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第59話 ぐちゃぐちゃな
しおりを挟む「……大丈夫?」
「……うん。大丈夫」
シャワーで、砂とか血をきれいにしてあげて。
おじいちゃんがこっちに来たら、きゅーきゅー箱の中身を使って、きれいきれいにケガをしたひざを手当して。
ホータイとガーゼできちんと出来たら、駿はまたありがとうございますと言ったわ。
「んで、どーした? そんな傷、走って転ばなきゃならねぇぞ?」
「え?」
普通に転んだだけじゃないの?
あたしは、駿を見ると……駿は首を縦に振ったわ。
「……わかんなくなってきて」
「わかんない?」
「うん。いっぱいわかんないことが出来たんだ」
駿の顔は、ケガが痛いよりも痛そうな顔になっていくわ。
あたしは……聞いていいのかな? って思ったけど、駿が言ってくれるなら……ちゃんと聞こうと思った。
「言ってくれるなら、ちゃんと聞く」
「……うん。僕、おっきくなったら……やきゅうのせんしゅになりたいって言ってたでしょ?」
「うん」
夢のこと、と思っても……バカにしちゃいけない。
あたしは今日、澪ちゃんにおとなのじじょーについて、聞いたばっかりだから。
「……でも。さっちゃんや美濃さんと……一緒にパンを作って、僕も……ご飯とか作るの、いいなって思って。とーさんの仕事、ちゃんと見たんだ」
「おじさんの?」
焼き鳥屋さんのお仕事。
あたしが覚えているのは、すっごくあっつい中で……いっしょうけんめーに、焼き鳥を焼いているところ。
駿は、大変って前から言ってたけどて……それをちゃんと見たってことは。
「俊希の仕事に、興味持ったのか?」
おじいちゃんがおじさんの名前を出すと、駿は首を縦に振ったわ。
「嫌……じゃなかったんです。でも、とーさんが教えてくれたやきゅーも好きで。学校で、しょーらいの夢のポスターって宿題出たとき……僕、びっくりしたんです。今までならやきゅうなのに、うちの仕事が浮かんで」
泣きそうになったけど、あたしもおじいちゃんも怒らない。
大事な、大切な気持ちを怒ったりしないもん。
だから、言えるまで待ってあげた。
駿は鼻をぐじゅぐじゅしていたから、あたしは持ってたハンカチをかしてあげたわ。
「鼻かんで?」
「……ありがとう。……さっちゃんたちとおりょーりするの、楽しくて。僕……やきゅうも好きだけど、うちの焼き鳥も好きって思い出したんだ」
「子どもが親の仕事を気にするのは、よくある。けど、駿は……そっちの夢じゃなかったのに。俺たちと一緒にパンを作ってきたことで変わりかけているのか?」
「……はい。だから、自分がわかんなくなって……走って、転んで」
あたしはずっと……おとうさんのパン屋をいっしょにしたいって夢だったけど。
駿は違うから……気持ちがぐちゃぐちゃになったんだ。
こんなとき……どうしてあげればいいんだろう?
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