もう一度君と…

弥生 桜香

文字の大きさ
上 下
133 / 162
第十章

第十章「バレンタイン」8

しおりを挟む
 バレンタイン当日の放課後――。
 碧はこそこそと教室を出ようとしていた。

「あ~お。」
「……。」

 普段なら名前を呼ばれ狂喜乱舞しているだろうが、今日に限ってはそんな喜びなんてものはなかった。
 むしろ地獄の裁判を受けるような気持ちで碧は恐る恐る後ろを見れば、女子の制服を持った人。
 金髪のかつらを持った人。
 化粧道具を持った人。

「えっと。」
「な~に逃げようとしているの?」
「いや、トイレ。」
「行ってもいいよ。」
「でもね、ちゃんと戻ってくるよね?」
「というか、その鞄いらないよね?」
「あ~お。」
「す、すみませんっ!」

 その場に土下座をする碧に女子は互いに顔を見合わせ、ため息を零す。

「ほら、さっさと立つ。」
「大丈夫、痛くないし。」
「そうそう、適当に数を数えていれば終わるし。」
「あっという間だし、それに病みつきになるかもよ?」
「いや、それ、絶対嘘だろう。」
「はいはい、それじゃ行くわよ。」

 手の空いている女子が碧の両腕を掴みずるずると教室から引きずり出す。

「こえぇぇぇ。」
「……。」

 無力な男性陣はこの光景をおとなしく見ている事しか出来なかった。
 ちなみに今回の主役の片割れはただいま別学年の女子に呼び出され告白されまくっているそうな…。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

諦めようとした話。

みつば
BL
もう限界だった。僕がどうしても君に与えられない幸せに目を背けているのは。 どうか幸せになって 溺愛攻め(微執着)×ネガティブ受け(めんどくさい)

あなたが好きでした

オゾン層
BL
 私はあなたが好きでした。  ずっとずっと前から、あなたのことをお慕いしておりました。  これからもずっと、このままだと、その時の私は信じて止まなかったのです。

嫌われ者の僕

みるきぃ
BL
学園イチの嫌われ者で、イジメにあっている佐藤あおい。気が弱くてネガティブな性格な上、容姿は瓶底眼鏡で地味。しかし本当の素顔は、幼なじみで人気者の新條ゆうが知っていて誰にも見せつけないようにしていた。学園生活で、あおいの健気な優しさに皆、惹かれていき…⁈学園イチの嫌われ者が総愛される話。嫌われからの愛されです。ヤンデレ注意。 ※他サイトで書いていたものを修正してこちらで書いてます。改行多めで読みにくいかもです。

とある隠密の受難

nionea
BL
 普通に仕事してたら突然訳の解らない魔法で王子の前に引きずり出された隠密が、必死に自分の貞操を守ろうとするお話。  銀髪碧眼の美丈夫な絶倫王子 と 彼を観察するのが仕事の中肉中背平凡顔の隠密  果たして隠密は無事貞操を守れるのか。  頑張れ隠密。  負けるな隠密。  読者さんは解らないが作者はお前を応援しているぞ。たぶん。    ※プロローグだけ隠密一人称ですが、本文は三人称です。

さよならの合図は、

15
BL
君の声。

そんなの聞いていませんが

みけねこ
BL
お二人の門出を祝う気満々だったのに、婚約破棄とはどういうことですか?

春を拒む【完結】

璃々丸
BL
 日本有数の財閥三男でΩの北條院環(ほうじょういん たまき)の目の前には見るからに可憐で儚げなΩの女子大生、桜雛子(さくら ひなこ)が座っていた。 「ケイト君を解放してあげてください!」  大きなおめめをうるうるさせながらそう訴えかけてきた。  ケイト君────諏訪恵都(すわ けいと)は環の婚約者であるαだった。  環とはひとまわり歳の差がある。この女はそんな環の負い目を突いてきたつもりだろうが、『こちとらお前等より人生経験それなりに積んどんねん────!』  そう簡単に譲って堪るか、と大人げない反撃を開始するのであった。  オメガバな設定ですが設定は緩めで独自設定があります、ご注意。 不定期更新になります。   

忘れ物

うりぼう
BL
記憶喪失もの 事故で記憶を失った真樹。 恋人である律は一番傍にいながらも自分が恋人だと言い出せない。 そんな中、真樹が昔から好きだった女性と付き合い始め…… というお話です。

処理中です...