今世ではのんびりしたいのですが…無理ですか…

第一章

《双子の乳姉妹》

　セイラは自分の手を眺めた。
　紅葉のような小さな手、そして、顔を上げ、鏡を見る。

　鏡には可愛らしい少女がそこにいる黒い髪は軽く結われ、その漆黒の瞳には強い意志が宿り、バラ色の頬、ぷっくりとした瑞々しい唇、全てを見てこの顔は可愛らしいの言葉がよく似合うのだが、セイラ自身はこの顔は自分には過ぎたるものだと思った。

　溜息を零しセイラは頭を振った。
　前の自分がどんな人間だったかは忘れてしまったが、今の自分の顔を見てかなり違和感を覚えるくらいなので、平凡だったのかと勝手に彼女は思った。

「セイラさま。」
「どうされたんですか？」

　二つの同じ顔が心配そうにセイラを見つめる。

「なんでも、ないわ。」
「「……。」」

　不満そうな顔を浮かべる少女たちにセイラは思わず笑ってしまう。

「なんでわらうのですか。」
「わたしたちはあなたさまを、しんぱいしているのに。」
「ごめんなさい、だって、あなたたち、ふだんは、あまりにていないのに、そっくりなんだもの。」
「「……。」」

　お互いに顔を見合わせる双子、レラ、とミラにセイラはクスクスと笑う。

「そんなに、にてない、ですか？」
「ようし、は、そっくりよ、でも、かんがえかた、はちがうじゃない。」
「「………。」」

　二人は同時に瞬く。

「レラはなんにでも、きょうみをもっているし、ミラはしんちょう、ふたりはふたご、だけど、ちがうもの。」
「………セイラさまは、きみわるくないのですか？」

　レラの言葉にセイラはキョトンとなる。

「なにが？」
「ふたご……は、ふきつ…です。」

　いいにくそうなミラにセイラは前世の知識を思い出し、首を傾げる。

「たしかに、いみご、とか、いわれる、かもしれないけど、わたしは、うらやましな。」
「なんでですか？」
「だって、うまれたしゅんかんから、ひとりじゃない。いちばんじぶんにちかいひとだもん。」
「……。」
「……。」

　二人は顔を見合わせる。
　セイラはそれを目を細めて見つめる。
　自分は一人だった、双子やレミラがいてくれたが、それでも、彼らは冷たい言葉を言えば他人だ。
　血の繋がりを持つ家族はセイラの命を狙う人が大半だ。
　だから、セイラは二人が羨ましかった。自分の命を脅かされない家族がいる事に。
　セイラはそう考え、ふっと頭を振る。
　彼女たちは自分の家族同然の存在で、しかも、自分の命を狙わない、それだけで十分ではないか。

「セイラさま？」
「むずかしい、かおを、されてます、だいじょうぶ、ですか？」
「だいじょうぶよ。」

　セイラは微笑む。
　双子はその笑みを見てもまだ心配そうな顔をする。

「セイラさま。」
「なに？」
「セイラさまだって、わたしたちのかぞくですっ！」
「ミラっ！」

　双子の片割れの言葉にレラは驚く。

「だから、そんなかお、しないでください。」
「……。」

　セイラはキョトンとしたと思ったらすぐに嬉しそうに笑った。

「そうね、たしかに、わたしたちは、かぞく……かぞくよね。」

　セイラは胸に手当ててそう呟く。
　今世は血の繋がりのある家族には縁がなかった。
　それを幼いセイラは悲しんでいた。
　でも、セイラは決して一人じゃなかった、それは彼女だけの考えだけじゃなくこの双子も思ってくれている事だと知り、胸がいっぱいになる。

「ありがとう……。」
「せ、セイラさま？」
「ないていらっしゃるんですか？」
「いいえ、ないてない……。」

　セイラはニッコリと微笑み、双子を見る。

「だいすきだよ、ふたりとも。」
「「～～～っ！」」

　双子は顔を真っ赤にして、そして、次の瞬間にはセイラに抱き付く。

「わたしだって、だいすきですっ！」
「ミラにはまけないくらいすきです。」
「わたしが、いちばんだよ。」
「いいえ、わたしです。」

　セイラを抱きしめて言い争う二人に母親の雷が落ちるまであと数分。