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第三章

《贈り物 8》

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 お茶の良い匂いにセイラは頬を緩める。

「ありがとう、えっと。」
「あっ、セイラと申します。」

 セイラは困ったような顔をした女将さんを見て自分が彼女に名乗っていない事を思い出す。

「セイラちゃんね、わたしはアンだよ。」
「アンさんですね。」
「女将さんでいいよ、カル坊にもそう言われているしね。」
「でしたら、女将さん、こちらのお盆は持って行きますか?」
「そうだね。」
「……セイラちゃん。」
「何ですか?」
「……………………………………噂をしっているね。」
「……よく分かりましたね。」

 女将さんの言葉にセイラは苦笑する。

「あの時、不思議そうな顔をする一瞬だけど、顔を強張らせただろう?」
「……駄目ですね。」

 セイラは自嘲を浮かべながら自分の顔に触れる。

「知っていて何で黙っているんだい?」
「簡単な事ですよ、必死で消して回っても相手の方が上手です、そんな労力を使うくらいならば、地道に活動して自分たちを知ってもらった方がいいんです。」
「………。」
「言葉で否定しても、どうせ悪い噂の方が浸透しています。
 それならば、自分がそうでない、そう否定するのなら、自分の働きを見てもらうしかないんです。
 そこから、徐々に人に知ってもらって、否定してもらうしか、私たち子どもにはできません。」
「……。」

 子どものような無邪気さとはかけ離れたような目をするセイラに女将さんは何とも言えない顔をする。

「石を投げられても、泥をかけられても、私は何にも悪い事をしていないと胸を張らないといけないんです。」

 女将さんはその言葉で彼女は悪意の満ちた噂の所為でその小さな体に沢山の見える傷も視えない傷も負わされているのだと悟った。

「それはカル坊も知っているのかい?」
「知っているものもあれば、知らないものもあります。」

 何でもないように言う彼女はきっとどこか心の一部を壊されてしまったのだろう。

 まだ大人に守られる子どものはずなのに。

 彼女は一人でその細い脚でしっかりと立っていた。

 彼女は頼る事を知っているのだろうか?

 きっと知らないのだろう。

 だから、彼女の周りには過保護な子どもたちがいる。

 いつか折れてしまいそうな彼女を守りたいと思っている同じように幼い子供たち。

 カルムが何故この子に特殊の髪飾りを贈りたいのかようやく理解できた。

「確かに危うい子どもだね。」
「えっ?」
「……よし、分かった。」
「えっと?」
「わたしがちゃんとした髪飾りを作ってやるからね。」
「えっと、ありがとうございます、でも、出来れば私も少しでも手伝えたら嬉しいです。」
「そうだね、まあ、セイラちゃんのお手製だったらあの双子のお嬢さんも喜ぶだろうね。」

 セイラも双子を思い浮かべたのかくすくすと小さく笑う。

「ええ、あの子たちなら私が上げたものだったらなんでも喜びますから。」
「それじゃ、そろそろ戻ろうとしよう、きっと腹をすかせた熊のようにうろうろしているころだからね。」
「それはないですよ。」

 セイラはそう苦笑しながら否定の言葉を言っていていたが、彼女たちがお茶を持ってきたら、腹をすかせた熊…ではなく、セイラを心配して二人がうろうろしていて、それを面白そうに見ている筋肉と呆れる少女がいた。

「あら…。」
「カルム…ミラ…。」

 うろうろとしていたのはカルムとミラだった。
 女将さんはてっきり双子の片割れのレラの方とカルムがうろうろしているだろうと思ったが、まさか冷静そうなミラの方がうろうろするとは予想外だった。
 セイラは落ち着きのない二人に呆れたようにため息を吐いた。

「二人とも椅子に座って。」
「セイラ。」
「セイラ様。」

 まるで忠犬のようにセイラの言いつけを守る二人の姿に女将さんは思わず苦笑いを浮かべるのだった。
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