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第60話 伝染する気持ち

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 わかんなくて。

 わかんなくなっちゃって。

 あたしはなんでか……涙が出てきて、『えぐえぐ』って声をが出るのが止まんなくて。

 最後には。


「うわぁーん!!」

「さっちゃん!?」

「ど、どうした、桜乃さくの!?」


 ふたりをびっくりさせちゃったけど。

 あたしも、全然わかんなくて……でも、なんでか涙とか鼻水が止まんなくて。

 泣いて泣いて……ずっと泣いてて、駿しゅんにもおじいちゃんにもめーわくかけてるのはわかるのに……止まらなくて。


『こらこら、泣き過ぎは良くないぞ?』


 止まったのは……美濃みのさんが、頭を抱っこしてくてたから。

 ぎゅっと、ふわんとあったかくて良い匂いがして。

 パンのような……甘い匂いに、びっくりして涙が止まったわ!


「……みの、さ?」

『主の事態を察知せぬ、あちきではない。どうしたのじゃ? 桜乃』


 人間のように見えるけど。

 人間じゃない、つくもがみのきれーな女の人。

 今日もきれいで……あたしを抱っこしてくれて、頭をヨシヨシもしてくれた。おかあさんじゃないのに、おかあさんみたい。

 ほっとするの。


「……わかんない」


 駿もおじいちゃんも驚いて、何も聞いてこなかったけど。

 あたしは……涙が止まっても、わかんなかった。

 どんな理由で泣いていたのか……わかんなかったの。

 でも、美濃さんは無理に聞いてこなかった。


『ふむ? 段蔵だんぞうや? 何があったのじゃ?』

「……駿の悩み聞いてたんだ」

『駿の?』


 美濃さんが聞くと、駿は首を縦に振って……さっき、あたしとおじいちゃんに伝えてくれたことをもう一回、美濃さんに言ってくれた。


「……言い終わったら、さっちゃんが泣いちゃって」

「俺もびっくりしたぜ」


 もう一回駿のお話を聞いても。

 あたしは……泣きそうになったけど、がまんしたわ。何回も泣いちゃダメだもの。


『ふむ。桜乃は駿の思いを『鏡』のように感じてしまったからかもしれん』

「「「鏡?」」」

『自分が駿と同じだったら……と思って、想像……考えてしまったのじゃろう。簡単に言えば、もらい泣きじゃが。桜乃は気持ちまでも受け入れてしまったのじゃろうて』

「……駿の?」

『うむ。幼馴染みである以上に、友だから大事であろう?』

「うん!」


 駿はあたしの大事な友達だもの!

 だから、心配とかいっぱいするわ。


(あ……だから)


 大事だから、同じ気持ちになっちゃった?

 駿のグチャグチャな気持ちが……あたしにもうつって。

 だから……悲しくなって、泣いちゃった?

 あたしも、もしおとうさんにパン屋を一緒にしちゃダメって……言われたとしたら、きっと、悲しくてすっごく泣いちゃうから。


『その顔……わかったようじゃな?』

「うん!」


 あたしは首を縦に振って、それから駿の両手をしっかりつかんだわ!


「……さっちゃん?」

「駿、おじさんに言いに行こう!」

「え?」

「おとなのじじょーだけで、駿がやりたいこと決めちゃいけないもん!!」

「お、おとなのじじょー?」

「そうよ!」


 あたしは後で良いから。

 まずは、駿の順番よ!

 おじいちゃんにも、ケガの手当てのことがあったから付いて来てもらったわ。
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