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第一章

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「どうかな?」

 パクリと一口食べたひょうちゃんを恐る恐る見上げる。

「………。」

 もぐもぐとオムライスの一部を食べるひょうちゃんに僕は死刑宣告をされるのを待つが如く、生きた心地がしなかった。
 そして、それを飲み込んだ。

「……可も不可もない。」
「……。」

 うん……。

「可も、不可も、なく?」
「ああ。」
「……。」

 黙々と咀嚼を繰り返すひょうちゃん。

 多分、まずくはないんだろうな。

 だけど、特別に美味しいわけでもない。

 だから、可も不可もなく……。

 僕は自分のオムライスを食べる。

「……。」

 うん、可も不可もない。

 ずーん、と落ち込む。

 そりゃ、まずいとは言って欲しくはないから、かろうじて、及第点か欠点よりも一点だけ上という感じだろう。

 ……絶対に、美味しいと言ってもらう。

 その為には、今日帰ってきたお母さんに、頼み込んで夕飯を頑張って。

 後、今日の夜にでも、小百合さんに連絡を取って、稽古後にでも料理を教えてもらおう。

 ひょうちゃんの好きそうな料理をネットとかから拾ったり。

 お弁当も自作すれば数をこなせるか。

 よし。

 僕は絶対に次にひょうちゃんに食べてもらう時は美味しいと言ってもらうように頑張る事にしたのだった。

「おい。」
「ああ、お茶だね、ちょっと待ってね。」
「ああ。」

 僕は冷蔵庫のポケットにある作り置きの麦茶を取り出す。

 二つの色違いのグラスを用意する。

 緑色のグラスと、青いグラス。

 これは幼い頃に母さんが買ってくれたグラスだ。

 緑は僕、青はひょうちゃん。

 幼い僕らはニコニコしながらこのグラスでお茶も飲んだし、ジュースも飲んだ。

 たくさんの思い出がこれに詰まっていた。

 コポコポと麦茶を入れる。

 楽しかった思い出。

 悲しかった思い出。

 憤った思い出。

 喜び合った思い出。

 たくさんの思い出がよみがえり、僕は一人微笑む。

「おい。」
「はいはい、すぐに持っていくよ。」

 僕は二人分を入れ終わると、残りの麦茶は元の場所に仕舞い、グラスを二つ持つ。

「お待たせ。」
「ああ。」

 ひょうちゃんはそれを受け取り、一口飲む。

「ん。」

 満足そうな顔のひょうちゃんに僕は頬を緩めて、自分のオムライスをまた食べ進める。
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