イタコ(?)さんと神様は、インスタント食品がお好きだそうな?

櫛田こころ

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0-1.まずは管理人さんと

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 肌に焼けつくような暑さ。

 こんな真夏日に日傘は必須だけれど、前が見えにくくなるので深くは自分に近づけない。

 みのりはコピー用紙の裏に書かれた地図を落とさないよう、時折顔や首筋に流れる汗を濡れたハンカチで拭う。

 それを繰り返しながら住宅街を歩くも、まだ目的地にはつかないでいた。


「……ほんとに、こんなとこにあるのかなぁ?」


 教授が走り書きした地図の目印と、スマホの地図アプリを参考にしながら進んでても、どこを見たってごく普通の住宅地。

 時折、少し高級感を漂わせるマンションやビルが目に入るが、逆に穫の心配を煽ってしまうばかり。

 ごく普通に散歩するならまだしも、穫の胸中は不安だらけなのだ。

 自分の体質のせいと、最近酷くなっている周囲の環境のおかげで。


「……あ、ここ?」


 白く大きな自販機が最後の目印とあったので、見つけて少しほっと出来た。

 出来たが、そこを過ぎようとした途端に目に飛び込んできた建物に日傘を落としそうになったのだ。


「で、でで、でか……い、マンション!?」


 ガラス張りなので一瞬ビルと疑いかけたが、よくよく入り口を見ればエントランスがマンションに多いセキュリティシステムだとわかった。自動ドアの奥に、タッチパネル式のボックスが設置してあったからだ。


「ふわぁ……一部屋で、あたしのワンルームいくつ入るんだろ?」


 思わずそう口にしてしまうくらい、外から見ても一部屋の感覚が広過ぎる。

 だがしかし、ここが本当に穫の目的地かわからず、慌てて地図と地図アプリを交互に見ても見事に照合されるだけだった。

 それと地図の端に、教授からの注意書きがあるのに今気づいた。


「すっごく大きなマンションだけど、本人は気さくだから大丈夫って……」


 あののほほんとした教授の言うことを疑うわけでもないが、居住地を目の当たりにすると自信が持てない。

 とりあえず、エントランス手前で日傘をたたんでからもう一度汗を拭く。気温もさることながら、したたる汗も大量。

 水分補給や、熱中症対策も色々試してるお陰か、今のところ発症してなくて幸い。

 ただ、入る前にこのマンションの入り口手前にも白い自動販売機があったのでお茶か何かを買おうと思った。来るまでに持ってきた水筒は、すべて飲み切ってたからだが。


「な、にこれ、たっか!?」


 田舎道には、味は定評なもので揃えて安価にさせてる自販機が多いと聞く。

 だが、今穫が目にしてる自販機のラインナップの最低価格はどれもこれも『千円』を超えるばかり。最高でも一番上のが三千円とあった高級スポーツドリンク。


「……やめとこ。多分だけど、お茶くらいは出してもらえるだろうし」


 訪問へのアポイントは教授越しに頼んであるので、いきなりの訪問ではないから大丈夫なはず。

 穫は、飲み物を諦めて自動ドアをくぐると中は外と打って変わって涼しい空間だった。


(うっひゃー、涼しいよぉっ!)


 声を出さなかったのは、高級マンションにつきものな『フロント』に人が立ってたからだ。

 夏だからクールビズを意識した服装だったが、訪問者の穫を見ても笑顔を崩さずにいてくれる。てっきり声をかけてくると思いきや、そのまま手元の書類かなにかを整理してるだけで何もアクションがない。

 きっと、マンションによって対応が違うにだろうと思うことにして、穫はタッチパネルに向かいながら教授の走り書きの続きを読む。


「F303の……た、たつかわさん?」


 漢字が不得意なわけではないが、あまり見かけない名字なので読み方がわからない。

 穫自身の名字も他人事ではないが、『達川』とだけ書いてあるので読み方がさっぱりなのだ。教授からも『この人に会いに行くといい』とだけ言われたので聞いてはいない。


「恐れ入ります。達川たちかわさんへのお客様でしょうか?」


 いきなりインターホンで聞こうにも失礼にあたるのではと悩んでいれば、フロントの青年が声をかけてきた。

 慌てて振り返れば、柔らかい笑みで穫に微笑んでいる。


「失礼ですが、依頼人の方でしょうか?」
「い、いら……あ、はい。多分、そう……なります」
「いえ、お答えいただきありがとうございます。あの人の苗字は最初読み間違えが多いですから」


 すると、こちらには見えにくいフロントの受付台の下から、何か無線機器のようなのを取り出した。

 それと何故か、青年が大きく息を吸い込んでいくのが不思議だった。


「こぉら、笑也えみやぁ!?   依頼人来とるでぇ!」
「ひっ!?」


 青年の口調もだが、表情も一変して温和からどう猛なものになった。

 相手の、達川らしい人物と余程親しいにしても職務放棄する勢いで豹変していいものか。まだ何か叫び続けているも、無線機の方からは何も聞こえて来ない。

 青年はしばらく無線機を睨んでいたが、一度大きく深呼吸をすると再び柔らかい表情に戻って穫に振り返ってきた。


「お見苦しいものをお見せしてすみません。失礼ですが、お客様のお名前は?    自分は管理人の六条と言います」
「あ、あた……私、ですか?」
「ええ。とりあえず、達川さんは留守ではないようですので、もう一度連絡するのにお伝えしようと」
「わ、わかり……ました。万乗ばんじょうと言います!」
「ありがとうございます。────……おら、笑也! 依頼人の万乗さんが来とるんや! 寝とらんと部屋掃除くらいしとけよ!?」


 性格を切り替えるのは、穫も接客系のバイトをしてたことがあるのでわかるが極端過ぎる。

 一応、穫が目の前にいるのにいいのだろうか。


『…………な、に。いら……い?』


 距離があるのでうまく聴き取りにくいが、たしかに無線機から声が。

 寝てるのか体調が悪いのかわからないけれど、ちゃんと相手が反応してくれたみたいだ。


「アポ取ってるらしいぞ! 多分いつもんとこの教授伝のはずや。準備出来てへんでもこっちからロック解除させるぞ!」
『…………腹、減った』
「……またか」


 かすれ声の原因は、どうやら空腹らしい。

 体調不良じゃなくて良かったが、ここで穫があることを思い出した。

 バックとは別に、教授に持たされたビニール袋の中身について。


「あ、あの……管理人さん!」


 穫は少し怖いが、いきり立ってる六条のところへ近づき、ビニール袋を突き出した。


「いきなりで失礼かもしれませんが、教授から預かってる差し入れがあるんです! これで……達川さんにご飯作ってもいいですか?」
「え……マジ?」


 接客顔には戻らずだったが、六条は嬉しそうに笑ってくれた。
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