イタコ(?)さんと神様は、インスタント食品がお好きだそうな?

櫛田こころ

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1-4.依頼遂行①

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 どうして、寝室のベッドにあるはずのクッションが、玄関まで飛んで来るのだろうか。

 今までの、いわゆるラップ現象とやらでは、ここまでの事態はなかった。と言うのも、現象が起きるのは室内でもリビングや寝室、それぞれの領域テリトリー内だったからだ。

 みのりが避けながらその場所を出れば、ぴたりと治るくらいの、限定された不可思議な現象ばかり。

 それだけが続くも、ストレスになる事に変わりはないし、本当に困ってもいた。

 だから、今目の前でエミがキャッチしてるクッションが飛んできたのがまだ信じられない。


「ほーんと、軽いモノで助かったわ。まだまだ飛んできそうだけど、あたしの後ろから出ちゃダメ」
「は、はい」
「食器とかが来ても、笑也えみやが弁償するでしょうから安心なさいな?」
「え、そこは安心したくないような」
「来るわよ」


 納得しがたい理屈を押し付けられてると、また違うクッションが二個飛んできた。それをエミがすかさず受け止め、次が飛んで来る前に急いで部屋に入り鍵を閉める。

 エミのような女性なら土足で上がると思いきや、意外にもすぐにスニーカーを脱いで持ってたクッションを床に置いてくれた。

 彼女は笑也であるはずの女性だが、『イタコ』としての姿としてしかまだ認識出来ていない。だが、彼女がいれば大丈夫と笑也が言ってたのだから信じるしかなかった。

 エミは、次のが飛んで来るかどうか構えてはいたけれど、あちらは何も飛ばしてこなかった。むしろ、向こうもエミの存在に気付き、慎重になってるのかもしれない。


「……はっはーん。次は、家主じゃないあたしに向けて、トラップでも仕掛けようってとこかしら?」
「わ、わな?」
「んー、最悪……室内のガラスを粉々にさせてぶつけてくるとか?」
「け、怪我どころで済まないんじゃ!」
「だーいじょぶ大丈夫。君は、あたしが全身全霊で守ってあ・げ・る。そーだ、ちょっとだけ我慢してて?」
「はい?」


 じっとしてるように言われ、なんだろうと思うも彼女はスラックスのポケットから小さな布の小袋を取り出した。

 そして、穫に向けたかと思うと、空いてる手で忍法の構えのようなポーズを取り出した。


「清らかな泉のかけらよ。この者を護れ、我が身に変えて護れ。砕ける時は、彼女の吐息ごと護れ」


 今度は、穫でも聞き取りやすい詠唱。

 それと、軽い調子で行ったにも関わらず、本当に穫を気遣っての魔法か何かのように思えた。

 一瞬だけ小袋が強く光ったが、目を閉じてしまった穫が次に目を開けた時、視界に映る色がほんのり白がかってるように見えたのだ。


「こ、これは?」
「霊視能力があるから、視えるのは本当のようね?   これは水晶のクラスターを媒介にした結界よ。君に怪我させないように障害物から身を守るためにねん」
「あ、ありがとう……ございます」


 イタコがそんな大掛かりな事まで出来るのか不思議に思ったが、まずは礼を告げた。

 穫は視える以外何も出来ない素人だから、何かあってからではきっと遅い。足手まといでしかないだろうが、穫が視えた女の子を確認するにもここにいなくてはならないから。

 エミは一度にっこり笑うと、水晶の小袋をしまってから今度は笑也が道端で除霊したのと同じ、インスタント飲料のスティックを取り出したのだった。


「さーて。本命が出て来るまで、除霊タイムよん?」


 そこからは無双タイムになったのか。

 エミは、次に飛んできた青白い何かに破いたコーヒーらしきモノを振りかけ。どんどんと、悪霊らしきものを除霊していったのだ。


「いつーつ、六つ。ななーつ! ん、もういっちょ!!」


 進んで行くたびに、家の中がコーヒーまみれになるがあとでなんとか掃除すればいいだろう。

 彼女に呼ばれるまで、穫は玄関から動かなかった。
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