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第三章
《贈り物 6》
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「あら、カルくん、昨日は来てくれたのにいなくてごめんね。」
「あっ、女将さん、おはようございます。」
「おはよう、あの人ならまだ寝ているわよ。」
「マジか。」
「ええ、カルくんが面白い事を思いつてくれたから昨日も徹夜していたのよ、本当に中身はいつまで経っても子どもよね。」
「……。」
呆れた顔をしている女将さんに対し、カルムは何とも言えない顔をする。
「で、今日はどうしたの?」
「あー、実はあの髪飾りを見て、プレゼントしたいとい奴がいて。」
「……。」
女将さんはそれを聞いて何とも言えないかをする。
「あれは、カルくんが考えたものだからこちらとしては構わないのだけども、いいの?」
せっかく好いた女の子に上げたのに他の子にも似たようなものを作るのはカルムの努力を無にするようなそんな気持ちに女将さんはなってしまった。
「あー…。」
カルムは女将さんの気づかいに気づいて苦笑いを浮かべる。
「実はそれが贈った人で。」
「まあ。」
女将さんはそれを聞くと憤慨した顔をする。
「その子はカルくんの思いを踏みにじったの?」
「んー、そうとは違うんです。」
「……。」
女将さんはため息を零す。
「少しお話をしましょうか?」
「いや、あいつを待たせてて。」
「カルくん?」
ニッコリと笑う女将さんは何処か自分の母やセイラを訪仏させて、カルムの表情が強張ってしまう。
「えっと、その…。」
「カルくん?」
「す、少しなら。」
「ふふふ、じゃあ、ちょっと待っててね。」
意気揚々とお茶の準備を始める女将さんにカルムは項垂れる。
「負けた。」
「カルくん、甘いお茶でも大丈夫?」
「あー、はい。」
「昨日いただいたお茶が美味しかったからご馳走するわね。」
上機嫌でお茶を淹れる女将さんにカルムは顔を強張らせながら彼女の言葉を待つ。
「はい、どうぞ。」
出されたお茶からは確かに甘い匂いがして、カルムはその甘い匂いはセイラが好きそうだと思った。
「頂きます。」
カルムはカップを持ち、淵に口を付ける。
「甘いけど、美味しい。」
想像していたよりもずっと甘く、カルムは目を見張った。
「そうでしょ。」
ふふふ、と笑いながら女将さんはカルムと向かい合うように座る。
「さて、カルくんの想い人ってどういう子なの?」
「想い人って…。」
女将さんの言葉にカルムは困惑しながらも口を開く。
「……自分の事よりも、他人の事ばっかり考える、そんな奴だよ。」
「……。」
「だから、今回も俺が贈って申し訳なさそうな顔をしていたけど、受け取ってくれて。
まあ、多分嬉しかったから、自分の家族同然の奴らに同じようなものを贈りたいと思ったんだろうな。」
「……。」
「それに、そいつらもセイラに贈りたいと思っていたから同じものを返したいんだと思う。」
「カルくんには申し訳ないけど、本当に?」
「……。」
女将さんの言葉にカルムは怪訝な顔をする。
「何というか、カルくんの雇い主って色んな噂があるのよね。」
「噂?」
カルムは眉を跳ね上げる。
「聞いた話だと悪い噂が九割、良い噂が一割なのよね。」
「……。」
ガリっとカルムの口から音が漏れる。
「…………だから、正直カルくんが入れ込むようなそんな子がどうもそうぞうできないのよ。
うちの人は依頼者が信用できるのなら贈る相手はどんな相手でも気にしないけど…ね。」
「……………………………本当に、あいつの周りは敵が多いな。」
「カルくん?」
「どうせ、俺がいくらあいつの事を語っても腑に落ちないのなら、実際に見てください。
一つ、お願いがあります。」
「何かしら?」
「普通の客として扱ってください。」
「……。」
「嫌な噂ばっかりを聞いて疑うと思う、だけど、あいつはきっとそんな目で見られても仕方ないと、受け入れる。」
カルムはあの小さな背中を思い出す。
あの小さな背中には沢山の恨み辛みがのしかかっている。
彼女はただ小さな幸せしか望んでいないのに、見た目だけで彼女は沢山の負の念を背負わされている。
彼女は、それは仕方ない事だといって一人笑みを浮かべて受け入れている。
それがどうしても、許せなかった。
「あいつだって幸せになっていいのに、いつも、いつも、俺たちの事ばっかり。
あいつだって幸せになる権利があるのに。
努力だってしているのに…。
何であいつだけ。」
「……。」
「だから、色眼鏡を付けずにあいつを見て欲しい。」
「………………そうね、まだ、カルくんと同じくらいの年頃の子なのよね。」
「ああ。」
「そんな子が呪い殺すだなんて…ないわよね?」
「もし、あいつが呪い殺すとすれば、あいつ自身だ。」
カルムは目を瞑ると、そこには悲しそうに、今にも泣き出しそうなそんな顔なのに、無理やり笑みを浮かべているセイラの姿がそこにあった。
「万一あいつが他人を恨むとすれば、きっと、大切な人に害があった時だけだ。」
「……。」
女将さんは目を瞑り、どこか諦めたようにため息を吐く。
「分かった、連れてきなさい、その子を。」
「ありがとうございます。」
カルムは深く頭を下げた。
どうか、セイラにもっと理解者が出来るように。
カルムはそんな願いを込めて、ただ、頭を下げた。
「あっ、女将さん、おはようございます。」
「おはよう、あの人ならまだ寝ているわよ。」
「マジか。」
「ええ、カルくんが面白い事を思いつてくれたから昨日も徹夜していたのよ、本当に中身はいつまで経っても子どもよね。」
「……。」
呆れた顔をしている女将さんに対し、カルムは何とも言えない顔をする。
「で、今日はどうしたの?」
「あー、実はあの髪飾りを見て、プレゼントしたいとい奴がいて。」
「……。」
女将さんはそれを聞いて何とも言えないかをする。
「あれは、カルくんが考えたものだからこちらとしては構わないのだけども、いいの?」
せっかく好いた女の子に上げたのに他の子にも似たようなものを作るのはカルムの努力を無にするようなそんな気持ちに女将さんはなってしまった。
「あー…。」
カルムは女将さんの気づかいに気づいて苦笑いを浮かべる。
「実はそれが贈った人で。」
「まあ。」
女将さんはそれを聞くと憤慨した顔をする。
「その子はカルくんの思いを踏みにじったの?」
「んー、そうとは違うんです。」
「……。」
女将さんはため息を零す。
「少しお話をしましょうか?」
「いや、あいつを待たせてて。」
「カルくん?」
ニッコリと笑う女将さんは何処か自分の母やセイラを訪仏させて、カルムの表情が強張ってしまう。
「えっと、その…。」
「カルくん?」
「す、少しなら。」
「ふふふ、じゃあ、ちょっと待っててね。」
意気揚々とお茶の準備を始める女将さんにカルムは項垂れる。
「負けた。」
「カルくん、甘いお茶でも大丈夫?」
「あー、はい。」
「昨日いただいたお茶が美味しかったからご馳走するわね。」
上機嫌でお茶を淹れる女将さんにカルムは顔を強張らせながら彼女の言葉を待つ。
「はい、どうぞ。」
出されたお茶からは確かに甘い匂いがして、カルムはその甘い匂いはセイラが好きそうだと思った。
「頂きます。」
カルムはカップを持ち、淵に口を付ける。
「甘いけど、美味しい。」
想像していたよりもずっと甘く、カルムは目を見張った。
「そうでしょ。」
ふふふ、と笑いながら女将さんはカルムと向かい合うように座る。
「さて、カルくんの想い人ってどういう子なの?」
「想い人って…。」
女将さんの言葉にカルムは困惑しながらも口を開く。
「……自分の事よりも、他人の事ばっかり考える、そんな奴だよ。」
「……。」
「だから、今回も俺が贈って申し訳なさそうな顔をしていたけど、受け取ってくれて。
まあ、多分嬉しかったから、自分の家族同然の奴らに同じようなものを贈りたいと思ったんだろうな。」
「……。」
「それに、そいつらもセイラに贈りたいと思っていたから同じものを返したいんだと思う。」
「カルくんには申し訳ないけど、本当に?」
「……。」
女将さんの言葉にカルムは怪訝な顔をする。
「何というか、カルくんの雇い主って色んな噂があるのよね。」
「噂?」
カルムは眉を跳ね上げる。
「聞いた話だと悪い噂が九割、良い噂が一割なのよね。」
「……。」
ガリっとカルムの口から音が漏れる。
「…………だから、正直カルくんが入れ込むようなそんな子がどうもそうぞうできないのよ。
うちの人は依頼者が信用できるのなら贈る相手はどんな相手でも気にしないけど…ね。」
「……………………………本当に、あいつの周りは敵が多いな。」
「カルくん?」
「どうせ、俺がいくらあいつの事を語っても腑に落ちないのなら、実際に見てください。
一つ、お願いがあります。」
「何かしら?」
「普通の客として扱ってください。」
「……。」
「嫌な噂ばっかりを聞いて疑うと思う、だけど、あいつはきっとそんな目で見られても仕方ないと、受け入れる。」
カルムはあの小さな背中を思い出す。
あの小さな背中には沢山の恨み辛みがのしかかっている。
彼女はただ小さな幸せしか望んでいないのに、見た目だけで彼女は沢山の負の念を背負わされている。
彼女は、それは仕方ない事だといって一人笑みを浮かべて受け入れている。
それがどうしても、許せなかった。
「あいつだって幸せになっていいのに、いつも、いつも、俺たちの事ばっかり。
あいつだって幸せになる権利があるのに。
努力だってしているのに…。
何であいつだけ。」
「……。」
「だから、色眼鏡を付けずにあいつを見て欲しい。」
「………………そうね、まだ、カルくんと同じくらいの年頃の子なのよね。」
「ああ。」
「そんな子が呪い殺すだなんて…ないわよね?」
「もし、あいつが呪い殺すとすれば、あいつ自身だ。」
カルムは目を瞑ると、そこには悲しそうに、今にも泣き出しそうなそんな顔なのに、無理やり笑みを浮かべているセイラの姿がそこにあった。
「万一あいつが他人を恨むとすれば、きっと、大切な人に害があった時だけだ。」
「……。」
女将さんは目を瞑り、どこか諦めたようにため息を吐く。
「分かった、連れてきなさい、その子を。」
「ありがとうございます。」
カルムは深く頭を下げた。
どうか、セイラにもっと理解者が出来るように。
カルムはそんな願いを込めて、ただ、頭を下げた。
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