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第一章

《焔(ほむら)の少年》

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 少年――カルムがセイラを見つけたのは偶然だった。
 父親について冒険者としての心得を教えてもらっている所にセイラが苦し紛れに投げた石が彼の頭に当たったのだった。
 カルムは何でこんな石が飛んできたのだと訝しんでいると、痛みを堪える声が上がった。

「――っ!」
「おい、待て。」
「おやじ、だけど。」
「…お前の力量じゃ、死ぬぞ。」

 父親は木々の向こうで起こっている事が分かるのか、動こうとしない。
 カルムは何故か焦っていた。

 行かないといけない。

 そんな気がしたのだ。
 そんなカルムの焦りが分かっていたのか、父親は彼の腕を掴んでいる。

「はなせ。」
「駄目だ。」
「だったら、おやじがいってくれよ。」
「駄目だ。」
「なんでだよっ!」
「どうせ、厄介ごとに巻き込まれるだけだ。」

 冷たい物言いの父親にカルムは彼を睨む、そして、強行突破に出る。
 体を捻り、渾身の力で蹴りを入れる。
 まさか、息子がそこまでするとは思っていなかった父親は一瞬だが、力を緩めてしまった。
 カルムはその一瞬で十分だった。

 彼は手負いの獣ように父親の腕に噛み付き、痛みでさらに手が緩んだ隙に父親から逃れ石の投げられた方角に走った。
 そして、彼が目にしたのは自分と同じ年頃の少女が黒いフード付きのローブを着た怪しい人物にナイフから逃れらず傷つく姿だった。

 少女は諦めたのか固く目を閉じ、その目じりから一筋の涙が零れ落ちる。
 血が沸騰したように熱くなる。

 やめろ。

 やめろ。

 カルムは気づいた時にはフードの人物に向かって捨て身タックルを食らわせていた。

「えっ?」

 少女の素っ頓狂な声が聞こえるが、すぐに自分がぶつかった人物が罵声を上げる。

「このクソガキがっ!」

 カルムはフードの人物の標的が少女から自分に移った事を悟り、少女に向かって叫ぶ。

「おい、そこのヤツにげろ。」
「えっ?」

 驚くまま動かない少女にカルムは焦る。

「くそっ!」

 毒づくカルムはすぐに視界の端に父親を見つける。

「おやじ、みてないで、たすけろ。」
「はー、情けないな。」

 茂みからぬらりと現れた父親にカルムは安心する。
 少女は突然現れた父に驚いた様子だが、まだ意識がはっきりしているだけましだ。
 カルムの父親は傷だらけでぱっと見は熊のような図体をしているので、小さな子どもは泣き出すし、女の人など酷い方では気絶する程なのだ。
 よくもまあ、あの母親は子の父を選んだのだと常々カルムは疑問に思っているのだが、残念ながら永遠に彼はその真相に至る事はない。

「まあ、出会ってしまったからには知らんぷりはできねぇし、それにまさか息子と同じくらいの可愛い女の子が殺されそうになっているのに黙っているのは紳士じゃねぇからな。」
「みごろしにするきだったのに。」

 ポツリと呟かれた言葉に少女は申し訳なさそうな顔をしているが、カルムはその事に気づかず、気づいた彼の父親は息子の朴念仁ぷりに呆れる。
 もし、この場にカルムの母であり、熊のような男の妻が居れば、確実に父親そうっくりな息子に拳の一つは食らわせていただろう。

「おい、てめぇら、人の仕事の邪魔をしてグダグダ駄弁ってるんじゃねぇよ。」
「ああ、まだ、いたのか。」

 剣を抜き野性味を帯びた笑みを浮かべる父親にカルムは呆れたような顔をする。

「おい、カルム、お前は引っ込んでろよ。」
「いわれなくとも。」

 カルムは自分と男の力量が分かっていたので、そう返事してすぐさまフードの人物から遠のき、少女の元へと向かう。
 少女を襲っていた人物はカルムに向かってナイフを投げるが、それを彼の父親が払う。

「おいおい、子ども相手より、俺の方がよっぽど楽しめるぞ?」
「変態が…。」
「ん?子どもを殺そうとするお前の方がよっぽど変態だと俺は思うんだがな?」
「……。」
「ノーコメントかよ。」
「……任務は失敗か。」

 フードの人物はゆらりと立ち上がったと思ったら地面を蹴り、一気にカルムの父親に襲い掛かる。

「……。」

 カルムの父はまるでフードの動きが読めているのかその斬撃をすべていなす。

「くそ……。」

 焦り出すフードの人物にカルムの父親は反撃に出る。

「おせぇよ。」
「ぐっ。」

 カルムの父親の剣の峰が見事にフードの人物の溝内に入り込む。

「さーて、こんなもんかな?」

 カルムの父親はいい顔をしながら、息子の方に顔を向ける。
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