逆行したら別人になった

弥生 桜香

文字の大きさ
上 下
38 / 136
第一章

契約

しおりを挟む
「二つ選択肢を上げます。」
「……えー、二つだけ?」
『おい。』

 ゲシっと狼に踏まれる男に私は無視を決め込む。

「一つ、ここで私に殺されるか。」
「別にいいけど。」
「……。」

 ケロリとしている男に私の方が戸惑うが、それを表に出すことなく、冷めた目で彼を見る。

「死ぬのよ?」
「別に、里じゃ、任務が失敗するのは死を意味するからな。」
「そう。」
「んで、もう一つは?」
「私の協力者になる事。」
「……。」

 スッと男の目が冷え、狼は興味深そう私を見る。

「ジェダイドは「力」を狙われているし、その「力」でできたセラフィナイトという精霊も狙われるわ。」
「で?」
「私は彼らを守りたい。」
「……そいつらは、お姫さんにとって何なんだ?ダチか?」
「……彼らは。」

 私は自分の手を見つめ、そして、目を閉じ、口を開く。

「ジェダイドは大切な人。私の命よりもずっと、ずっと大切な人。そして、セラフィナイトは大切な人との子どもみたいなものかな。」
「……えっ?」

 ギョッとする男に私は首を傾げる。

「お前、子ども居るのか?こんな子どもなのに、相手はそんなにおっさんなのかっ!」

 私は冷たい笑みを受けべ、ナイフを男の喉元に突き付ける。

「ジェダイドの情報を知っていてそんな事を言うんですか?」
「あ、いや……そういや、十二の餓鬼とか。」
『愚か者…。』
「だってさ、こいつの言い方が悪いだろうが。」
『この方はみたいなとちゃんと言っておったぞ。』
「そうかもしれないけど。」
「いい加減黙ってくださらない?」
「はい。」

 私が冷気を発すると男は黙り込む。

「私は真剣にお答えしたのに茶化すなんて……、やはり取引は止めて一気に仕留めてしまった方がよかったかしら…。」

 徐々に後悔し始めるが、残念ながら私の手札が少ないので、少しでも手を打てるなら打ってしまった方がいいだろう。
 頭はあまりよろしくはないかもしれないが、この男の戦闘能力は確実に上だから。

『……聖女……姫よ。』

 狼はそっと私を見上げる。

『姫はどうする気なのだ、この世界を。』
「役目はジェダイドの代わりに私が果たします、例え、逃げたところで、ジェダイドたちは追い込まれるに決まっていますから。」
『そうか。』

 「前」は成り行きであそこまでいったかが、今考えても私は役目から逃げる事はいくらでも方法を考えられるが、ジェダイドは無理だった。
 彼は貴族であり、王からの勅命があればその通りに動かなくてはならない、逃げる事は出来ない。
 それならば、先回りをして潰してしまえばいいのだ。
 だから、私は役目から逃げない。

『幼き身なのにもう先を考えておられるのだな。』
「年齢など関係ありません、もう事態は動き出しているのですから。私は現状を見て、そして、先を読み動かなくてはなりませんから。」
『そうか……姫はもう覚悟を決めておらてるのだな。』
「ええ。」
『一つ聞いてもよろしいか。』
「何がですか?」
『姫は自分が聖女ではないと言っておられるが、その根拠は何なのだ。』
「聖女と呼ばれる家系の人にはもう娘がいらっしゃいます、その方が聖女となりますでしょう。その人がきっとジェダイドの妻となりますから。」
『……。』

 何か言いたそうな顔をする狼にフッと私は神が自分に対して「癒しのモノ」と呼んでいた事に気づき、首を振る。
 違う。自分はジェダイドの身代わり人形だった、そして、その人形だった時の「力」が今に引き継がれているから、勘違いされているのだ。
 私はそう自分に言い聞かせる。

「それで、貴方はどうします?死にます?それとも私に手を貸します?」
「…………まあ、お姫さんについていった方が退屈はしそうにないな。」
『馬鹿者が。』
「まあ、今はその返答で構いませんが、後悔しないでくださいな。」

 私は四つの光を呼び起こす。

「風、地、水、火よ 彼の者と契約を交わす 彼の者は『私――マラカイトの意思に反する行為をした場合死す事を』 私、マラカイトは彼の者に『風の力の譲渡』を対価に契約す。」
「何だよこれ。」

 初めて見るのか男は驚きを隠せないでいた。
 そして、四つの光は一つとなり一枚の紙となる。

「これに拇印を押してください。」

 私は親指を噛みちぎり血を流すと紙に押し付ける、すると、紙は光りを発する。
 男は戸惑いを見せるが、意を決したのか、私と同じように指を噛み切り。血を紙に押し付ける。
 紙は一瞬にして燃え盛り、灰となって風に乗って光の粒となり消えた。

「契約はなされました。」
「そうか。」
「それじゃ、馬車馬のように働いてくださいな。」

 ニッコリと私が微笑むと男は顔を引きつらせた。

「オレ早まった?」
『覇王に手を出した時点で、もう遅かったのだ、諦めろ、愚か者。』
「そういえば、名前を訊いていませんでしたね。」
「金剛だ。」
『嵐牙だ。』
「私の名前はマラカイトと申します、それではよろしくお願いしますね、共犯者たち。」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

三度目の嘘つき

豆狸
恋愛
「……本当に良かったのかい、エカテリナ。こんな嘘をついて……」 「……いいのよ。私に新しい相手が出来れば、周囲も殿下と男爵令嬢の仲を認めずにはいられなくなるわ」 なろう様でも公開中ですが、少し構成が違います。内容は同じです。

好きでした、さようなら

豆狸
恋愛
「……すまない」 初夜の床で、彼は言いました。 「君ではない。私が欲しかった辺境伯令嬢のアンリエット殿は君ではなかったんだ」 悲しげに俯く姿を見て、私の心は二度目の死を迎えたのです。 なろう様でも公開中です。

悪役令嬢、猛省中!!

***あかしえ
恋愛
「君との婚約は破棄させてもらう!」 ――この国の王妃となるべく、幼少の頃から悪事に悪事を重ねてきた公爵令嬢ミーシャは、狂おしいまでに愛していた己の婚約者である第二王子に、全ての罪を暴かれ断頭台へと送られてしまう。 処刑される寸前――己の前世とこの世界が少女漫画の世界であることを思い出すが、全ては遅すぎた。 今度生まれ変わるなら、ミーシャ以外のなにかがいい……と思っていたのに、気付いたら幼少期へと時間が巻き戻っていた!? 己の罪を悔い、今度こそ善行を積み、彼らとは関わらず静かにひっそりと生きていこうと決意を新たにしていた彼女の下に現れたのは……?! 襲い来るかもしれないシナリオの強制力、叶わない恋、 誰からも愛されるあの子に対する狂い出しそうな程の憎しみへの恐怖、  誰にもきっと分からない……でも、これの全ては自業自得。 今度こそ、私は私が傷つけてきた全ての人々を…………救うために頑張ります!

異世界に来ちゃったよ!?

いがむり
ファンタジー
235番……それが彼女の名前。記憶喪失の17歳で沢山の子どもたちと共にファクトリーと呼ばれるところで楽しく暮らしていた。 しかし、現在森の中。 「とにきゃく、こころこぉ?」 から始まる異世界ストーリー 。 主人公は可愛いです! もふもふだってあります!! 語彙力は………………無いかもしれない…。 とにかく、異世界ファンタジー開幕です! ※不定期投稿です…本当に。 ※誤字・脱字があればお知らせ下さい (※印は鬱表現ありです)

異世界帰りのゲーマー

たまご
ファンタジー
 部屋でゲームをしていたところ異世界へ招かねてしまった男   鈴木一郎 16歳  彼女なし(16+10年)  10年のも月日をかけ邪神を倒し地球へと帰ってきた  それも若返った姿で10年前に  あっ、俺に友達なんていなかったわ  異世界帰りのボッチゲーマーの物語  誤字脱字、文章の矛盾などありましたら申し訳ありません  初投稿の為、改稿などが度々起きるかもしれません  よろしくお願いします

転生チートは家族のために~ユニークスキルで、快適な異世界生活を送りたい!~

りーさん
ファンタジー
 ある日、異世界に転生したルイ。  前世では、両親が共働きの鍵っ子だったため、寂しい思いをしていたが、今世は優しい家族に囲まれた。  そんな家族と異世界でも楽しく過ごすために、ユニークスキルをいろいろと便利に使っていたら、様々なトラブルに巻き込まれていく。 「家族といたいからほっといてよ!」 ※スキルを本格的に使い出すのは二章からです。

処理中です...