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3-3.天津チャーハン①
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引っ越しの片付けも粗方終わってから、笑也の自宅の方で昼食作り。
巧はコンシェルジュの仕事があるので、早いうちに戻って行き。穫は咲夜と一緒に昼食を作ることにした。
笑也は、少々メールのやり取りがあるからと書斎にこもっているのだ。
「咲夜でも覚えやすい、冷凍チャーハンを使うんだけど」
「ちゃー……はん?」
「あれ? 咲夜、私の中で全部見てきたんじゃないの?」
「全て、ではないな? 起きた……と言う言い方をするのであれば。穫が大学生になったくらいだ。あと、守護の力は発動していなかった」
「そうなんだ?」
神様にも色々あるんだな、と思うしか出来なかったが。たくさん動いたので、穫もお腹が空いた。咲夜はまだ食事をほとんど食べていない、というか穫の祖先と契約して以降食事をしてなかったようだ。
彼以降の、継承された子孫達でも穫のように気遣う人間など片手で数えられるくらい。
ほぼほぼ、道具扱いだったそうだ。
「……だから。今朝穫と食べた『ぱん』が久方ぶりの食事だった」
「もっと美味しいの一緒に食べよう!?」
「お、応??」
たしかに人間じゃなくても、そんなのは可哀想だと思い。
穫はキッチンでまず鍋に水を入れて、調味料も入れたらコンロに火をつけた。
「これで、餡かけを作るの」
「あん……かけ?」
「えっとね? タレ……とでも言うのかな? スープじゃないんだけど、お米の上にかけたり野菜炒めにも加えたりとか」
「美味い……のか?」
「任せて!」
その間に、咲夜にはレンジで冷凍チャーハンを温める作業を終えてから、水溶き片栗粉でとろみをつけた餡かけを味見してもらった。
「水……ではない。けれど、口の中で溶ける。美味い!」
「調味料と片栗粉があれば、簡単に出来るの」
「しかし、穫。せっかく温めた米にこれをかけたら……」
「これとチャーハンを単に合わせるだけじゃないの」
昨日の買い出しで、大量に購入した卵。それを穫はフライパンと油でぱぱっと半熟卵のケープを作り、皿に盛ったチャーハンの上に載せる。
「? 米を隠した?」
「ここに、餡かけをたっぷり!」
深めの器の縁に近いところまで注ぎ。同時進行で作った、中華風コーンスープをセットに。
トレーに載せて、咲夜に運んでもらっている間に、穫は笑也を呼びに行く。
「え? もう出来たの??」
出てきた笑也は眼鏡をかけていた。
とても似合い過ぎて、何故か穫の心臓を鷲掴みされた気分になったのだ。気のせい、気のせい、と穫は首を縦に振った。
「冷凍チャーハンをアレンジしただけなので、すぐに出来ましたよ?」
「へー?……なんかアレンジ出来たっけ?」
「ふふ。楽しみにしていてください」
「そうだね?……けど」
と、眼鏡を外し終えたら。笑也は片手を額にかざした。と言うことは。
「我が身に降ろせ、高天ヶ原の御神。魅入られ、魅入る国津神の御許。……我が身に降ろせ、万物の象徴。全てを見通せ、遍く星の声。────さあ、我が身を見よ」
まだ数回しか見ていないが、エミこと天照大神を降霊させるための呪文。
頭部から瞬時に黒髪長髪美人のエミとなり、完全に変わってから穫に抱きついてきた。
「今朝ぶり~~!! さ、美味しいご飯に案内してちょうだいな?」
「エミ……さん? どうして、今」
「面倒い仕事は笑也。それ以外はあたし。月詠の援護があっても、念のためにあたしが出ておくのよ」
「あ、ありがとうございます?」
少し疑問に思うが、穫のために動いてくれていることに変わらないので。エミを連れてリビングに行くと、待っていた咲夜がすぐにひざまずいた。
「大御神。……咲夜と名乗ることになりました」
「聞いているわ。全身全霊でみのりんを護るのよん?」
「承知」
「え……っと、今日のお昼は天津チャーハンです」
「んま!? 美味しそう!!」
真剣な顔から、蕩けるような笑みに変わった時。
身体は笑也だからか、彼と顔が重なっているように見えたのだった。
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