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北斗サイド
風花
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見間違えることのない背中。
大切な人の姿。
違う点と言えば、あの時は制服だったが、今は私服にコートの姿だ。
新鮮なその姿に俺は目を細める。
俺の足音が聞えたのか、彼女は振り返る。
俺の姿を見て目を大きく見開く姿に、俺は愛おしさが膨れ上がる。
だけど、すぐに愛想笑いを彼女は浮かべる。
その笑みは嫌だ。なんか線引きをされているようだった。
俺は手を伸ばし、彼女に触れる――前に彼女は口を開いた。
「第一声は、私の司狼にそっくりなんだ、だったっけ?」
覚えてくれている。
衝撃に思わず手を止め、まじまじと彼女を見る。
「………。」
ああ、言いたい事はいっぱいあったはずなのに、何も出ない。
俺は考え、視線をさ迷わせる。
そして、彼女の言葉を思い出し、出来るだけ彼女といた時の俺を思い出す。
「スピカ、違うだろう、お前の第一声は「うそだ」の絶叫だろう?」
思い出せる。
春のあの日。
あの時の匂い、空気、そして、お前のその表情。
「そうだっけ?」
「ああ、自分の足元を見て、絶叫しただろう?」
「……そうだったかも。」
目を瞬き、彼女は感心したように俺を見つめている。
俺はまた口を開く。
「スピカ、俺は……。」
だけど、俺の言葉を遮るように、彼女は口を開く――。
「北斗、改めて自己紹介させて。」
彼女はそう言って俺から一歩下がる。
それが少し寂しく思った。
「私の名前は仙奈 彩実、「仙」は仙人の「せん」、「奈」は奈良の大仏の「な」、「彩」は彩雲の「あや」、「実」は実るの「み」。
今回の編入テストで合格なら、北斗と同じ学年になる予定です。」
ああ、文字では知っていた。
でも、音で聞くのでは違う。
そんな、音なんだと俺は息を飲んだ。
そして、彼女――彩実はクスリと笑った。
「知らなかったの?
月子さんが特別処置として持ってきてくれたんだけど。」
やっぱり、姉貴が関わっていやがった。
というか、こいつ勘違いしているな。
どうするか、話を取り敢えず合わすか、それとも、訂正するか。
……知っていて会いに行けなかった言い訳がしにくいし、話を合わせておくか…。
「いや、誰かがテストを受けるのは知っていたが、お前だったなんて、何で言わなかったんだ?」
「それ私に対して?それとも、月子さん?」
「両方だよ。」
「月子さんは分からないけど、私は貴方の連絡先知らないよ?」
「……。」
「それに、貴方は私に会いたくないと思った。」
「なっ!」
彩実の言葉に鈍器で殴られたような衝撃を受けた。
ない、それはない。
むしろ会いに行けるのなら会いに行っていた。
「だって、あんな別れ方をしたんだよ、正直どんな顔で会えばいいのか分からなかった。
ごめんね、私さ、自分の体がまだ生きている事に薄々気づいていたんだけど、その体が一体幾つなのか、分からなかったから、北斗と会えるか分からなくって、自棄になってあんな滅茶苦茶なこと言ってしまった。」
吐露される彩実の想いに俺は苦笑する。
「本当に滅茶苦茶だったな。」
「ごめん。」
「許すと思うか?」
許されるべきは本当は俺だろう。
彼女に言った言葉彼女を傷つけた。
だから、あんな風に俺が言わせてしまったのだ。
そう分かっているからか俺はついつい厳しい目をしてしまっていたようだ。
彩実は怖がっているのか、少し怯えたような眼をしている。
「許してくれないの?」
「……。」
上目づかいで可愛い。
じゃなかった、うん。だから俺の煩悩どっかいけ。
俺はため息を吐く。
本当に俺は……。
というか…こいつも…。
「お前な…質が悪いな。」
「何がよ。」
少し怒っている彼女に俺は俺の正直な気持ちを吐き出す。
「……俺だって、お前を手放したくなかった。
だけど、お前が生きているのなら、生きて会いたかった。
こうして、触れたかった。」
手を伸ばす。
彩実の頬に触れた。
温かった。
知っている感覚なのに、それなのに、初めてのぬくもり。
それがどうしようもなく、胸が痛かった。
生きている。
生きているんだ。
能力を使わなくても、彼女に触れられる。
それがどうしようもなく、嬉しかった。
「……ひゃっ!」
「――っ!」
突然悲鳴を上げた彩実に俺はびっくりした。
そして、反射的に彼女から手を放してしまった。
もったいない…。
「何だ?」
「首筋に何か冷たいものが…。」
冷たいもの?
俺は首を傾げ、空を見上げた。
「雪?」
彩実の言う通り、晴れた空から小さな白い雪が降っていた。
「狸の嫁入りか。」
「たぬき?」
「ああ、晴れながら雨が降るのを狐の嫁入りっていうだろう?」
「うん。」
「晴れながら雪が降るのを狸の嫁入りって言うんだ。」
「へー、私は風花って言い方なら知っているけどね。」
「そんな言葉があるのか?」
「うん、そっちの方が綺麗な言葉だから、私は好きだな。」
空から舞い散る白い欠片を見る彩実に俺は綺麗だと思った。
ようやく会えた。
彩実に見とれていたが、よく見れば、彼女の肩が少し震えていた。
寒いのかもしれない。
「冷えるだろう、中に入ろう。」
「そうだね。」
寒かったのか、彩実は俺についてくる。
「スピカ…いや、彩実。」
「何?」
俺はある程度歩いてから立ち止まって、彩実を見る。
彼女は可愛らしく首を傾げた。
マジ、天使だ。
……と、そうじゃない、ちゃんと確認しないと。
「時間はあるか?」
「うん。お母さんが迎えに来るまであと三十分くらいはあるよ。」
「三十分な。」
俺は少しだけ時間がある事を確認して、頷く。
まあ、短いけども問題はないだろう。
「北斗?」
彩実に名を呼ばれるが、時間が惜しいので、俺は彼女の手を取って歩き出した。
大切な人の姿。
違う点と言えば、あの時は制服だったが、今は私服にコートの姿だ。
新鮮なその姿に俺は目を細める。
俺の足音が聞えたのか、彼女は振り返る。
俺の姿を見て目を大きく見開く姿に、俺は愛おしさが膨れ上がる。
だけど、すぐに愛想笑いを彼女は浮かべる。
その笑みは嫌だ。なんか線引きをされているようだった。
俺は手を伸ばし、彼女に触れる――前に彼女は口を開いた。
「第一声は、私の司狼にそっくりなんだ、だったっけ?」
覚えてくれている。
衝撃に思わず手を止め、まじまじと彼女を見る。
「………。」
ああ、言いたい事はいっぱいあったはずなのに、何も出ない。
俺は考え、視線をさ迷わせる。
そして、彼女の言葉を思い出し、出来るだけ彼女といた時の俺を思い出す。
「スピカ、違うだろう、お前の第一声は「うそだ」の絶叫だろう?」
思い出せる。
春のあの日。
あの時の匂い、空気、そして、お前のその表情。
「そうだっけ?」
「ああ、自分の足元を見て、絶叫しただろう?」
「……そうだったかも。」
目を瞬き、彼女は感心したように俺を見つめている。
俺はまた口を開く。
「スピカ、俺は……。」
だけど、俺の言葉を遮るように、彼女は口を開く――。
「北斗、改めて自己紹介させて。」
彼女はそう言って俺から一歩下がる。
それが少し寂しく思った。
「私の名前は仙奈 彩実、「仙」は仙人の「せん」、「奈」は奈良の大仏の「な」、「彩」は彩雲の「あや」、「実」は実るの「み」。
今回の編入テストで合格なら、北斗と同じ学年になる予定です。」
ああ、文字では知っていた。
でも、音で聞くのでは違う。
そんな、音なんだと俺は息を飲んだ。
そして、彼女――彩実はクスリと笑った。
「知らなかったの?
月子さんが特別処置として持ってきてくれたんだけど。」
やっぱり、姉貴が関わっていやがった。
というか、こいつ勘違いしているな。
どうするか、話を取り敢えず合わすか、それとも、訂正するか。
……知っていて会いに行けなかった言い訳がしにくいし、話を合わせておくか…。
「いや、誰かがテストを受けるのは知っていたが、お前だったなんて、何で言わなかったんだ?」
「それ私に対して?それとも、月子さん?」
「両方だよ。」
「月子さんは分からないけど、私は貴方の連絡先知らないよ?」
「……。」
「それに、貴方は私に会いたくないと思った。」
「なっ!」
彩実の言葉に鈍器で殴られたような衝撃を受けた。
ない、それはない。
むしろ会いに行けるのなら会いに行っていた。
「だって、あんな別れ方をしたんだよ、正直どんな顔で会えばいいのか分からなかった。
ごめんね、私さ、自分の体がまだ生きている事に薄々気づいていたんだけど、その体が一体幾つなのか、分からなかったから、北斗と会えるか分からなくって、自棄になってあんな滅茶苦茶なこと言ってしまった。」
吐露される彩実の想いに俺は苦笑する。
「本当に滅茶苦茶だったな。」
「ごめん。」
「許すと思うか?」
許されるべきは本当は俺だろう。
彼女に言った言葉彼女を傷つけた。
だから、あんな風に俺が言わせてしまったのだ。
そう分かっているからか俺はついつい厳しい目をしてしまっていたようだ。
彩実は怖がっているのか、少し怯えたような眼をしている。
「許してくれないの?」
「……。」
上目づかいで可愛い。
じゃなかった、うん。だから俺の煩悩どっかいけ。
俺はため息を吐く。
本当に俺は……。
というか…こいつも…。
「お前な…質が悪いな。」
「何がよ。」
少し怒っている彼女に俺は俺の正直な気持ちを吐き出す。
「……俺だって、お前を手放したくなかった。
だけど、お前が生きているのなら、生きて会いたかった。
こうして、触れたかった。」
手を伸ばす。
彩実の頬に触れた。
温かった。
知っている感覚なのに、それなのに、初めてのぬくもり。
それがどうしようもなく、胸が痛かった。
生きている。
生きているんだ。
能力を使わなくても、彼女に触れられる。
それがどうしようもなく、嬉しかった。
「……ひゃっ!」
「――っ!」
突然悲鳴を上げた彩実に俺はびっくりした。
そして、反射的に彼女から手を放してしまった。
もったいない…。
「何だ?」
「首筋に何か冷たいものが…。」
冷たいもの?
俺は首を傾げ、空を見上げた。
「雪?」
彩実の言う通り、晴れた空から小さな白い雪が降っていた。
「狸の嫁入りか。」
「たぬき?」
「ああ、晴れながら雨が降るのを狐の嫁入りっていうだろう?」
「うん。」
「晴れながら雪が降るのを狸の嫁入りって言うんだ。」
「へー、私は風花って言い方なら知っているけどね。」
「そんな言葉があるのか?」
「うん、そっちの方が綺麗な言葉だから、私は好きだな。」
空から舞い散る白い欠片を見る彩実に俺は綺麗だと思った。
ようやく会えた。
彩実に見とれていたが、よく見れば、彼女の肩が少し震えていた。
寒いのかもしれない。
「冷えるだろう、中に入ろう。」
「そうだね。」
寒かったのか、彩実は俺についてくる。
「スピカ…いや、彩実。」
「何?」
俺はある程度歩いてから立ち止まって、彩実を見る。
彼女は可愛らしく首を傾げた。
マジ、天使だ。
……と、そうじゃない、ちゃんと確認しないと。
「時間はあるか?」
「うん。お母さんが迎えに来るまであと三十分くらいはあるよ。」
「三十分な。」
俺は少しだけ時間がある事を確認して、頷く。
まあ、短いけども問題はないだろう。
「北斗?」
彩実に名を呼ばれるが、時間が惜しいので、俺は彼女の手を取って歩き出した。
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