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1-6.依頼遂行③
しおりを挟む『驚かせてごめんよ、穫』
突然高くなった身長。シワの入った皮膚と、頭巾に隠された白髪混じりの銀髪。優しそうな表情。
どこをどう見ても、透けた幽霊なのを除けば祖母の真雪そのもの。だが、今目の前にいるのは祖母であって祖母でない存在でしかない。
生き霊など、霊を視てきた穫にとって嫌なものでしかなかったからだ。
「な……んで、なんで、おばあ……ちゃんが、そんな姿、に」
『そうさね。今までその目で苦労してきたあんたにとっては、こう言うのがなによりも嫌だったろうよ。だから、自分の子供時代になって隠れてたのさ』
理由を聞いても、混乱してる穫の頭には祖母の言葉がうまく入り込んで来ない。
だって、おかしいだろうと。
まだ80を越えたばかりの祖母が、食堂では肝っ玉母ちゃんと言われながらも嬉しそうに接客してる姿は、小さい頃から穫の憧れだった。
一人暮らしをしてからも、時々は帰って近況を楽しそうに聞いてくれる、ある意味母以上の存在。
そんな彼女の異質な姿を、身内抜きにしてそう簡単に受け入れられるわけがなかった。
生き霊は、特に穫が苦しめられてきた連中だから。
「って、事はー? 万乗って家は何かしらの家系ってわけ?」
穫が混乱していると、エミは片手で穫の頭をホールドして。豊満な胸に、穫の頭を押し付けてきた。実体ではないと思ったエミの体には、きちんと感触があった。それに気づいたことで、少し落ち着きは出来たが。
エミの行動に、祖母の生き霊は少しの間何も言わなかったが、やがて観念したかのように語り出した。
『……貴女の言うように。万乗は霊能者の家系。結界師とも呼ばれる、防御に強い家系だったんです』
「過去形? ってことは、継ぐ人間の誕生がなかったから?」
『ええ。私は弱く、婿入りしてきた夫もそこまでは。次代の娘達も……そのせいで、縁戚からも疎遠に』
「そう。それは術師の家系なら、異分子を扱う連中にとって邪魔でしかないもの」
人の傷口に塩を塗るような物言いだが、事実その通りなのかもしれない。いきなり、自分の家が霊能者の家系だと言われても、母も父も視える以外は普通の人間でしかなかった。
だから、それが資質を持つ特別な力だとは誰も思わなかったのに。
「……おばあちゃん」
『なんだい?』
声を掛けてみても、生き霊であれ、祖母は祖母だった。
今まで、恨み辛みを罵ってきた生き霊達とは違う。
まるで、そのままの祖母を切り離したような幽霊。なら、先程告げてくれた霊能者の力が関係しているのか。
「……私、も。この人と同じ力があるの?」
『……あんたには、結界師の力が開花しかけている。だから、視える以外に人の悪意を感じ取って引き寄せてしまうんだ。その中に、万乗が過去に他の霊能者達と封じた悪霊が混じってしまった』
「それが、さっき言ってた『化けもん』ってこと?」
『……ええ。虎を象った動物霊達の総集合体と言えるモノ。馬鹿げた話かもしれませんが、人間を怨む動物達は数知れず。それらを封じても、時が経てば綻びが生じる。封印を上書きしようにも、今の万乗では太刀打ちが出来ません。だから、能力が開花する前の能力者から芽を摘もうとしているのです』
祖母の知識は、弱くても能力者なので。完全に縁切りされる前に知らされていたらしく。
今生き霊のような状態も、穫のために守護の施しと言う術式を使っているのだそうだ。
穫に気づかれないように、能力が強くなる数年前から。だが、ここ最近穫の能力が急激に成長したことで、切り離している守護の意識体だけでは対処出来なかったそうだ。
穫に見つかったのも、そんな時らしく。
「呪怨。と呼んでいいかもしれないわね? しかも、標的が怨敵とも思ってる術師の末裔……。それがみのりんなのね?」
『はい。意識体のまま万乗に行っても、今の当主は聞く耳も持たず。むしろ好都合だと思われてしまったんです』
「腐ってしまうのは、いつの世も。……それはどうでもいいわ。問題はその呪怨がみのりんをつけ狙っている……。なら、さっき昇華させた断片部位だけじゃ切りがないわ」
そう言って、エミは穫を離して。持ったままのインスタントコーヒーのスティックを破いて、真雪に振りかけた。
『な、何を??』
「みのりんの守護は、このエミ。……いいや、天照大神の分霊を守護に持つ、イタコの達川笑也が請け負う。我らに任せよ」
『!?』
「あま……てらす??」
「無知も無知よ、みのりん? 日本の神々の頂点に達する女神よん? その『あたし』を降ろせるのは、この身体の笑也だけ」
『……ありがとう、ございます』
真雪は意識体なのに、涙を流しながら穫の自宅から消え失せてしまい。
後に残ったのは、穫が真雪に渡した勉学向上の御守りだけだった。
「御守り……におばあちゃんが?」
「媒体がないと、ああいう術は術者に負担がかかるの。自分じゃ弱いって言ってたけど、充分界隈じゃ通じる力量よ?」
電話してあげたら、とエミに言われて急いで実家に電話をかけると。母から祖母がいきなり寝落ちたので驚いた、とだけ伝えられたのだ。
「……寝ちゃっただけらしいです」
「離魂じゃなくても、自分の意識を半分以上切り離してそれだけとは。…………クズだね? 今の万乗の当主と言う奴は」
見解をしている最中に、声が変わったのでエミを見れば。ちょうど頭の方から笑也に戻っているところだった。
「笑也……さん」
「穫ちゃん、提案なんだけど」
「は、はい?」
ずいっと、顔を近づけてきた笑也の顔が真剣なのに、不謹慎だが胸がときめいてしまったのだ。
「エミがああ言ったからだけど。事件解決までは……僕の家に来ない?」
「は、はえ!?」
「そして、通常だと依頼料が結構発生しちゃうから。……等値交換と言うことで、僕の家のハウスキーパーになってもらえれば大丈夫なんだけど」
「え、お金払いますよ!?」
「いやいや、正式な依頼で僕……と言うかエミに支払いすると、八桁越えるよ? 学生の君じゃ無理でしょ?」
「……………………無理、です」
法外な値段じゃないだろうが、笑也があのマンションに生活出来るのならそれぐらい払ってもらうのが普通だろう。
なので、とりあえず笑也と自宅の片付けをしてから。何故かまたもう一度笑也の自宅に戻り、綺麗になった彼の自宅にコンシェルジュ兼管理人の巧も交えて作戦会議となってしまった。
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