今世ではのんびりしたいのですが…無理ですか…

第一章

《死の予感》

「ごほ…ごほ……。」

　苦しそうな咳にセイラは目を覚ます。

「だれ？」

　双子かレミラが風邪でも引いたのかと、セイラは眠い目を擦りながらベッドからおりる。
　廊下に出ると薄らと蝋燭の明かりが見えたので、そちらの方に足を向ければ、咳は徐々に苦しそうになる。
　そして、開けられた扉から見えた光景にセイラは体を強張らせる。
　そこにいたのはレミラだった。
　レミラは口に手を当て苦しそうに咳き込んでおり、その手は血で真っ赤に染められていた。

「ち……。」

　セイラがそう呟くとようやくレミラが自分以外の誰かがいる事に気づき、殺気立つが、振り返り、セイラを見ればその殺気は抑えられた。

「セイラ様……。」

　罰が悪そうな顔をするレミラにセイラは顔を真っ青にさせて、彼女に近づく。

「レミラ……それって……。」
「見られてしまいましたね……。」
「レミラっ！」

　セイラは頭の中で前世の記憶を引っ張る。

「むねがくるしいの？」
「そんな事はございませんよ。」
「ほんとうに？」
「はい。」

　レミラが微笑み、セイラはそれをじっと見つめて、その真偽を測ろうとする。
　でも、分からなかった。

「おねがい、ほんとうのこと、おしえて……。」

　今にも泣きだしそうな声音に、レミラは困ったような顔をしながら汚れていない手でセイラの頭を優しく撫でる。

「大丈夫です、ただ、口を切っただけです。」
「うそよっ！」

　その嘘だけは分かった。
　この掌についている血の量を見ればそれだけはなかった。
　内臓を遣られているのか、肺を遣られいるのか、それともこの世界特有の病気なのかこの世界を知らないセイラには判断がつかないが、それでも、レミラから発せられる死の匂いにセイラは初めて気づく。

「レミラ…。」
「大丈夫ですよ、お傍に居ますから……。」

　セイラはギュッとレミラに抱き付く。

「あした、おいしゃさまに、みてもらって。」
「……大丈夫ですよ？」
「おねがい…。」
「分かりました。」

　頷くレミラにセイラはホッとする。

　でも、彼女は気づかなかった、レミラが何か悟った顔をしていた事に、そして、彼女の残された時間は確実に短くなっている事に……。