イタコ(?)さんと神様は、インスタント食品がお好きだそうな?

櫛田こころ

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1-5.依頼遂行②

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 さらに彼女がリビングに入っていくと。いくつかの物がぶつかる音がして、最後に風の刃を振り落としたような轟音が聞こえてきたのと。


「いい加減に、しっろー!」
『きゃぁあああああああ!』


 甲高い女の子の声。危害を加えたはずだと思うが、みのりはエミよりもその女の子の安否が気になってしまった。

 一度視ただけかもしれない相手だけど、怪我をしていないのだろうかと。


(……なんで、心配に?)


 相手は幽霊かもしれないのに、何を心配する必要があるのだろうか。しかも、穫を困らせてきたかもしれない相手を。


「おーい、今なら来て大丈夫よー」


 エミがリビングから呼びかけてくれたので、穫は靴を乱暴に脱いで急いで向かう。

 半開きだったドアを開ければ、食器はないもののインスタントコーヒーなどで散らかりまくった部屋の中央にエミ以外にいたのは。半透明の小さな女の子。

 ただ、女の子は床に倒されてエミの足で動けないように抑えられていた。


「……あ、一週間前に見た女の子!」


 やはり、予想は当たっていた。

 祖母のアルバムで見せてもらった、昭和初期の古い子供服に身を包んだおかっぱ頭の女の子。

 動きたくても動けないのか、苦しそうな声を漏らしてても穫の方には向かない。

 大丈夫かなと思うも、押さえつけてるエミはニヤニヤしながら女の子を見下ろしてるだけだった。


『…………して、離して!?』
「そう簡単には出せないわよぉー? ここの家主であるみのりんを困らせたのは、一端であれアンタも含まれてるんだから」
「み、みのりん?」


 名前で呼ばれてはなかったが、笑也えみやと違いあだ名で呼ばれるとは思わなかった。

 エミが口にした呼び名も親しい友人達には呼ばれなくもなかったが、まだ出会って半日も経ってない人物から呼ばれるとは思わず。

 少し拍子抜けするも、女の子の方は気にせずにまた声を荒げ始めた。


『私は、追っ払おうとしてただけだ! 穫の周りに集まるのはほとんど危ない! お前もなんなんだ!』
「あ・た・しは、ちょーっと特殊なイタコよん。この姿は、わかる奴には畏れられる存在のはずなのに……あんたにはわかんないようね?」
『……は? イタコ……? よく見たら、男なのに』
「透けて本体が視えるでしょう? けど、イタコなのよあたし達は」


 エミはくすくす笑いながら、女の子が抵抗の意識を削いでくれたのを確認すると、足を離して彼女を無理に立ち上がらせた。

 顔がよく視えると、透けてても目が大きく愛らしい顔立ち。長い髪が似合うだろうにとどうでもいいことを考えてしまったが、まだ話はちっとも終わってない。

 エミがそのまま立たせると、今度は下げたは彼女にまだ持っていたインスタントコーヒーのスティックを向けた。シュールな絵面ではあるが、エミの目は本気だった。


「さあ、おっしゃい? あんたは、みのりんの何? そこそこの霊力はあるようだけど、浮遊霊や地縛霊じゃあないようね?」
『…………知って、どうする。お前に、あれら・・・をどうにか出来るのか!』
「そこも含めてよ。みのりんはあたし達に依頼してきたの、正式にね。なら、あたし達はそれを遂行させるまで。あんたも含めて、解決させるまでよ」


 笑顔のままであるのに、言葉は氷のように冷たい。

 女の子もその鋭さを感じているのか、わずかに後退している。

 穫もそうしたかったが、エミの言葉の強さに動くことが出来ない。あれだけ明るくて綺麗な女性が、畏れ多いと感じ出してきたのだ。

 女の子に告げたように、畏怖を感じさせる存在の断片を見せつけている気配が恐ろしいと。


『……穫を、困らせるつもりはなかった。だけど、ああしなきゃその子にまとわりつく化けもん達を、追っ払えなかった』
「ヒトの声を聞けて、意味を理解出来る知能……ただの妖ではないなら、元はヒトか?」
『…………そう、だ』


 女の子は一度大きく息を吐くと、ここで始めて穫の方に体を向けてきた。

 ずっと見てたので、すぐに大きな瞳とかち合う。彼女の瞳はとても真剣なものだった。


『…………我が孫に、万乗ばんじょうの因縁をこれ以上科せないためにも。生き霊である私が動くしかなかった』
「お……ばあ、ちゃん?」
『そうだよ、穫』


 まだ健在でいるはずの祖母だと言う女の子は、穫が嘘と思いつつも告げた呼びかけと同時に。

 少女の姿を変えて、穫のよく知る割烹着姿の老婆になったのだ。
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