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第86話 父親として

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 やっぱり……。

 この人が関わっていたんだ。

 ガキの頃に、親父に叱られて……泣いて泣いて、蔵に来た時に。

 この綺麗な女性が、誰もいないはずのここにいて。

 びっくりしたと同時に、ガキだったから訳のわからないものに怖さを感じたんだ。

 だから、泣いて叫んで逃げた。

 怒鳴った後の親父に縋るのも怖かったが……そんな気持ちだなんて、ガキだったから当然なくて。

 親父も俺の異常な泣き方にびっくりしたからな……すぐに宥めてくれた。

 そこから数十年……蔵の虫干し以外で、俺は近づかなかったが。この人はどこにもいなくて……夢だったかと思ったが。

 娘の桜乃さくのが、ここ数ヶ月……生き生きとしているのに俺は父親として疑問に思ったんだ。

 宙太そらたが生まれて、姉貴として我慢を覚えようとして失敗してから……親父と一緒に『パン作り』をしたいと言ってきたことから、俺は『何故だ?』と疑問だらけで。

 場所は親父側……俺の実家の方で作ると言ってた割には、匂いが全然しない。けど、作ったパンは俺とかにも持って来てくれた。となれば……まさか、と思って、恐れていた場所に来てみれば。

 桜乃が好きそうな、ピンクの装飾に様変わりした……蔵の中が出来上がってたんだ。そして、中ではあの時の綺麗な女性が茶を飲んでいた。

 そして、今まで会いに来てなかった俺を見て驚いていたんだ。俺も、あの時と変わらない姿の女性のことに驚いたが……桜乃と親父が、ここで何をしていたのか。確認するために来たのだから、恐れていても仕方がない。

 だけど……内装のせいか、昔ほど恐いとは思わなかったんだ。


『……涼太りょうたかえ?』


 不思議な喋り方だけど、俺のことは覚えていたようだ。虫干し以外ろくに来てないのに……記憶力がいいのだろうか。


「……あなたは、『何』ですか」


 桜乃の笑顔を増やしてくれた……恩人のような存在かもしれないが。

 あの子の将来のためを考えると、父親としては見過ごせない。

 人間じゃない存在が、あの子を悪い方向に進めさせないとも限らないからだ。
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