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第五章
第五章「文化祭」21
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それから土曜日まではあっという間で、雪美たちが興奮するようなイベントは特になかった。
「はぁ……萌が少ない一週間だったわ。」
「……。」
涼也は自宅の簡易テーブルにうつ伏す雪美は冷めた目で見ながら冷たい麦茶を飲む。
「ううう、折角のイツアオというものに出会ったのに。」
「……。」
聞きなれないワードに危うく涼也は口を開きかけたが、寸前のところで黙り込む。
もし、聞いてしまったら知りたくない事を知ってしまう、そんな気がしたのだった。
「雪姉、何しに来たのか覚えているのか?」
「覚えているわよ、でもね。」
「覚えているのなら、さっさと話し進めるぞ、ただでさえ、一時間経っているんだ。」
「えー、そんなに経った?」
「経った、つーか、飯食うなら先に言えよ、適当なモノしか出せなかったじゃないかよ。」
「思った以上に、美味しかったわよ。」
「思った以上にってどんな料理が出ると思ったんだよ。」
「えー、暗黒料理。」
「……。」
涼也は隠そうともしない雪美に回答に彼女を睨みつける。
「だって、涼ちゃん、料理しなさそうだもん。」
「コンビニとか味飽きるじゃねぇかよ。」
「まあ、そうね。」
「それに、食事は基本だって言われたから。」
「誰にかな?」
何故かニタニタする雪美に涼也は何で彼女が笑うのか理解していなかった。
もし、先ほどの言葉の時に鏡を見ていれば分かっていただろうが、その時の涼也の目は本当に優しく、懐かしいという色を宿していた。
「仕事の先輩だよ。」
「ふーん、いい人なの?」
「ぶっ!」
雪美の言葉に口に入れていた麦茶を拭きだした。
「うわ、汚いなー。」
「げほ……っ!雪姉が変な事を言うからだろうが。」
「えー、そうかな?普通だと思うよ~。」
明らかに楽しげな雪美に涼也は彼女を睨む。
「ふふふ、動揺するくらい図星なんだ、で、綺麗系?かわいい系?それとも平凡?いやいや、ツンデレとか、あー、小悪魔、でも、先輩だからやっぱお姉さんとか?」
「へ?」
「ん?違うの?」
「……………。」
ジッと雪美に見られ、涼也は熟れたトマトのように顔を真っ赤にさせる。
「え、あ………先輩は男性で言っておくけど、雪姉の思うような関係じゃないからな。」
「ふーん、へー、ほー。」
「だから、違うって。」
「ふふふーん、いいネタもーらい、うん、いいね、イケメン×ツンデレ。」
「誰がツンデレだよ。」
「へー、先輩ってやっぱイケメンなんだー。」
「いや、まあ、うん、カッコいいよ、仕事ができるし、いろいろ相談載ってもらったし。」
消えゆく記憶の中でも彼からもらった温かな思い出だけは何となく思い出せた。
疲れた時にくれた温かな缶コーヒー。
失敗した時に借りたハンカチ。
無理をした時のげんこつ。
どれも、自分を思ってくれた思い出だった。
「ふふふ、いいな、もし、再会したら紹介してね。」
「……。」
雪美の言葉に涼也はハッとなり、そして、表情が無になる。
「涼ちゃん?」
「先輩には会わないよ、絶対に。」
もうあの頃の純粋だった自分じゃない、だって、利用できるのなら従姉だって使う汚い自分だから。
幻滅されたくない。
だから、会えない。
涼也は振り切るように首を振り、そして、いつもの自分を作る。
「つーか、雪姉、マジ、脱線しすぎ、時間ないんだしサクサクする。」
「…………いいの?」
「何がだよ。」
雪美はジッと涼也を見て溜息を零す。
「今日のとこは、何も言わないけど、今度は絶対に聞くからね。」
「話せる事はないし、話す気もないよ。」
「強情っぱり。」
「雪姉が?」
「違うわよ、本当に可愛くないわね。」
「男が可愛かったらどうするんだよ。」
「受けになる。」
「………。」
真顔で恐ろしい事を吐き出す従姉に従弟は固まるしかなかった。
「はぁ……、もういいわよ、んで、自分の記憶とここでの自分の過去を照らし合わせるんだっけ?」
「ああ。」
「アルバムは?」
「ない。」
「……。」
呆れたような目をする雪美に涼也は肩を竦める。
「だって、嵩張るし、片づけるのに邪魔になるじゃん。」
「はぁ…そういうと思って持ってきてあげたわよ、言っとくけど、共通のものだし、涼ちゃんたちが小六のもだからね。」
「十分だよ。」
涼也は雪美が持ってきた小さなアルバムをパラパラとめくる。
「……………………………………なんというセレクトだよ。」
涼也は記憶にあり、その中でも黒歴史と言ってもいいような写真たちに思わず投げ捨てたくなった。
「えー、いいじゃない。その反応って事は同じって事なのね?」
「ああ、でも、微妙に表情とかは違う気がする。」
自分の記憶にある自分の表情はどこかやけくそ、っていう顔をしていたが、この写真に写る自分はカメラを睨み、不機嫌を露わにしている。
「性格が違うのか?」
「うーん、わたしとしては擦れる前の涼ちゃんがまとも……じゃないけど、育ったような感じかな。」
「擦れた……って、何だよまともじゃないって。」
「そのまま。」
「それを言うなら俺の知っている雪姉だって、腐ってないっ!」
「分からないわよ、隠れとかね?」
「……。」
涼也は頭を抱え、有り得るかもしれないと、かすかに頭をよぎってしまった自分に嫌気がさした。
「本当にまっすぐに育ったんだね。」
「雪姉は歪んだな、変な方向に。」
「ありがとう、擦れているで、思い出したけど、確か擦れだした時からあなたたち、わたしの事呼び捨てにしてたわよ。」
「へ?」
「京ちゃんはわたしの事呼び捨てにしてるでしょ?」
「あっ……。」
この前の事思い出し、涼也は目を軽く見張る。
「俺の所はずっと、雪姉だったけどな。」
「うん、これも歪みだね。」
「……。」
「それにしても、涼ちゃん色々よかったね。」
「何がだよ。」
「叔母さんにばれなくて。」
「へ?何でそこで、お袋が出てくるんだよ。」
驚く涼也に雪美は苦笑する。
「はぁ……萌が少ない一週間だったわ。」
「……。」
涼也は自宅の簡易テーブルにうつ伏す雪美は冷めた目で見ながら冷たい麦茶を飲む。
「ううう、折角のイツアオというものに出会ったのに。」
「……。」
聞きなれないワードに危うく涼也は口を開きかけたが、寸前のところで黙り込む。
もし、聞いてしまったら知りたくない事を知ってしまう、そんな気がしたのだった。
「雪姉、何しに来たのか覚えているのか?」
「覚えているわよ、でもね。」
「覚えているのなら、さっさと話し進めるぞ、ただでさえ、一時間経っているんだ。」
「えー、そんなに経った?」
「経った、つーか、飯食うなら先に言えよ、適当なモノしか出せなかったじゃないかよ。」
「思った以上に、美味しかったわよ。」
「思った以上にってどんな料理が出ると思ったんだよ。」
「えー、暗黒料理。」
「……。」
涼也は隠そうともしない雪美に回答に彼女を睨みつける。
「だって、涼ちゃん、料理しなさそうだもん。」
「コンビニとか味飽きるじゃねぇかよ。」
「まあ、そうね。」
「それに、食事は基本だって言われたから。」
「誰にかな?」
何故かニタニタする雪美に涼也は何で彼女が笑うのか理解していなかった。
もし、先ほどの言葉の時に鏡を見ていれば分かっていただろうが、その時の涼也の目は本当に優しく、懐かしいという色を宿していた。
「仕事の先輩だよ。」
「ふーん、いい人なの?」
「ぶっ!」
雪美の言葉に口に入れていた麦茶を拭きだした。
「うわ、汚いなー。」
「げほ……っ!雪姉が変な事を言うからだろうが。」
「えー、そうかな?普通だと思うよ~。」
明らかに楽しげな雪美に涼也は彼女を睨む。
「ふふふ、動揺するくらい図星なんだ、で、綺麗系?かわいい系?それとも平凡?いやいや、ツンデレとか、あー、小悪魔、でも、先輩だからやっぱお姉さんとか?」
「へ?」
「ん?違うの?」
「……………。」
ジッと雪美に見られ、涼也は熟れたトマトのように顔を真っ赤にさせる。
「え、あ………先輩は男性で言っておくけど、雪姉の思うような関係じゃないからな。」
「ふーん、へー、ほー。」
「だから、違うって。」
「ふふふーん、いいネタもーらい、うん、いいね、イケメン×ツンデレ。」
「誰がツンデレだよ。」
「へー、先輩ってやっぱイケメンなんだー。」
「いや、まあ、うん、カッコいいよ、仕事ができるし、いろいろ相談載ってもらったし。」
消えゆく記憶の中でも彼からもらった温かな思い出だけは何となく思い出せた。
疲れた時にくれた温かな缶コーヒー。
失敗した時に借りたハンカチ。
無理をした時のげんこつ。
どれも、自分を思ってくれた思い出だった。
「ふふふ、いいな、もし、再会したら紹介してね。」
「……。」
雪美の言葉に涼也はハッとなり、そして、表情が無になる。
「涼ちゃん?」
「先輩には会わないよ、絶対に。」
もうあの頃の純粋だった自分じゃない、だって、利用できるのなら従姉だって使う汚い自分だから。
幻滅されたくない。
だから、会えない。
涼也は振り切るように首を振り、そして、いつもの自分を作る。
「つーか、雪姉、マジ、脱線しすぎ、時間ないんだしサクサクする。」
「…………いいの?」
「何がだよ。」
雪美はジッと涼也を見て溜息を零す。
「今日のとこは、何も言わないけど、今度は絶対に聞くからね。」
「話せる事はないし、話す気もないよ。」
「強情っぱり。」
「雪姉が?」
「違うわよ、本当に可愛くないわね。」
「男が可愛かったらどうするんだよ。」
「受けになる。」
「………。」
真顔で恐ろしい事を吐き出す従姉に従弟は固まるしかなかった。
「はぁ……、もういいわよ、んで、自分の記憶とここでの自分の過去を照らし合わせるんだっけ?」
「ああ。」
「アルバムは?」
「ない。」
「……。」
呆れたような目をする雪美に涼也は肩を竦める。
「だって、嵩張るし、片づけるのに邪魔になるじゃん。」
「はぁ…そういうと思って持ってきてあげたわよ、言っとくけど、共通のものだし、涼ちゃんたちが小六のもだからね。」
「十分だよ。」
涼也は雪美が持ってきた小さなアルバムをパラパラとめくる。
「……………………………………なんというセレクトだよ。」
涼也は記憶にあり、その中でも黒歴史と言ってもいいような写真たちに思わず投げ捨てたくなった。
「えー、いいじゃない。その反応って事は同じって事なのね?」
「ああ、でも、微妙に表情とかは違う気がする。」
自分の記憶にある自分の表情はどこかやけくそ、っていう顔をしていたが、この写真に写る自分はカメラを睨み、不機嫌を露わにしている。
「性格が違うのか?」
「うーん、わたしとしては擦れる前の涼ちゃんがまとも……じゃないけど、育ったような感じかな。」
「擦れた……って、何だよまともじゃないって。」
「そのまま。」
「それを言うなら俺の知っている雪姉だって、腐ってないっ!」
「分からないわよ、隠れとかね?」
「……。」
涼也は頭を抱え、有り得るかもしれないと、かすかに頭をよぎってしまった自分に嫌気がさした。
「本当にまっすぐに育ったんだね。」
「雪姉は歪んだな、変な方向に。」
「ありがとう、擦れているで、思い出したけど、確か擦れだした時からあなたたち、わたしの事呼び捨てにしてたわよ。」
「へ?」
「京ちゃんはわたしの事呼び捨てにしてるでしょ?」
「あっ……。」
この前の事思い出し、涼也は目を軽く見張る。
「俺の所はずっと、雪姉だったけどな。」
「うん、これも歪みだね。」
「……。」
「それにしても、涼ちゃん色々よかったね。」
「何がだよ。」
「叔母さんにばれなくて。」
「へ?何でそこで、お袋が出てくるんだよ。」
驚く涼也に雪美は苦笑する。
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