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第三章

《油断 12》

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 男がそれを受け止めたのはカルムの漏らしたわずかな殺気所為だった。

「あぶねーな。」
「……。」

 奇襲は失敗に終わった。
 でも、カルムにしたら想定内。
 すぐに体を捻り、蹴りを入れる。
 しかし、それも防がれる。
 だけど、カルムもそれが目的ではない、反動により彼は男から離れたところに着地する。

「あー、どこかで見た事があるガキだなー。」
「……。」

 コキコキと首を鳴らす男。
 そして、何かを思ったのかその口がニヤリと笑う。

「あー、あのバケモンの連れか。」

 ピクリとカルムの肩が上がる。

「あー、敵討ちか?」
「……。」
「だったら、相手が違うぞ?」
「……。」
「あのバケモンは自分から落ちたんだぞ?」
「……。」
「だーから、無関係なの。分かりましたか?」
「……無関係?」
「そうそう。」
「どこがだ、あいつを襲った時点でお前は終わってんだ。」
「えー、何で?」

 男は本気で分からないのか首を捻っている。

「あいつの平穏を踏みにじっといて何をぬかすんだ。」
「えー、害虫は処分するもんだろう?」
「……。」

 カルムの目から温度が消える。

「だから、処分するために呼ばれたんだし、どうせあの高さから落ちたんだから死んだんだろう?」
「……そうか、そんなにお前は俺を怒らせたいんだな。」
「えー、訳が分からないなー。」
「…………。」

 カルムは小さく口を動かす。
 本来力を使う時、呪文とかを唱えて方向性を決める。
 だけど、セイラもカルムたちも力が強すぎるためイメージしただけで出来てしまう。
 なのだけど、今回はそんな大雑把では駄目だった。
 時間。
 場所。
 全てを指定し。
 固定する。
 いくつもの言葉を織り交ぜる。
 そして、精霊たちが作用しやすいようにところどころ古語を混ぜる。

「あぁ?あの世に向かう自分へのお祈りか?」
「………そんなものかもな。」

 唱え終えたカルムは再び剣を構える。

「そんじゃ、死にやがれ。」
「……。」

 男の攻撃がカルムに襲い掛かる。
 カルムは攻撃をいなすが、それでも、相手のスピード、力にその幼い体が追い付かない。
 必死に食らいつく。
 だけど、未熟なカルムは成熟した男には勝てない。
 致命傷は受けていないが、それでも、それは時間の問題だった。
 傷が増えていく。
 血が流れる。

「あーあ。傷だらけですねー。」
「……。」

 傷だらけのカルム。
 だけど、その目は死んでいない。

「血を媒体に、発動せよ。」

 カルムがそう呟いた瞬間、赤い火柱が上がる。

「なっ!」

 火柱はうねり龍となる。

「何だ、この蛇は。」
「龍だ。」

 男の言葉が分かるかのように火龍は牙を剥く。

「っ!」

 男は驚いてバックステップで避ける。
 そのお陰で男は命拾いをする。
 彼がいた場所に火龍はブレスを発した。

「こいつもお前が嫌いのようだな。」
「……。」

 ニヤリと笑うカルムに男はニヤニヤとした表情を消していた。

「……バケモンの連れはバケモンかよ。」
「……。」

 カルムはスッと目を細め。
 ゆっくりと手を前にかざす。

「誰がバケモンだ。」

 火龍はカルムの感情に同調してたように苛立ちげに体をうねらせる。

「あいつはバケモンじゃねぇ。」

 苦しんでいる姿を知っている。
 無力だと嘆きながらも、その膨大な力に怯える彼女。
 力が大きすぎて繊細な微調整が必要となる。
 それはどれだけの集中力を彼女に強いるのだろう。
 カルムには想像も出来なかった。
 彼の力は彼の成長と共に大きくなる。
 だから、常に扱いきれる範囲しかないのだ。
 だけど、今回莫大な力を前借して、暴発しそうになるのを何度も冷や汗をかきながらも乗り切った。
 表では出せなかったがかなりギリギリだった。
 もし、詠唱途中で相手が容赦なく攻撃してきたら間違いなく自滅していただろう。
 それくらい危ういものだった。
 それをセイラは平然とやり切っているのだ、当たり前だからかもしれないがそれはどれだけの神経をすり減らしている事になるだろう。
 カルムは一つ目の術を発動させたが、まだトラップを隠している。
 それをベストのタイミングで放つように意識を相手と罠に持って行く。

「どれだけ身を切って頑張っていると思っているんだ。」

 当然じゃない。
 何度こっそり泣いているところを見ただろう。
 見られたくないのを知っているから近寄って慰める事も出来ない。
 歯がゆい思いを何度味わっただろう。
 それなのに、そんな努力を知らない連中はカルムの大切な少女を化け物と呼ぶ。
 それが許せなかった。
 そして、それはカルムだけじゃない。
 近くで控えている緋焔も同じだった。
 カルムに流れ込んでくる力がマグマのようだった。
 耐性のあるカルムだから何とか受け入れられるが、ただ人だったらひとたまりもなかっただろう。

「知らねぇよ。」
「……。」

 知ってもらおうとは思わない。
 だけど、何も知らないのに化け物と決め付けられるのは許せない。

「楽に死ねると思うなよ。」

 そうカルムは呟くと火龍を背に剣を構える。
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みんなの感想(2件)

スパークノークス

おもしろい!
お気に入りに登録しました~

弥生 桜香
2021.09.26 弥生 桜香

スパークノースク様
ご登録ありがとうございます
おもろいと言って下さって嬉しいです

解除
花雨
2021.08.15 花雨

作品登録しときますね♪ゆっくり読ませてもらいます(^^)

弥生 桜香
2021.08.16 弥生 桜香

花雨様
登録ありがとうございます
楽しんで頂けたら幸いです

解除

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