【完結】パンでパンでポン!!〜付喪神と作る美味しいパンたち〜

櫛田こころ

文字の大きさ
2 / 128

第2話 蔵の中で

しおりを挟む

「けっほ、けほ!」


 蔵の中に入ったんだけど。

 くちゃい、きたない。おじいちゃんとおばあちゃんが……ときどきおそうじしてるって聞いてたのに。

 まだだったのかな? いやな時にきちゃった。

 でも……おじいちゃんたちのお家に行く気にはなれなかったから、中に入ることにした。

 まっくらで……じめじめしてる。

 前におじいちゃんに教えてもらったけど、ここは光をあんまり入れちゃだめなんだって。しまっているものが、だめになるからなんだって。変なの。


「……おじゃま、します」


 誰からも返事がないだろうけど。

 いちおー、ここはお家とは違うところ。

 だから……あいさつしたんだけど。

 びっくりすることが起きた。


『お入り』


 声が聞こえた!?

 あたしじゃない……女の子? ううん、女の人の声。

 びっくりして、開けておいた蔵の扉を閉めちゃった!?

 まっくらがもっとまっくらになって……こわくなってきて、あたしは泣きたくなった!!

 なにが起きたの!?


「……う……うっ!」


 こわい。

 こわい、こわい!!

 おかあさん、こわいよ!!

 あんなこと言っちゃったけど……やっぱり、おかあさんに助けてほしい。

 おとうさんもだけど、おじいちゃんおばあちゃんよりも……おかあさんがすぐに出てきて。

 だんだんと……泣いてしまうのがわかったけど、扉を開けるのが出来なくて。

 赤ちゃんの宙太そらたのように、泣き叫ぼうとしたら。


『ほっほ。驚かせてすまなんだ?』


 また……女の人の声が聞こえてきて、頭になにかあったかいのがさわってきた。おかあさんが……頭をなでなでしてくれるみたいに。


「……だ、れ……?」


 そのあったかいので……こわいのが、ちょっとだけ消えた。少しずつ……こわくなくなってきたの。


『うむ。あちきのことをあまり覚えておらなんだ? まあ、まだ幼いゆえに仕方なかろう』


 女の人がそう言ったあと……パチンっと、大きな音が聞こえて。蔵の中が、電気もつけていないのに……明るくなった!?

 びっくりしたけど……あたしの前にいた女の人にも驚いた!?


「……え?」


 見たことがない……きれーな女の人。

 おかあさんより……年下?

 あたしよりもっと大きなおねえさんだ。

 真っ黒の髪。

 きれーな白いはだ。

 目も大きくてかわいい。

 にこにこ笑って、あたしを見ている。

 こんなきれーな人……パン屋のお客さんでも見たことない。

 誰だろう?


『久しいのお。桜乃さくの?』

「……あたし、のなまえ」

『覚えておらなんだ。あちきじゃよ、美濃みのじゃ』

「み……の、さん?」

『ほっほ。やはり覚えておらなんだ』


 みの……っておねえさんは、さっきからあたしがおねえさんを知っているって言うけど。

 こんなにもきれーなおねえさん……見たら覚えているのにな?

 首を横に振ると、みののおねえさんは……奥に指を向けた。

 そこにあったのは。


「……ままごとキッチン?」


 ちょっと汚れているけど……ピンク色のあたしくらいの大きさのおもちゃ。

 保育園の頃は、よく遊んでいた……おままごとの時に使っていた、大事なおもちゃ。

 それが……たしかおばあちゃんがしまっておこうか? と言ってくれたから、ここにあるんだっけ?


『あちきは、あの『ままごとキッチン』そのものじゃ』

「え?」

『あちきは人間じゃないんよ。付喪神つくもがみと言う神様じゃ』

「……かみさま?」


 だから……こんなにもきれーなおねえさんなのかな?

 こわいのがなくなったから……あたしはそうなんだと思ったわ。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました

いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。 子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。 「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」 冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。 しかし、マリエールには秘密があった。 ――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。 未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。 「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。 物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立! 数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。 さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。 一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて―― 「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」 これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、 ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー! ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

異世界ママ、今日も元気に無双中!

チャチャ
ファンタジー
> 地球で5人の子どもを育てていた明るく元気な主婦・春子。 ある日、建設現場の事故で命を落としたと思ったら――なんと剣と魔法の異世界に転生!? 目が覚めたら村の片隅、魔法も戦闘知識もゼロ……でも家事スキルは超一流! 「洗濯魔法? お掃除召喚? いえいえ、ただの生活の知恵です!」 おせっかい上等! お節介で世界を変える異世界ママ、今日も笑顔で大奮闘! 魔法も剣もぶっ飛ばせ♪ ほんわかテンポの“無双系ほんわかファンタジー”開幕!

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました

雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。 気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。 剣も魔法も使えないユウにできるのは、 子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。 ……のはずが、なぜか料理や家事といった 日常のことだけが、やたらとうまくいく。 無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。 個性豊かな子供たちに囲まれて、 ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。 やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、 孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。 戦わない、争わない。 ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。 ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、 やさしい異世界孤児院ファンタジー。

無能扱いされ、パーティーを追放されたおっさん、実はチートスキル持ちでした。戻ってきてくれ、と言ってももう遅い。田舎でゆったりスローライフ。

さら
ファンタジー
かつて勇者パーティーに所属していたジル。 だが「無能」と嘲られ、役立たずと追放されてしまう。 行くあてもなく田舎の村へ流れ着いた彼は、鍬を振るい畑を耕し、のんびり暮らすつもりだった。 ――だが、誰も知らなかった。 ジルには“世界を覆すほどのチートスキル”が隠されていたのだ。 襲いかかる魔物を一撃で粉砕し、村を脅かす街の圧力をはねのけ、いつしか彼は「英雄」と呼ばれる存在に。 「戻ってきてくれ」と泣きつく元仲間? もう遅い。 俺はこの村で、仲間と共に、気ままにスローライフを楽しむ――そう決めたんだ。 無能扱いされたおっさんが、実は最強チートで世界を揺るがす!? のんびり田舎暮らし×無双ファンタジー、ここに開幕!

クラス最底辺の俺、ステータス成長で資産も身長も筋力も伸びて逆転無双

四郎
ファンタジー
クラスで最底辺――。 「笑いもの」として過ごしてきた佐久間陽斗の人生は、ただの屈辱の連続だった。 教室では見下され、存在するだけで嘲笑の対象。 友達もなく、未来への希望もない。 そんな彼が、ある日を境にすべてを変えていく。 突如として芽生えた“成長システム”。 努力を積み重ねるたびに、陽斗のステータスは確実に伸びていく。 筋力、耐久、知力、魅力――そして、普通ならあり得ない「資産」までも。 昨日まで最底辺だったはずの少年が、今日には同級生を超え、やがて街でさえ無視できない存在へと変貌していく。 「なんであいつが……?」 「昨日まで笑いものだったはずだろ!」 周囲の態度は一変し、軽蔑から驚愕へ、やがて羨望と畏怖へ。 陽斗は努力と成長で、己の居場所を切り拓き、誰も予想できなかった逆転劇を現実にしていく。 だが、これはただのサクセスストーリーではない。 嫉妬、裏切り、友情、そして恋愛――。 陽斗の成長は、同級生や教師たちの思惑をも巻き込み、やがて学校という小さな舞台を飛び越え、社会そのものに波紋を広げていく。 「笑われ続けた俺が、全てを変える番だ。」 かつて底辺だった少年が掴むのは、力か、富か、それとも――。 最底辺から始まる、資産も未来も手にする逆転無双ストーリー。 物語は、まだ始まったばかりだ。

処理中です...