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第61話 駿の父親

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 焼き鳥屋さんの『丸富』に行けば。

 おじさんは焼き鳥を焼いてなくて……煙がもくもくはしてなかった。

 先におじいちゃんが裏口に行って、おじさんを呼んできてくれたの。


「おーい、俊坊!」


 おじいちゃんはおじさんのことそう呼ぶのよね?


「おやっさん、坊はやめてくださいよ」


 おじさんが出て来たわ。ちょっとおなかがまあるいけど、優しいおじさん。あたしのおとうさんよりちょっと低い。

 おじいちゃんよりも、ちょっと低いのよね?

 で、おじさんが出てきたから……本番よ!


「おじさん、こんにちは!」


 あたしが元気いっぱいに言って、駿しゅんの手をぎゅっとにぎってあげた。駿はびっくりしてたけど、あたしは首を縦に振ったわ。

 大丈夫だって。


「やあ、桜乃さくのちゃん。いらっしゃい。……駿?」


 おじさんがあたしを見てくれると、駿と手をつないでいたのに気づいて……ちょっとびっくりしてた。駿に元気がないのと、おひざのケガを見たから。


「…………転んだの、さっちゃんのおじいさんに手当てしてもらった」

「……そうか」


 おじさんは怒らなくて、駿の頭をヨシヨシとなでてあげていた。

 でも、駿はまだ元気にはなれない。自分のしょーらいのことで、まだいっぱい考えているからだわ。


「俊坊、駿から話があんだと」

「……俺にですか?」

「ああ。だろ? 駿」


 おじいちゃんが駿に言うと、駿はゆっくりだけど……首を縦に振ったわ。

 あたしは、がんばってって気持ちを手をにぎるので伝えた。

 また駿がこっちを見てくれたけど、もう泣いた顔じゃなかったわ!


「……とーさん」


 駿がおじさんを呼ぶと、おじさんは少ししゃがんで駿の顔を見てあげたわ。


「なんだい?」

「……僕、わかんなくなったの」

「うん?」

「……しょーらいの夢」

「それは……野球選手じゃなかったのかい?」

「……わかんなくなっちゃった」


 駿は首を横にふるふる振った。

 言いたいことを、ちゃんと言うために……駿は下に向いてた顔を上げたわ。

 横しか見えなかったけど、泣いてなかった。


「わかんない?」

「……とーさんのお仕事見てて。かっこいいって思って」

「……そうか」


 おじさんは、ちょっと笑顔になって……もう一回駿の頭をなでたわ。


「……やきゅーも好き。けど……さっちゃんたちと、お料理してて……とーさんの焼き鳥も、ちゃんと見たらかっこいいなって。だから……夢とかがわかんなくなって」

「駿」

「……」

 おじさんはぽんって音が聞こえるように、駿の頭に手を置いた。


「すぐに決めなくていいよ?」


 って、笑って言ってたわ。

 あたしもだけど……駿ももっとびっくりしてたわ。


「……いいの?」

「夢はいつか変わることもあるんだよ。今決めても、もっと大きくなったら……変わっちゃうこともあるんだ」

「……でも」

「大丈夫。まだまだ時間はあるからね? けど、駿が俺の仕事をかっこいいって言ってくれたのは嬉しいよ」

「……うん」


 みおちゃんの言ってた、おとなのじじょーじゃないけど。

 おじさんはおじさんで、ちゃんとわかってくれた。

 あたしは……ちょっと感動したの。

 お話ひとつで、こんなにもうれしくなるんだなって。

 とりあえず、駿の夢は『ほりゅー』になったから。

 次はあたしの番だわ!

 丸富を出てから、あたしはおじいちゃんと手をつないで……帰りながら言うことにした。
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