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第一章

《安堵の涙》

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 セイラはフードの人物が倒れるのを見て、ようやく自分の危機が去った事を悟り、体が何故か震え出した。

「何で……。」

 ガタガタと震える己の体をセイラは抱きしめるが、その震えは止まらない。

「おまえ、だいじょうぶか?」
「……あ……。」

 心配そうに自分を覗き込む少年にセイラは答えようとした瞬間張りつめていたものが全てほどけたように彼女の瞳から涙が零れ始め、同時に口からは嗚咽が漏れる。

「ふ……あ…ふ……う…。」

 涙を止めたいのに、その涙が止まってくれない。
 セイラは何度も涙を拭うが、零れる涙は止まってくれずに次々と生まれる。

「……。」

 少年はオロオロとするが、すぐに何か思いついたようだが、少し顔を赤く染め、視線を泳がせたが、数秒もしないうちに何か決意したと思ったらーー。

「わるい。」

 そう言いながらセイラを抱きしめた。
 そして、あやすようにセイラの背中をゆっくりと叩く。

「ふ……あっ……うぅ…。」

 声を殺してまでなくセイラに少年は唇を噛む。

「大丈夫だ…大丈夫だ……。」

 セイラの耳元に優しい少年の声が自分を労わるように響く。

「…………。」

 どのくらいセイラは泣いたのか分からないがようやく落ち着きだした時に、ふと、この少年は誰なのだと疑問を抱く。
 徐々にセイラの顔が赤く染まり、その後青くなり、また赤くなり、忙しなくセイラの顔色が変わっているのだが、不幸か幸いか少年はその事に気づいていない。

「はぁ、家の息子はいつの間にスケコマシになったんだろうな。」
「なにいってやがる。」

 唐突に聞こえた男の声にセイラはびくりと体を強張らせ、少年はそれが恐怖のためだと思ったのか、実の父親を睨む。

「母ちゃんが見れば嘆くぞ。」
「……なげかない…。」
「嘆くな~。」
「……ちちおやにそっくりみたいだって?」
「おう、そうそーーってんな分けねぇだろうがっ!」
「……おやじがちがうことくらい、わかっている。」
「そうだろう、そうだろう、っておい、俺だって若い頃はモテたんだよ。その冷めた目は何だ。」
「……。」
「言いたい事は言え、クソガキが。」
「…………ぷっ、ふふふ。」

 親子漫才にセイラは思わず吹き出し、少年に縋り付きながら体を震わせる。

「おやじのせいで、わらわれたじゃないか。」
「お前の所為だろう。」
「つーか、さっきのはなし、かあさんがいうってことはじいさんのことだろうが。」
「……お前な…。」
「おやじがモテないことくらい、かあさんだってしっている。」
「………いいな。」

 ポツリと呟かれた言葉に少年は気遣うようにセイラを見る。

「いいな、親子で仲がいいって。」

 どこか羨ましそうな声に少年はもちろんその父親も痛ましげに彼女を見ていた。
 セイラは気づいていない、止まっていたと思っていた涙が一筋だけ零れた事に。

「「……。」」

 二人は何とも言えない顔でセイラを見ていたが彼女はその事に気づかなかった。
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