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第56話 一緒にいたい

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 もうすぐ。

 もうすぐ!!

 夏休み!!


(毎日たっくさんパンが作れるわ!!)


 宿題もたっくさん出るけど……たぶん、大丈夫!!

 いつものパン作りのために、毎日がんばって宿題してたら……先生からほめられたの!

 前より点数がいいんだって!

 だから……夏休みもがんばるわ!!

 で、今日ももうすぐ学校が終わるんだけど。


「はーい、みんな? 今年の二年生では、自分の『将来の夢』をポスターに描いてもらうわよ?」


 たんにんの先生の、小平先生が黒板に書きながら言ったの。

 夏休みはまだだけど、先に考える時間が大事って先生はすぐに言ったわ。

 ほとんどのクラスの子たちは『え~!』っていやそうにしてたけど。

 あたしのしょーらいの夢は、ずっと一緒だから大丈夫!!

 パン屋さんになることだもん!!

 けど……ポスターって絵だよね?

 お絵かきはあんまり上手じゃないんじゃよなあ。


「あんまり難しく考えなくていいわよ? ケーキ屋さんとかサッカー選手とか。とりあえず、なりたいなあって思ったものでいいから。夢って言うのは、大人になったら変わることもあるもの」

「先生もー?」


 クラスの子が手をあげると、先生は『そうね』と言った。


「中学生とか高校生。もっと大人でも変わることはあるの。でも、何もないままは……やりたいことが見つからなくて大変なことになるわ。とりあえず、でまずはいいわよ?」


 あたしは、ずっと一緒だけど。

 みんなはそうじゃない。

 お店をやってないおうちの方が多い。

 なっちゃんのおうちもそうだったわ。

 ちらっと見ると、先生からくばられたプリントを見てて、『うーん』ってしてた。きっと、なっちゃんの夢はまだ決まっていないんだ。

 まだ子どもだから……って言うのもあるだろうけど。

 美濃みのさんやおじいちゃんと一緒に、パンを作るのが楽しいから。

 ずっと……それが続くと思って、いたんだけど。

 おじいちゃんはおとなになったら、美濃さんから離れたって言ってた。

 美濃さんも、ままごとキッチンに戻ったって言ってた。

 あたしが、おとなになったら……同じようになっちゃう?


(そんなのいやだ!)


 すぐに泣きそうになったけど……学校だから、我慢して。

 帰ってから、美濃さんのいる蔵にすぐに行って。

 扉を開けたら……美濃さんはちゃぶ台でお茶を飲んでたわ。

 あたしがいきなり来たから、びっくりしてたけど。


『おや、桜乃さくの? おかえり』

「! 美濃さん!」


 美濃さんの顔を見て……もうダメだった。

 わって泣いて、すぐに飛びついて、抱っこしてもらって。

 びーびー泣いてることしか出来なかった。


『うん? どうかしたかえ? 嫌なことでもあったか?』


 優しくとんとんしてくれるのが、おかあさんと一緒で。

 それから、ずっと……ずーっと泣いて、泣きやむまで。

 美濃さんがヨシヨシしてくれたから……あたしはぐしゃぐしゃな顔になっても。

 ちゃんと、泣いてた理由をゆっくり言った。いつか、美濃さんに会えなくなって、また美濃さんをひとりぼっちにしちゃうかもって。

 けど……美濃さんは首を横に振った。


「……ぐす」

『道具は使われる時とそうでない時がある。桜乃にも、いつかそうなってしまう時はあっておかしくない』

「…………ヤダ」

『ほっほ。まあまだ大人になるのは先じゃ。十年程度経たねばわからぬ』

「……じゅうねん?」

『桜乃が高校生の頃じゃな?』

「……それまで、一緒?」

『桜乃があちきと一緒を望むならじゃ』

「! ずっと一緒!」


 もう一度抱っこしてもらって、あたしは絶対美濃さんをひとりにしないって決めたわ!!
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