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1-1.依頼内容
しおりを挟む「……お願いです、達川さん。助けてくださいっ!」
穫は事情を話す前に、まずその言葉を伝えずにはいられなかった。
座ったままでも腰を深く折り、顔がラグマットにつくかもしれないほど、穫は彼にすがりたかった。
だが、笑也はそんな穫の行動にも、焦ることなく大きな手で肩を叩いてくれた。
「落ち着いて、万乗さん。依頼内容はちゃんと聞くから」
「俺、茶でも淹れてくるわ。先聞いとき」
「うん、お願い」
「あ、ありがとう……ござい、ます」
情け無い姿を見せてしまっていくらか恥ずかしくなったものの、男性二人は特に取り乱さずに冷静に対応してくれた。
巧が一旦席を外してくれてる間に、穫は笑也によって柔らかいソファに腰掛けさせられた。その隣に彼が座るも、エミでいた時とは違い長い前髪で顔は隠されている。
けれど、何故か優しく笑っているような気がした。
「落ち着いて、ゆっくりでいいから。僕への依頼は、具体的に言うと心霊現象のようなのかな?」
「あ、教授……から?」
「ううん。教授からは君みたいな女の子が来るってことだけ。彼との約束事があってね? 怪異のようなモノであれば、仲介はしていいけど内容は言わない」
「い、言わない……?」
「僕は、霊能者ではあっても『イタコ』だからね。あと男がイタコって、特殊体質だし」
たしかに。
知識が大してない穫でも、男性のイタコがいると言うのは聞いた事がない。
加えて、先程女性となった笑也についても聞きたいが、今は自身について語らねばならなかった。
なるべく深呼吸を繰り返し、いくらか気分が落ち着いてきた頃に、穫は笑也と向き合う。
「……解決していただきたいのは、いわゆる心霊現象です。でも、それを解決してもきっとまた起きます」
「うん? 根拠があるの?」
「はい…………私、霊とかが視える体質なんです」
いつからか、とは覚えていない。
気づいたら、視えてて触れることも話す事も出来る。ただそれだけだった。
心霊現象のような、具体的な事も今までは特になかったが。今年、一人暮らしをし始めてからは変わり出した。
「視えるはずなのに、姿もなく家の家具とかが動いたり……ものが飛んだり。幸い、軽い物が飛ぶくらいなので近所迷惑にはならないんですが」
聞きかじりの除霊方法で、何度かは弱い悪霊混じりを退散出来た。
だが、退散させてもしばらくしたら起きるの繰り返し。
それと、一度だけ視えた相手がいた。
「悪霊達とは違って……昔の服装をしてた女の子だったんです」
「女の子?」
「なんて言うか、おばあちゃんが見せてくれた昔のアルバムに似てて」
「ふぅん?」
受け答えは軽い調子だが、笑也はキチンと聞いてくれている。
だからか、巧が戻ってきても口からすらすらと出てしまい、詳細についても全部話せた。
「最初見つけた時は、悪霊かと勘違いしました。ただ、その子が出てきても他のとは違って危害を加える行動が……その、弱くて。一度盛り塩だけしても消えてませんでした」
「盛り塩は、どっちかと言えば結界要素だから消えないよ?」
「せやなぁ?」
「そ、そうなんですか?」
ひと区切りしたところで巧にミルクティーのマグカップを渡され、なんとなくひと口。
砂糖の代わりに少し蜂蜜を入れたのか、実に優しい甘さだった。
逆に男性二人は半分くらい飲み干していたが、笑也は口元を拭うと首をひねり出す。
「ラップ現象に紛れ込んで……万乗さんに何かアピールしてるようにしかわからないなぁ。まあ、エミと僕とで『降ろす』事が出来れば、すぐ解決出来そうだけど」
「ほな、活力あるうちにさっさと行ったり。ここは業者呼んで片付けさせとくから」
「いつも悪いね」
「ええから、はよ行け」
そうは言うものの、紅茶を飲み終えてから、今度はクローゼットを発掘して笑也が着替えてる間に穫は中途半端にさせてた台所で洗い物をすることに。
巧にやり方を教わったが、軽く水で汚れを落としてから洗浄機に入れと随分楽な方法だった。
実家の食堂は手洗いが主流なため、まだこう言った機械は導入していない。
手荒れを思うと頼った方がいいだろうが、と考えてると三角コーナーにあるはずのゴミがないのに気づく。
「ちゃんと紅茶だったのに……ティーパックがない?」
穫が使った調理道具以外、追加されたのはティースプーンとカップ達だけ。
気にし過ぎかなと、巧が発掘してくれたゴミ箱を見てもやはりティーパックらしきモノはなかった。
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※このお話は2019年7月8日にサービスを終了したラノゲツクールに同タイトルで掲載していたものを小説版に書き直したものです。
※この作品は小説家になろう・カクヨムにも公開しています。
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