で魔物討伐に向かい、あわや死にかけたところに謎の美しき旅の魔女が現れ、クリスに告げる。 「【アイテムボックス】は最強の魔法なんだよ。儂が使い方を教えてやろう」 【アイテムボックス】で魔物の首を、家屋を、オークの集落を丸ごと収納!? 【アイテムボックス】で道を作り、川を作り、街を作る!? ただの収納魔法と侮るなかれ。知覚できるものなら疫病だろうが敵の軍勢だろうが何だって除去する超能力! 主人公・クリスの成り上がりと「進化系ざまぁ」展開、そして最後に待ち受ける極上のどんでん返しを、とくとご覧あれ! 随所に散りばめられた大小さまざまな伏線を、あなたは見抜けるか!?

博士の愛しき発明品たち!

夏夜やもり
キャラ文芸
 近年まで、私と妹は常識的でゆるやかな日常を送っていました。  しかし、ご近所に住む博士の発明品で、世界と一緒に振り回されてしまいます!  そんなお話。あと斉藤さん。 【あらすじ】  氏名・年齢・性別などを問われたとき、かならず『ひみつ』と答える私は、本物の科学者と出会った!  博士は、その恐るべき科学力と体をなげうつ研究努力と独自理論によって、悍ましき発明品を次々生み出し、世界と私たちの日常を脅かす!  そんな博士と私と妹たちで繰り広げるS・Fの深淵を、共に覗きましょう。 **――――― 「ねえ、これ気になるんだけど?」  居間のソファーですっごい姿勢の妹が、適当に取り繕った『あらすじ』をひらひらさせる。 「なこが?」 「色々あるけどさ……SFってのはおこがましいんじゃない?」 「S・F(サイエンス・ファンキー)だから良いのだよ?」 「……イカレた科学?」 「イカした科学!」  少しだけ妹に同意しているが、それは胸にしまっておく。 「文句があるなら自分もお勧めしてよ」  私は少し唇尖らせ、妹に促す。 「んー、暇つぶしには最適! あたしや博士に興味があって、お暇な時にお読みください!」 「私は?」 「本編で邪魔ってくらい語るでしょ?」 「…………」  えっとね、私、これでも頑張ってますよ? いろいろ沸き上がる感情を抑えつつ……。                                      本編へつづく *)小説家になろうさん・エブリスタさんにも同時投稿です。

あやかし蔵の管理人

朝比奈 和
キャラ文芸
主人公、小日向 蒼真(こひなた そうま)は高校1年生になったばかり。 親が突然海外に転勤になった関係で、祖母の知り合いの家に居候することになった。 居候相手は有名な小説家で、土地持ちの結月 清人(ゆづき きよと)さん。 人見知りな俺が、普通に会話できるほど優しそうな人だ。 ただ、この居候先の結月邸には、あやかしの世界とつながっている蔵があって―――。 蔵の扉から出入りするあやかしたちとの、ほのぼのしつつちょっと変わった日常のお話。 2018年 8月。あやかし蔵の管理人 書籍発売しました! ※登場妖怪は伝承にアレンジを加えてありますので、ご了承ください。

💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活

XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。

イケメン歯科医の日常

moa
キャラ文芸
堺 大雅(さかい たいが)28歳。 親の医院、堺歯科医院で歯科医として働いている。 イケメンで笑顔が素敵な歯科医として近所では有名。 しかし彼には裏の顔が… 歯科医のリアルな日常を超短編小説で書いてみました。 ※治療の描写や痛い描写もあるので苦手な方はご遠慮頂きますようよろしくお願いします。

【完結】皇帝の寵妃は謎解きよりも料理がしたい〜小料理屋を営んでいたら妃に命じられて溺愛されています〜

空岡
キャラ文芸
【完結】 後宮×契約結婚×溺愛×料理×ミステリー 町の外れには、絶品のカリーを出す小料理屋がある。 小料理屋を営む月花は、世界各国を回って料理を学び、さらに絶対味覚がある。しかも、月花の味覚は無味無臭の毒すらわかるという特別なものだった。 月花はひょんなことから皇帝に出会い、それを理由に美人の位をさずけられる。 後宮にあがった月花だが、 「なに、そう構えるな。形だけの皇后だ。ソナタが毒の謎を解いた暁には、廃妃にして、そっと逃がす」 皇帝はどうやら、皇帝の生誕の宴で起きた、毒の事件を月花に解き明かして欲しいらしく―― 飾りの妃からやがて皇后へ。しかし、飾りのはずが、どうも皇帝は月花を溺愛しているようで――? これは、月花と皇帝の、食をめぐる謎解きの物語だ。

エリート警察官の溺愛は甘く切ない

日下奈緒
恋愛
親が警察官の紗良は、30歳にもなって独身なんてと親に責められる。 両親の勧めで、警察官とお見合いする事になったのだが、それは跡継ぎを産んで欲しいという、政略結婚で⁉

俺様当主との成り行き婚~二児の継母になりまして

澤谷弥(さわたに わたる)
キャラ文芸
夜、妹のパシリでコンビニでアイスを買った帰り。 花梨は、妖魔討伐中の勇悟と出会う。 そしてその二時間後、彼と結婚をしていた。 勇悟は日光地区の氏人の当主で、一目おかれる存在だ。 さらに彼には、小学一年の娘と二歳の息子がおり、花梨は必然的に二人の母親になる。 昨日までは、両親や妹から虐げられていた花梨だが、一晩にして生活ががらりと変わった。 なぜ勇悟は花梨に結婚を申し込んだのか。 これは、家族から虐げられていた花梨が、火の神当主の勇悟と出会い、子どもたちに囲まれて幸せに暮らす物語。 ※3万字程度の短編です。需要があれば長編化します。

処理中です...