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第三章
《油断 9》
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「セイラっ!」
「セイラ様っ!」
「せーらーざーまー。」
騒がしい声にセイラの意識は浮上し、薄っすらと目を開ける。
「……み…ん…な?」
「セイラっ!」
「ああ、神様っ!」
「よがっだー……。」
セイラは飛び込んできた光景に軽く目を見張る。
カルム、ミラは彼らの方が死んじゃうんじゃないというほど顔を青くさせ、レラは目が溶けてしまうのではないかと言うほど涙を流していた。
「……み…ん…な…け…が…ない?」
「馬鹿、自分の心配しろよ。」
「そうですよ。」
「ふ……ふ……。」
カルムたちの怪我の心配をするセイラにカルムとミラは怒ったようにでも、彼女らしいと嬉しさ半分で文句を言う。
レラはどうにか涙を押さえつけようと拳で自分の口を押えながらも、二人の言葉にコクコクと頷いている。
「………だ…って…。」
セイラにとって自分よりも置いてきた彼らの方がきっと自分の何倍も怖くてつらかったと思うから、だから心配するのは当然だった。
「たい…せつ…だから……だから…みんな…ぶじ…で…よかった…。」
「ゼイラ…ざ…ま。」
「……っ。」
「ズルいです…。」
レラは滝のような涙を流し、カルムは唇を噛み、ミラはその目に涙を浮かべる。
「ふふ…。」
セイラは笑みを浮かべるが、すぐに傷口に触ったのか顔を顰める。
「セイラ様、ご無理をなさらないで下さい。」
「……そうだぞ。」
「……。」
三人の言葉にセイラは目を瞑って、今確認するべきことを考えて、そして、一つだけ彼らに確認をする。
「私を…ここまで追い込んだ、相手とは遭遇してない?」
「会ってない、むしろ、会ってそいつを殴りたい。」
「ええ。」
「絶対に許さない。」
「あら…。」
何故か殺る気スイッチが入ってしまった三人にセイラは呆気にとられる。
「三人とも…。」
「止めるのはなしだからな。」
「そうですよ。」
「無理ですから。」
「……。」
「セイラだって大切な人が傷つけられたら黙っていられないだろう?」
「……。」
確かに、皆が傷ついたら、自分は許さないだろうと、セイラも分かっていた。
だから、気まずそうに無言になる。
「ほらな。」
「ですね。」
「だね。」
得意げなカルム、嬉しそうなミラ、ニコニコと笑うレラ。
「もう、三人とも、ちゃんと休んでいるの?」
「あー…勿論…。」
「ええ…。」
「えっ、えへへ。」
居たたまれなくなったセイラは苦し紛れにそんな事を聞くと三人は明らかに動揺していた。
「……私に無理をしないように言っているけど、皆も無理しないで…。」
「分かっている…。」
「分かっていますけど…。」
「…だって、怖かったんですよ、もしかしたらセイラ様が目を覚まさないんじゃないかって。」
レラの言葉にセイラは言葉を失う。
自分はそう簡単に死なない。
そう思っているのは自分だけであった事実にセイラはどうしようもない気持ちになった。
幼い頃から殺されかけて、何度も、何度も命を拾い上げてこうして生きてきたのだから、多少の怪我で死ぬなんてセイラは思わなかった。
だけど、それはセイラだけで。
他のカルムもミラもレラも大けがを負って真っ青なセイラが死んでしまうのではないかと気が気でなかったのだ。
今まで生きていたことは奇跡。
いつどこでこの小さな命が失われていても可笑しくない。
それなのに、その本人だけが分かっていない。
もしかしたら、自分たちが目を離したところでいなくなっているかもしれない。
それは死と言う意味ではなく、失踪という可能性もある。
セイラは自分がどれほど彼、彼女らの中で重要なのか理解していない。
「セイラ。」
「……?」
カルムの言葉にセイラは小首を傾げる。
何も分かっていない彼女にカルムは色々言いたかった。
でも、今の彼女に何を言っても心に響く事はないと分かっているのか、これ以上何も言う事はない。
それ以前に万全の状態ではないセイラに彼は何も言えなかった。
「大人悪しく寝ろ。」
「そうね、大人しく寝させてもらうわ。」
セイラはカルムの言葉に少し笑って目と閉じる。
しばらくして、セイラの寝息が彼らの耳に届く。
「……よかった…。」
ポツリと呟かれたミラの言葉。
それは残る二人も同じだった。
レラは鼻を鳴らしながら再びこぼれそうな涙を止めようと頑張っている。
「……。」
ミラは神に感謝するように手を組み、目を瞑る。
「………。」
カルムは目を瞑り、そして、外していた剣を腰に佩く。
「どちらに行かれるのですか?」
鋭いミラの視線がカルムを射抜く。
「決まっているだろう。」
「セイラ様は望んでいませんよ。」
「分かっている、だから、これは俺個人のモノだ。」
「……。」
ミラはじっと見つめ、そして、ため息を零す。
「本当はついて行きたいですが、セイラ様を残すのも嫌です……。
ですから、必ず貴方が勝ってきなさい。」
「ああ。」
一人分かっていないレラは首を傾げる。
「行ってくる。」
そう言い残すとカルムは安全地帯から危険な外へと飛び出した。
「ミラ、いいの?」
「ええ、あのバカは強いですから。」
周りへの考慮を全て取り払った場合、この中で一番強いのは間違いなくカルムだった。
だから、ミラは彼が一人飛び出していくことを止めなかった。
彼ならば必ず勝ち残って来る事が分かっていたから…。
「セイラ様っ!」
「せーらーざーまー。」
騒がしい声にセイラの意識は浮上し、薄っすらと目を開ける。
「……み…ん…な?」
「セイラっ!」
「ああ、神様っ!」
「よがっだー……。」
セイラは飛び込んできた光景に軽く目を見張る。
カルム、ミラは彼らの方が死んじゃうんじゃないというほど顔を青くさせ、レラは目が溶けてしまうのではないかと言うほど涙を流していた。
「……み…ん…な…け…が…ない?」
「馬鹿、自分の心配しろよ。」
「そうですよ。」
「ふ……ふ……。」
カルムたちの怪我の心配をするセイラにカルムとミラは怒ったようにでも、彼女らしいと嬉しさ半分で文句を言う。
レラはどうにか涙を押さえつけようと拳で自分の口を押えながらも、二人の言葉にコクコクと頷いている。
「………だ…って…。」
セイラにとって自分よりも置いてきた彼らの方がきっと自分の何倍も怖くてつらかったと思うから、だから心配するのは当然だった。
「たい…せつ…だから……だから…みんな…ぶじ…で…よかった…。」
「ゼイラ…ざ…ま。」
「……っ。」
「ズルいです…。」
レラは滝のような涙を流し、カルムは唇を噛み、ミラはその目に涙を浮かべる。
「ふふ…。」
セイラは笑みを浮かべるが、すぐに傷口に触ったのか顔を顰める。
「セイラ様、ご無理をなさらないで下さい。」
「……そうだぞ。」
「……。」
三人の言葉にセイラは目を瞑って、今確認するべきことを考えて、そして、一つだけ彼らに確認をする。
「私を…ここまで追い込んだ、相手とは遭遇してない?」
「会ってない、むしろ、会ってそいつを殴りたい。」
「ええ。」
「絶対に許さない。」
「あら…。」
何故か殺る気スイッチが入ってしまった三人にセイラは呆気にとられる。
「三人とも…。」
「止めるのはなしだからな。」
「そうですよ。」
「無理ですから。」
「……。」
「セイラだって大切な人が傷つけられたら黙っていられないだろう?」
「……。」
確かに、皆が傷ついたら、自分は許さないだろうと、セイラも分かっていた。
だから、気まずそうに無言になる。
「ほらな。」
「ですね。」
「だね。」
得意げなカルム、嬉しそうなミラ、ニコニコと笑うレラ。
「もう、三人とも、ちゃんと休んでいるの?」
「あー…勿論…。」
「ええ…。」
「えっ、えへへ。」
居たたまれなくなったセイラは苦し紛れにそんな事を聞くと三人は明らかに動揺していた。
「……私に無理をしないように言っているけど、皆も無理しないで…。」
「分かっている…。」
「分かっていますけど…。」
「…だって、怖かったんですよ、もしかしたらセイラ様が目を覚まさないんじゃないかって。」
レラの言葉にセイラは言葉を失う。
自分はそう簡単に死なない。
そう思っているのは自分だけであった事実にセイラはどうしようもない気持ちになった。
幼い頃から殺されかけて、何度も、何度も命を拾い上げてこうして生きてきたのだから、多少の怪我で死ぬなんてセイラは思わなかった。
だけど、それはセイラだけで。
他のカルムもミラもレラも大けがを負って真っ青なセイラが死んでしまうのではないかと気が気でなかったのだ。
今まで生きていたことは奇跡。
いつどこでこの小さな命が失われていても可笑しくない。
それなのに、その本人だけが分かっていない。
もしかしたら、自分たちが目を離したところでいなくなっているかもしれない。
それは死と言う意味ではなく、失踪という可能性もある。
セイラは自分がどれほど彼、彼女らの中で重要なのか理解していない。
「セイラ。」
「……?」
カルムの言葉にセイラは小首を傾げる。
何も分かっていない彼女にカルムは色々言いたかった。
でも、今の彼女に何を言っても心に響く事はないと分かっているのか、これ以上何も言う事はない。
それ以前に万全の状態ではないセイラに彼は何も言えなかった。
「大人悪しく寝ろ。」
「そうね、大人しく寝させてもらうわ。」
セイラはカルムの言葉に少し笑って目と閉じる。
しばらくして、セイラの寝息が彼らの耳に届く。
「……よかった…。」
ポツリと呟かれたミラの言葉。
それは残る二人も同じだった。
レラは鼻を鳴らしながら再びこぼれそうな涙を止めようと頑張っている。
「……。」
ミラは神に感謝するように手を組み、目を瞑る。
「………。」
カルムは目を瞑り、そして、外していた剣を腰に佩く。
「どちらに行かれるのですか?」
鋭いミラの視線がカルムを射抜く。
「決まっているだろう。」
「セイラ様は望んでいませんよ。」
「分かっている、だから、これは俺個人のモノだ。」
「……。」
ミラはじっと見つめ、そして、ため息を零す。
「本当はついて行きたいですが、セイラ様を残すのも嫌です……。
ですから、必ず貴方が勝ってきなさい。」
「ああ。」
一人分かっていないレラは首を傾げる。
「行ってくる。」
そう言い残すとカルムは安全地帯から危険な外へと飛び出した。
「ミラ、いいの?」
「ええ、あのバカは強いですから。」
周りへの考慮を全て取り払った場合、この中で一番強いのは間違いなくカルムだった。
だから、ミラは彼が一人飛び出していくことを止めなかった。
彼ならば必ず勝ち残って来る事が分かっていたから…。
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