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北斗サイド

月の巫女

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「北斗から聞いて、再び視たわ。」
「……。」

 一瞬、何のことだと思ったが、この学校で事故が起こり、危うく死人が出そうになった。という事を話した事を思い出す。

 もしかしたら、姉貴はこの学校で何か起こる、または前に見た何かが変わったのかと踏んだのかもしれない。

 だけど、彼女の意図として簡単に見る事が出来ないはずなのに、視れたのか。

「だけど、未来は変わっていなかった、なのに、ここにはイレギュラーが居る。」

 ……姉貴が見たのは基本的にあのゲームが元になっているはずなのに、未来は変わらない。

 それは普通だ。

 だけど、明らかな違いを見せる俺たちがいるのに、変わらないという事はありえるのだろうか?

 ……ありえない、ありえないはずだ、少なからず、俺はどのルートでも顔を出すだろうに。

 当たり前だけど、姉貴もゲームを作った張本人なので違和感を覚えたのだろう。

 俺が覚えている範囲ではまずありえないのだけど、姉貴に一応確認した方がいいな。

「そんな事は初めてじゃないか?」
「ええ、初めてよ。」
「……。」

 マジか……。

 あまり姉貴のそれを信用しすぎてもいけないのは分かってるけど、それでも、あそこまで練り上げられたものが一部壊されているのに、変わらないだなんて。

 後でしっぺ返しが来るんじゃないかと不安になる。

 そんな俺たちに一人分かっていないスピカは首を傾げている。

「ねぇ、北斗、それってどれくらい可笑しい事なの?」
「……時間は戻らないだろう。」
「う、うん…。」

 俺の感覚で言えば、一直線に時間が流れていくようなものだ。

 その間、間に分岐点があって、人はそれを選んでいく。

 そして、今回はその過去の事象をなかったかのように進んでいるのだ、姉貴の視た「夢」は。

 俺は俺の言葉でスピカに話す。

「時間は現在、過去となる、過去は変わらない。」
「うん。」
「なのに、姉貴の視たそれは過去の事象をなかった事にしている。」
「……それって。」

 自分でもわかりにくい説明かと思ったが、スピカも分かってくれたようだ。

「会った人物に会わなかった、そんな条件で進んでいる。」

 俺はスピカに会って、今だってその時間を共有しているというのに。

「そうなると、お姉さんのそれは外れるんだよね。」
「普通ならな。」
「……。」
「今は異常だから、それがどうなるかなんて分からねぇ。」

 未来を知る事の出来る姉貴。

 幽霊のスピカ。

 姉貴のゲームでは出てこない人物が俺の身近にいる。

 それはきっとゲームで言えばバグなのかもしれない。

 でも、ふっと思う、もし、「俺」を除いた時はどうなのだろう?

 俺は姉貴の事もスピカの事も話していない、強いて言うなら担任の先生に臭わす程度は言っているが、それだけだ。

 そうなると……。

「俺だけが知っている状態という条件が崩れれば、姉さんのそれは当たる事になる。」
「……でも、複数の未来を見たんだよね。」
「………ああ。」

 そうだ、姉貴は俺と言う存在の未来も視たんだった。

 くそ、どいういう事だ。

「お姉さんが視たそれって、北斗の未来?」
「……。」
「それだったら、今ここでどこまでがお姉さんが話せない内容なの?」

 ああ、そうだ、姉貴は俺の未来に関しては話せない。

 だけど、他の奴の話ならできる。

 つまりは、姉貴の変わらないというのは、他の連中の話でしかない。

 聞ける範囲で。

 姉貴に問いたださないといけない。

「姉貴、スピカが今回視た内容を聞けるのなら聞きたいと。」
「わたしが視たのは青のあいつ、緑、藍だった。」
「つまり、俺は関係ない?」

 確か、そいつらの場合はあんまり、「俺」の分身の出番はなかったような気がするが…、自身なんかないでも、俺にはこいつがいた。

「……確かそのルートだと北斗の出番はほぼなかった。」
「どうなのかしら?」

 スピカの断定的な言い方。

 姉貴の含み笑い。

 答えは決まっている。

 俺はスピカを見た時、ああ、久しぶりに出たよ、遠い目をする。

「青、緑、藍の苗字を持つ人は全員三年だった。
 彼らのストーリーだと司狼の出番は共通ルートのわずかな出番しかない。
 そして、二年の橙、黄、紫の苗字を持つ人は何かと司狼に絡んできて当て馬扱いにされていた。
 でも、三年のストーリーでも当て馬っぽい時もあったような…。」
「スピカ、頼むから当て馬、当て馬って連呼するな。」
「あっ、また漏れてた?」

 漏れてた?じゃない、ばっちり漏れてたぞ。

 俺の表情を見て、スピカは気まずそうに口元を引きつらせている。

「ああ。」
「ご、ごめん。」
「まあ、いいけどさ。」
「当て馬?」

 すっかり忘れていたけど、ここには姉貴が居て、姉貴は俺が言った言葉に首を傾げていた。

「ああ、スピカが言うには二年の奴らの話だと俺が当て馬扱いだって言って、ついでに、三年の奴らの話でもあったような、とか言っている。」
「ああ、三年の奴らの話はとぎれとぎれだから話がまとまるようにあんたで調整してもらったから。」
「……。」
「つまりは。」
「北斗がかかわっていない話だと未来は変わっていないだけ?」
「そうなるのか?」

 スピカと同意見だった。

 油断はできないけど、その可能性は大いにあった。

「他の二年の奴らと俺の話は視てないんだよな?」
「ええ、あんたの話だったらここまで話せないわよ。」
「……。」
「……。」
 

 ああ、確信犯かよ、この姉貴は…。

 引っ掻き回すだけ、やって、結局俺には全くと言っていいほど関係ない話だったのかよ。

 俺は若干へそを曲げたくなったが、スピカのホッとした顔を見て、俺もまた、ああ、それでよかったな、と思った。
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