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4-2.分身と戦闘

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 *・*・*






 みのりが生まれてから見てきた、どの悪霊達とも違った。

 暗く、黒くて、不気味で、気持ち悪くて。

 臭いまでしている。嗅ぎたくない腐敗臭だ。笑也えみやには悪いが、ゴミの腐海と似ているような。

 とにかく、窓をすり抜けてきた、呪怨とも呼ばれている万乗ばんじょうに巣食う呪いそのものがやって来たのだ。

 エミは、すぐにスティックのコーヒーをお見舞いしていたが、呪怨は少し悶えた程度。

 やっぱり、インスタントのコーヒーだけでは太刀打ち出来ないのか。


「ふーん? さすがは呪いの象徴?? だーったら!!」


 次にエミがポケットから取り出したのは、また同じスティックの何か。何か、と思う前に呪怨に振りかけた白い粉のお陰か、溶けて行くように消えてしまったのだ。


「砂糖はまあまあ」


 あれは塩ではなく、スティックシュガーだったようだ。

 終わったかと思ったが、気を緩めかけた穫に金剛刀こんごうとうの姿になっている咲夜さくやが声を上げた。


【油断するな、穫! あれはまだ分身に過ぎない!!】
「え!? 終わったんじゃないの!?」
【そう簡単に終わったら、苦労しない! 次が来たら、私を思いっきり振り下せ!!】
「ええ!?」
「くっるわよ~ん!」


 エミの声にあの臭いがしてきたので、穫は目の前に来る前に、と。思いっきりつるぎを振り下ろした。

 勢いで何かがぶつかった音がしたが、目を開ければ呪怨の分身とやらが倒れていて。その上からエミがまたスティックシュガーを振りかけていた。


【穫! まだ来るぞ!!】
「い、いつまでぇ!?」
大御神おおみかみが対応なさっているがまだまだだ。400年以上の蓄積は伊達ではない!!】
「ふぇえ!?」

 とりあえず、振り下ろしては倒して。エミに除霊してもらうのを繰り返し繰り返し。

 正味一時間経ったかどうか、と言うところで。ラグの上がスティックシュガーで真っ白になったところで落ち着いたのだが。


「ふふ~ん? 咲夜と天照大神あたしがいることが想定外。力の一部とは言え、祓えたから様子見する……ってとこね?」
「お……終わり、ましたか??」
「とりあえずは! みのりーん、あたしお腹空いたから何か作ってー? 掃除はしとくから」
「あ、はい」


 神様に掃除、と言うのも気が引けたが。人間に戻った咲夜がやり方を教わればすると言い出したので、そちらは二人に任せることに。

 戦闘で、少々疲れたがまだ動けるのはきっと指示をしてくれた咲夜のお陰だ。

 とりあえず、常温のレトルト食品は昨夜ほとんど使い果たしてしまったようなので。穫は冷凍庫の冷凍ピザと冷凍パスタを作ることにした。


「あ、そーだ」


 冷凍ピザがミックスピザだったが。

 これにさらにチーズを増せば、エミもだが笑也の方も喜ぶかもしれない。

 軽くレンチンしてから、冷凍してあったチーズストックをたっぷりかけて。

 焼き上がったら、掃除の時に見つけたガスバーナーで炙る。実家の食堂で、賄い作りの時なんかにガスバーナーの使い方は教わったのだ。


「出来ましたよー?」


 リビングに戻れば、まだ咲夜が掃除機をかけていたが粗方は終わっていたので。

 エミがチーズの匂いにはしゃいだので急いでカルボナーラのパスタと一緒に持って行ったのだった。
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