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第85話 悲しみはいっとき

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 桜乃さくのに悲しい顔を作らせてしまった。

 おそらくじゃが、あちきが『水城みずき』の家の者らと食事をせぬことが……今も寂しいのであろう。

 じゃが、それは仕方がないことなのじゃよ。


『……泣かせてしまったからのお?』


 最初は、段蔵だんぞうの妻である紗夜さよを。

 次は桜乃の父であり、段蔵らの息子である涼太りょうたを。

 桜乃も少し泣いたが、あれらは幼い頃にあちきの声を聞くなり……大声で泣いてしもうたのじゃ。

 桜乃の淋しさとは違って、純粋に『拒絶』のモノじゃった。

 だから、あちきは『ああ、この者らも無理か』と……契約者をまた待つことにした。

 適性はあったのだが、あれらはあちきの存在を『恐れ』てしまったのじゃ。今覚えているかは分からぬが……きっと、思い出されては、桜乃がこの蔵に来る事を禁じるじゃろう。

 段蔵は説得するじゃろうが……今店の主は涼太じゃからのお? 桜乃のためを思って、あの子の望みがあれど禁じることは簡単じゃ。

 娘のためもあるじゃろうが……怖いからだろう。付喪神など、神の名があれ、言いようによってはただのあやかしと同じ。忌み嫌われる存在と変わらん。


『……じゃから、これくらいの距離でちょうど良い』


 それに、今のあちきには少し未来があるのじゃ。

 桜乃が、ずっとあちきと一緒にいたいと言う可愛らしい未来が。

 それを潰えさせては……桜乃がこれ以上にないほど、哀しむはずじゃ。

 じゃから……良いのじゃ。

 ここ数十年の月日を思えば、一時いっときの時の間は可愛らしいものよ。


『……ここも、段蔵が出来なかった以上のレベルになるじゃろう』


 レベルアップしたままごとキッチンは、今は片付けているが……随分と様変わりした。喜ばしいことじゃ。

 ひと息吐こうと、茶を飲もうとしたら……外に気配がした。

 あちきがその気配に、いくらか驚いたのじゃ。

 桜乃でも段蔵でも、みおらでもなかったのじゃから。


「…………どうも」


 入ってきたのは、段蔵の面影がいくらかある男。

『涼太』だったのじゃ。
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