もう一度君と…

弥生 桜香

文字の大きさ
上 下
104 / 162
第七章

第七章「ハロウィン」13

しおりを挟む
「大丈夫かよ。」

 そっと差し伸べられた手に碧は凍り付く。

「何だよ。」
「何でよりによってお前なんだ。」
「……。」

 碧の言葉に手を差し伸べた樹は眉間に皺を寄せる。

「おい、手を差し伸べられてその言葉はあんまりじゃねぇのかよ。」
「だって、本当の事だろう。」
「……。」

 碧は自分たちに向けられる視線の意味を何となく理解しているのか、先ほどとは違う意味で泣きそうになる。
 一方、手を差し出した樹はその視線の意味が分かっていないのか、碧の態度に怒りを抱き始めている。

「素直じゃないな。」
「十分素直だよ。」

 碧は頭を抱えたくなるが、ふっと自分たちを見つめてくる視線の中で冷たいもの感じて、そちらの方に恐る恐る視線を向けるとーー。
 ニッコリと慈母のような笑みを浮かべる藍妃の姿があった。
 サッと血の気の引いた顔をした碧に樹は体調でも崩したのではないかと、心配する。

「おい、お前顔色悪いぞ。」
「……。」
「……抜けるか?」

 自分を心配する樹に碧はある一点を見た瞬間、その首を横にぶんぶんと振りまくった。

「あら、あおちゃーん、そんなに振ったらせっかく綺麗にしたのに乱れちゃうわよ。」
「ひっ!」

 ぬっとあらわれた藍妃に碧はまるで化け物でも現れたかのようなそんな悲鳴を上げる。
 そして、上げられた本人は意に介していないのか平然としたような笑みを浮かべている。

「ふふふ。」
「……。」

 笑う藍妃、青ざめる碧、この状況でようやく樹は自分が余計な事に首を突っ込んでしまったのだと理解した。
 理解したが、もうすでに巻き込まれている身としてはここで引く事が出来ないので、彼は男らしく腹を括った。

「ほら、立ち上がれ。」
「うおっ!」

 無理やり碧の手を掴み、樹は彼を引き上げた。
 引き上げた拍子に碧はたたらを踏んでしまうが、こけてしまう寸前のところで樹が彼を抱きしめる。

「ほら、大人しく笑ってろよ。」
「なっ、なっ!」

 耳元で樹が碧の耳にささやく。
 すると、碧の顔が真っ赤に染まるが、残念ながら樹は周囲の反応を見ていた為にその事に気づきはしない。

「どうせ何をしても変に目立つんだ。堂々としてろ。」
「……。」

 樹の言葉にスッと熱が下がっていった碧は恨みがましそうに彼を睨む。

「お前が言うな。」
「何がだ。」
「お前のその容姿、恰好この中で一番目立つじゃないか。」
「…オレよりもお前のその容姿の方がよっぽど目立つと思うがな。」
「……。」

 樹の言葉に碧は自分を見下ろし、納得してしまう。

「目立つけど、どうせ似合ってないだろう。」
「何処がだ、一瞬本当に女かと疑ったぞ。」
「……あんがとな。」

 全然嬉しそうじゃなく、むしろ怒っているように碧は言い返す。

「マジで残り時間やり過ごすか。」
「……なあ、どうせならお芝居だと思ったらどうだ?」
「芝居?」
「ああ、どうせこんな仮装だ、素面でやるのはマジ辛いだろう。」
「後で芝居だと思って恥ずかしくなるが…、まあ、今を乗り切ったらどうせ、後は黒歴史だ。」
「どうせ、こんな仮装をした時点で黒歴史だしな。」
「なら、その話のってやる。」

 ニカリと笑う碧に樹は共犯者のようなそんな悪い笑みを浮かべる。

「そんじゃ、よろしくな花嫁さん。」
「分かった。旦那様。」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

あなたが好きでした

オゾン層
BL
 私はあなたが好きでした。  ずっとずっと前から、あなたのことをお慕いしておりました。  これからもずっと、このままだと、その時の私は信じて止まなかったのです。

嫌われ者の僕

みるきぃ
BL
学園イチの嫌われ者で、イジメにあっている佐藤あおい。気が弱くてネガティブな性格な上、容姿は瓶底眼鏡で地味。しかし本当の素顔は、幼なじみで人気者の新條ゆうが知っていて誰にも見せつけないようにしていた。学園生活で、あおいの健気な優しさに皆、惹かれていき…⁈学園イチの嫌われ者が総愛される話。嫌われからの愛されです。ヤンデレ注意。 ※他サイトで書いていたものを修正してこちらで書いてます。改行多めで読みにくいかもです。

さよならの合図は、

15
BL
君の声。

とある隠密の受難

nionea
BL
 普通に仕事してたら突然訳の解らない魔法で王子の前に引きずり出された隠密が、必死に自分の貞操を守ろうとするお話。  銀髪碧眼の美丈夫な絶倫王子 と 彼を観察するのが仕事の中肉中背平凡顔の隠密  果たして隠密は無事貞操を守れるのか。  頑張れ隠密。  負けるな隠密。  読者さんは解らないが作者はお前を応援しているぞ。たぶん。    ※プロローグだけ隠密一人称ですが、本文は三人称です。

表情筋が死んでいる

白鳩 唯斗
BL
無表情な主人公

そんなの聞いていませんが

みけねこ
BL
お二人の門出を祝う気満々だったのに、婚約破棄とはどういうことですか?

春を拒む【完結】

璃々丸
BL
 日本有数の財閥三男でΩの北條院環(ほうじょういん たまき)の目の前には見るからに可憐で儚げなΩの女子大生、桜雛子(さくら ひなこ)が座っていた。 「ケイト君を解放してあげてください!」  大きなおめめをうるうるさせながらそう訴えかけてきた。  ケイト君────諏訪恵都(すわ けいと)は環の婚約者であるαだった。  環とはひとまわり歳の差がある。この女はそんな環の負い目を突いてきたつもりだろうが、『こちとらお前等より人生経験それなりに積んどんねん────!』  そう簡単に譲って堪るか、と大人げない反撃を開始するのであった。  オメガバな設定ですが設定は緩めで独自設定があります、ご注意。 不定期更新になります。   

忘れ物

うりぼう
BL
記憶喪失もの 事故で記憶を失った真樹。 恋人である律は一番傍にいながらも自分が恋人だと言い出せない。 そんな中、真樹が昔から好きだった女性と付き合い始め…… というお話です。

処理中です...