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北斗サイド
混乱
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俺たちはくだらない話をしていたが、気づいたら太陽は大分傾き、夕日となっていた。
スピカは終わりの時間が近づいている事に気づいているのか、だんだん表情が暗くなり、とうとう口数が減り始めた。
「……。」
俺はそっと手を伸ばし、力で包み込んだ手で彼女の手を包み込む。
そして、しばらくしてから小さく息を吸って、彼女は重い口を開く。
「北斗……もう時間だよね?」
今にも泣きだしそうな表情に俺は言葉を詰まらせる。
確かにもう時間だ、だけど、彼女を置いて帰るという選択肢は俺にはなくてどうするべきかと頭を悩ませる。
「これ以上遅くなると家族さん心配するよね?」
彼女の言葉に俺は瞬きをして、そして、答える。
「心配するような家族はいない。」
「お姉さんがいるじゃない。」
彼女の言葉に俺は言葉を間違えたのだと悟り、訂正の言葉を言おうと口を開ける。
「いや、そうじゃない。」
「ん?」
スピカは可愛らしく小首を傾げ、思わず見とれそうになるが、それをぐっと押さえて話し出す。
「一昨日から入寮している。」
「寮?」
ポカンと間抜け顔で口を開けっぱなしのスピカに思わず笑いが込み上げてくるが、何とか表情を取り繕って平然と答える。
「ああ。」
「ここ寮があるの?」
念を押すような彼女に俺は不思議に思いながらも頷く。
「ああ。」
「…………す。」
「す?」
フルフルと震え出すスピカに何事かと俺は思わず眉を吊り上げる。
「凄いっ!本当にここって現実?現実な訳?ううん、そんな事はないわ、絶対夢、夢でしょう。」
ガバリと顔を上げ、顔を紅潮させているスピカに俺は怖気づきそうになってしまう。
何でこんなにこいつはテンションが高いんだ?
「おい、スピカ。」
「あー、もう絶対夢よ、というか、漫画の世界に紛れ込んだんじゃないかしら?ああ、私の運全部使い果たしたんじゃないかな?」
いや、お前確かゲームと似たような…ってあれは姉貴の夢の中だ、つーか、似非現実だよな。
って、放置しているとこいつ暴走しそうだな。
俺はそう思って少し息を吸う。
「いい加減にしろっ!」
指を弾きデコピンをすると、正気に戻ったスピカは恨みがましそうに俺を見上げていた。
「痛い…。」
「当たり前だろう、痛くしたんだからな。」
「……北斗、自分の力悪用しすぎじゃない?」
言われてそういやこいつに触れる為に熱を出しっぱなしにしていたと思いいたる、しかし、止めるつもりはなかった。
「お前に触れられる唯一の方法だからな。」
そう、この方法ではないとスピカに触れることは出来ない。
唯一、彼女と繋がる事が出来る己の力。
それは今とてつもなく嬉しくて、自分の掌を見る。
何となく気恥ずかしくなり、話題を変える為に、彼女の話に戻してやる。
「興奮する事か?」
「する、する、絶対するっ!」
失敗した、興奮する彼女は正直言って怖い。
彼女はそんな俺の視線など気にしていないのか、何か思い出してにやにやと笑い始める。
何となくムッとするが、暴走車のように走り出した彼女は止まる事はない。
「だって、素敵なイベントがあるんでしょ、やっぱり。」
フッと俺はある事実を思い出しそれを言葉にする。
「男子だけだぞ。」
「へ?」
「男子寮だけだ。」
「……。」
そうこの学校にあるのは男子寮だけだ、流石に年頃の女を預かるのはいかがなものかと、その話は今のところなくなっている。
だから、今この学校にあるのは男子寮だけだった。
俺がその事実を言えば、彼女は目に見えて落ち込んでいる。
「女子生徒は流石に預かるのは拙いという事で男子生徒、まあ、一部の人間だが、そいつらが寮生だ。」
「えー。
期待外れだ。
何でそうなるのよ、そりゃ男女同じ建物じゃないのはまあ、仕方ないとして、どうして、男子寮だけなよ。
あっ、でも、女の子がこっそり忍び込むとか面白そう。
でも、そんなイベントはなかったし、有り得ないか。」
ブツブツと呟く彼女は正直恐かった、だけど、それ以上に俺は不憫に思った。
何故なら…。
「おい、スピカ。」
「ふえっ?」
「漏れているぞ。」
「何が?」
訳が分からないというようにスピカは小首を傾げるが、俺は彼女に真実を告げる事にした。
「心の声。」
「……。」
「……。」
黙り込む彼女はまるで息をしていない石造のように固まったかと思うと、フルフルと震えはじめる。
大丈夫なのか?
「…………ふっ…。」
「ふ?」
ようやく言葉を言う彼女だったが、次の瞬間絶叫する。
「ふぎゃああああああああああああああああああっ!」
赤面してしゃがみ込むスピカは可愛い。
可愛いけど…。
「………おい、鼓膜が破れるかと思ったぞ。」
マジで耳が痛い…。
そして、何故か彼女は俺の顔を見て、どこか傷ついたような顔をするが、俺は何故彼女がそんな顔をしたのか全く分からなかった。
スピカは終わりの時間が近づいている事に気づいているのか、だんだん表情が暗くなり、とうとう口数が減り始めた。
「……。」
俺はそっと手を伸ばし、力で包み込んだ手で彼女の手を包み込む。
そして、しばらくしてから小さく息を吸って、彼女は重い口を開く。
「北斗……もう時間だよね?」
今にも泣きだしそうな表情に俺は言葉を詰まらせる。
確かにもう時間だ、だけど、彼女を置いて帰るという選択肢は俺にはなくてどうするべきかと頭を悩ませる。
「これ以上遅くなると家族さん心配するよね?」
彼女の言葉に俺は瞬きをして、そして、答える。
「心配するような家族はいない。」
「お姉さんがいるじゃない。」
彼女の言葉に俺は言葉を間違えたのだと悟り、訂正の言葉を言おうと口を開ける。
「いや、そうじゃない。」
「ん?」
スピカは可愛らしく小首を傾げ、思わず見とれそうになるが、それをぐっと押さえて話し出す。
「一昨日から入寮している。」
「寮?」
ポカンと間抜け顔で口を開けっぱなしのスピカに思わず笑いが込み上げてくるが、何とか表情を取り繕って平然と答える。
「ああ。」
「ここ寮があるの?」
念を押すような彼女に俺は不思議に思いながらも頷く。
「ああ。」
「…………す。」
「す?」
フルフルと震え出すスピカに何事かと俺は思わず眉を吊り上げる。
「凄いっ!本当にここって現実?現実な訳?ううん、そんな事はないわ、絶対夢、夢でしょう。」
ガバリと顔を上げ、顔を紅潮させているスピカに俺は怖気づきそうになってしまう。
何でこんなにこいつはテンションが高いんだ?
「おい、スピカ。」
「あー、もう絶対夢よ、というか、漫画の世界に紛れ込んだんじゃないかしら?ああ、私の運全部使い果たしたんじゃないかな?」
いや、お前確かゲームと似たような…ってあれは姉貴の夢の中だ、つーか、似非現実だよな。
って、放置しているとこいつ暴走しそうだな。
俺はそう思って少し息を吸う。
「いい加減にしろっ!」
指を弾きデコピンをすると、正気に戻ったスピカは恨みがましそうに俺を見上げていた。
「痛い…。」
「当たり前だろう、痛くしたんだからな。」
「……北斗、自分の力悪用しすぎじゃない?」
言われてそういやこいつに触れる為に熱を出しっぱなしにしていたと思いいたる、しかし、止めるつもりはなかった。
「お前に触れられる唯一の方法だからな。」
そう、この方法ではないとスピカに触れることは出来ない。
唯一、彼女と繋がる事が出来る己の力。
それは今とてつもなく嬉しくて、自分の掌を見る。
何となく気恥ずかしくなり、話題を変える為に、彼女の話に戻してやる。
「興奮する事か?」
「する、する、絶対するっ!」
失敗した、興奮する彼女は正直言って怖い。
彼女はそんな俺の視線など気にしていないのか、何か思い出してにやにやと笑い始める。
何となくムッとするが、暴走車のように走り出した彼女は止まる事はない。
「だって、素敵なイベントがあるんでしょ、やっぱり。」
フッと俺はある事実を思い出しそれを言葉にする。
「男子だけだぞ。」
「へ?」
「男子寮だけだ。」
「……。」
そうこの学校にあるのは男子寮だけだ、流石に年頃の女を預かるのはいかがなものかと、その話は今のところなくなっている。
だから、今この学校にあるのは男子寮だけだった。
俺がその事実を言えば、彼女は目に見えて落ち込んでいる。
「女子生徒は流石に預かるのは拙いという事で男子生徒、まあ、一部の人間だが、そいつらが寮生だ。」
「えー。
期待外れだ。
何でそうなるのよ、そりゃ男女同じ建物じゃないのはまあ、仕方ないとして、どうして、男子寮だけなよ。
あっ、でも、女の子がこっそり忍び込むとか面白そう。
でも、そんなイベントはなかったし、有り得ないか。」
ブツブツと呟く彼女は正直恐かった、だけど、それ以上に俺は不憫に思った。
何故なら…。
「おい、スピカ。」
「ふえっ?」
「漏れているぞ。」
「何が?」
訳が分からないというようにスピカは小首を傾げるが、俺は彼女に真実を告げる事にした。
「心の声。」
「……。」
「……。」
黙り込む彼女はまるで息をしていない石造のように固まったかと思うと、フルフルと震えはじめる。
大丈夫なのか?
「…………ふっ…。」
「ふ?」
ようやく言葉を言う彼女だったが、次の瞬間絶叫する。
「ふぎゃああああああああああああああああああっ!」
赤面してしゃがみ込むスピカは可愛い。
可愛いけど…。
「………おい、鼓膜が破れるかと思ったぞ。」
マジで耳が痛い…。
そして、何故か彼女は俺の顔を見て、どこか傷ついたような顔をするが、俺は何故彼女がそんな顔をしたのか全く分からなかった。
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