36 / 136
第一章
招かれざる侵入者
しおりを挟む
あれから私たちは精霊の張ってくれている結界内に戻り、簡単に食事をして眠りについた。
私が倒れて気を張ってくれていたのかジェダイドはすんなりと深い眠りに入った。
私の今からする事を知っているのか精霊は私の傍に近寄り、そして、リンと言うと、そのままセラフィナイトの傍まで行ってくれる。
セラフィナイトはジッと私を見つめ、不安そうな顔をしている。
「大丈夫、すぐ戻ってくるからね。」
私はセラフィナイトの頭を撫で、そして、ナイフを抜き出しておく。
感知範囲を広げ、敵の位置と人数を再確認する。
敵は一人。
こちらをうかがうように数百歩先のこの森の中で一番高い木の上にいる。
性別は男。
血の匂いからして、人を殺した事がある。
強さは今の私が奇襲をかけて互角。
スッと息を吸い私は地面を蹴る。
音を立てず、風を切って走る。
相手はまだ気づいていない。
野生の獣たちがこちらに気づくが、私はそれを無視して進む。
獣が襲う前に私は凄い速さで移動しているので、よっぽどじゃなければ彼らは追いつけないのだから当然だろう。
「さあ、貴方は何の為に私たちに付きまとうのかしら?」
私はぼそりと呟き、この森の二番目に高い木の幹に足を掛け、一気に駆け上がる。
そして、一番てっぺんまでたどり着いた私は空中に足場を作り、一気に一番高い木の中ほどまでたどり着く。
一瞬私の気配が漏れたのか警戒を見せる彼だが、すぐに気の所為だと判断したのか気を僅かに緩めた。
私の情報は皆無のようだ。
もし、わずかでも私の事が知られていたのなら確実にもっと警戒されていただろう。
子どもだと侮っているのなら今が好機。
私は慎重にかつ大胆に彼の後ろに回り込み、そして、ナイフを走らせるが紙一重で避けられる。
「くっ!」
奇襲は失敗。
「子ども?」
男は驚いているが、私から発せられる空気が普通の子どもではない事を悟ると見覚えのない黒い独特的なナイフを見せる。
「無関係の者を殺したくはないが、お主のその気配只者ではないな。」
「……。」
私は無言を貫き、そして、太い枝を蹴る。
「素早い。」
舌打ちしながらも私の攻撃を易々と受ける男に私は自分の予測が外れていた事を悟る。
彼との戦いは多分万全の態勢で、体術で挑んでも勝てるかは不明。
そう、体術のみならば。
私は大気を震わせる。
「風よ 鋭き刃となり 吹き荒れろ 風刃嵐っ!」
「くっ!」
無数の風の刃が男を襲う。
男は耐えていたと思ったら、懐から紙を取り出す。
「封印 解除 嵐牙。」
『ずいぶんてこずっているな 相棒。』
突然現れた大きな深緑色の狼に私は一瞬目を見開くが、それから発せられる空気はかなりの強さの為、すぐに気を引き締める。
「まさか、こんな強い姫さんに守られているなんて誰も思わないだろう?」
『……っ!まさか……この方は…。』
狼は私を見て驚愕の表情を浮かべる。
「何だ?相棒。」
『すぐさま、苦無を下げろ、愚か者っ!』
「はぁ?」
急に雲行きが変わり始め、私はナイフを構えたまま成り行きを見守る。
『この方は聖女だぞ。』
「んだよ、それ?」
『無知が……「癒しのモノ」、「治癒の女神」、「癒しの神子」、「聖女」様々な呼び名があるが、この世界が脆弱した時に現れる方だ。』
「ふーん。」
『愚か者がっ!』
関心がないのか狼の話を聞き流す男に狼は痺れを切らしたのか軽やかに跳躍し、そして、回し蹴りが見事に男の頭にヒットする。
「何るんだよ、嵐牙っ!」
『お前には分からぬのか、この方から発せられる清浄なオーラを、分からぬというのなら、もう一度里に戻って、見習いからやり直せっ!』
「分からん事はないが、オレとお前が揃えば勝てるだろうが。」
『馬鹿もがっ!』
ガシガシと男を噛み付く狼に私はもうあきれ果てる。
「あの……。」
『ああ、何故、某はこやつと契ってしまったのだ。』
「オレが強いからだろう。」
『お頭が弱いっ!』
「んだとっ!」
『某が一を言って何故十を知ろうとせぬ。』
「お前が回りくどいからだろう。」
「そろそろ、話しを…。」
「つーかさ、このお姫さんを遣って、あの小僧を捕まえれば報酬がもらえるんだ、やるぞ。」
『馬鹿者がっ!某はこの方に絶対に危害を与えぬっ!』
「んじゃ、お前は俺に負けろというのか。」
『ああ、負けてしまえ、コテンパンに負けてしまえ、そして、里の恥さらしとして、死んでしまえっ!』
「んだとっ!」
『やるか、小僧っ!』
殺伐とした空気に私は息を吸う。
「いい加減にしなさいっ!」
集めていた稲妻を二人の間に落とし、そして、彼らの周りには氷の刃が浮いていた。
「あれ……絶体絶命?」
『流石は聖女様だ、一瞬にしてここまでやられるとは。』
「関心すんな。」
「黙っていただけます?手元が来るってグサッと逝きますよ?」
「あれー……まさか、かなりご立腹?」
『……黙れ、屑がっ!』
狼は男の急所に一撃を食らわし、男を落とす。
『申し訳ありませんでした、聖女よ。この愚か者の命でよろしければいくらでも奪ってください。』
「……。」
首を垂れる狼に私はようやく冷静になり、溜息を零す。
「別に命など欲しくはありませんが、この男の雇い主の話が聞きたいですね。」
『某が分かる範囲で良ければお答えしよう。』
私が倒れて気を張ってくれていたのかジェダイドはすんなりと深い眠りに入った。
私の今からする事を知っているのか精霊は私の傍に近寄り、そして、リンと言うと、そのままセラフィナイトの傍まで行ってくれる。
セラフィナイトはジッと私を見つめ、不安そうな顔をしている。
「大丈夫、すぐ戻ってくるからね。」
私はセラフィナイトの頭を撫で、そして、ナイフを抜き出しておく。
感知範囲を広げ、敵の位置と人数を再確認する。
敵は一人。
こちらをうかがうように数百歩先のこの森の中で一番高い木の上にいる。
性別は男。
血の匂いからして、人を殺した事がある。
強さは今の私が奇襲をかけて互角。
スッと息を吸い私は地面を蹴る。
音を立てず、風を切って走る。
相手はまだ気づいていない。
野生の獣たちがこちらに気づくが、私はそれを無視して進む。
獣が襲う前に私は凄い速さで移動しているので、よっぽどじゃなければ彼らは追いつけないのだから当然だろう。
「さあ、貴方は何の為に私たちに付きまとうのかしら?」
私はぼそりと呟き、この森の二番目に高い木の幹に足を掛け、一気に駆け上がる。
そして、一番てっぺんまでたどり着いた私は空中に足場を作り、一気に一番高い木の中ほどまでたどり着く。
一瞬私の気配が漏れたのか警戒を見せる彼だが、すぐに気の所為だと判断したのか気を僅かに緩めた。
私の情報は皆無のようだ。
もし、わずかでも私の事が知られていたのなら確実にもっと警戒されていただろう。
子どもだと侮っているのなら今が好機。
私は慎重にかつ大胆に彼の後ろに回り込み、そして、ナイフを走らせるが紙一重で避けられる。
「くっ!」
奇襲は失敗。
「子ども?」
男は驚いているが、私から発せられる空気が普通の子どもではない事を悟ると見覚えのない黒い独特的なナイフを見せる。
「無関係の者を殺したくはないが、お主のその気配只者ではないな。」
「……。」
私は無言を貫き、そして、太い枝を蹴る。
「素早い。」
舌打ちしながらも私の攻撃を易々と受ける男に私は自分の予測が外れていた事を悟る。
彼との戦いは多分万全の態勢で、体術で挑んでも勝てるかは不明。
そう、体術のみならば。
私は大気を震わせる。
「風よ 鋭き刃となり 吹き荒れろ 風刃嵐っ!」
「くっ!」
無数の風の刃が男を襲う。
男は耐えていたと思ったら、懐から紙を取り出す。
「封印 解除 嵐牙。」
『ずいぶんてこずっているな 相棒。』
突然現れた大きな深緑色の狼に私は一瞬目を見開くが、それから発せられる空気はかなりの強さの為、すぐに気を引き締める。
「まさか、こんな強い姫さんに守られているなんて誰も思わないだろう?」
『……っ!まさか……この方は…。』
狼は私を見て驚愕の表情を浮かべる。
「何だ?相棒。」
『すぐさま、苦無を下げろ、愚か者っ!』
「はぁ?」
急に雲行きが変わり始め、私はナイフを構えたまま成り行きを見守る。
『この方は聖女だぞ。』
「んだよ、それ?」
『無知が……「癒しのモノ」、「治癒の女神」、「癒しの神子」、「聖女」様々な呼び名があるが、この世界が脆弱した時に現れる方だ。』
「ふーん。」
『愚か者がっ!』
関心がないのか狼の話を聞き流す男に狼は痺れを切らしたのか軽やかに跳躍し、そして、回し蹴りが見事に男の頭にヒットする。
「何るんだよ、嵐牙っ!」
『お前には分からぬのか、この方から発せられる清浄なオーラを、分からぬというのなら、もう一度里に戻って、見習いからやり直せっ!』
「分からん事はないが、オレとお前が揃えば勝てるだろうが。」
『馬鹿もがっ!』
ガシガシと男を噛み付く狼に私はもうあきれ果てる。
「あの……。」
『ああ、何故、某はこやつと契ってしまったのだ。』
「オレが強いからだろう。」
『お頭が弱いっ!』
「んだとっ!」
『某が一を言って何故十を知ろうとせぬ。』
「お前が回りくどいからだろう。」
「そろそろ、話しを…。」
「つーかさ、このお姫さんを遣って、あの小僧を捕まえれば報酬がもらえるんだ、やるぞ。」
『馬鹿者がっ!某はこの方に絶対に危害を与えぬっ!』
「んじゃ、お前は俺に負けろというのか。」
『ああ、負けてしまえ、コテンパンに負けてしまえ、そして、里の恥さらしとして、死んでしまえっ!』
「んだとっ!」
『やるか、小僧っ!』
殺伐とした空気に私は息を吸う。
「いい加減にしなさいっ!」
集めていた稲妻を二人の間に落とし、そして、彼らの周りには氷の刃が浮いていた。
「あれ……絶体絶命?」
『流石は聖女様だ、一瞬にしてここまでやられるとは。』
「関心すんな。」
「黙っていただけます?手元が来るってグサッと逝きますよ?」
「あれー……まさか、かなりご立腹?」
『……黙れ、屑がっ!』
狼は男の急所に一撃を食らわし、男を落とす。
『申し訳ありませんでした、聖女よ。この愚か者の命でよろしければいくらでも奪ってください。』
「……。」
首を垂れる狼に私はようやく冷静になり、溜息を零す。
「別に命など欲しくはありませんが、この男の雇い主の話が聞きたいですね。」
『某が分かる範囲で良ければお答えしよう。』
0
お気に入りに追加
27
あなたにおすすめの小説

【完結】徒花の王妃
つくも茄子
ファンタジー
その日、王妃は王都を去った。
何故か勝手についてきた宰相と共に。今は亡き、王国の最後の王女。そして今また滅びゆく国の最後の王妃となった彼女の胸の内は誰にも分からない。亡命した先で名前と身分を変えたテレジア王女。テレサとなった彼女を知る数少ない宰相。国のために生きた王妃の物語が今始まる。
「婚約者の義妹と恋に落ちたので婚約破棄した処、「妃教育の修了」を条件に結婚が許されたが結果が芳しくない。何故だ?同じ高位貴族だろう?」の王妃の物語。単体で読めます。

婚約破棄で命拾いした令嬢のお話 ~本当に助かりましたわ~
華音 楓
恋愛
シャルロット・フォン・ヴァーチュレストは婚約披露宴当日、謂れのない咎により結婚破棄を通達された。
突如襲い来る隣国からの8万の侵略軍。
襲撃を受ける元婚約者の領地。
ヴァーチュレスト家もまた存亡の危機に!!
そんな数奇な運命をたどる女性の物語。
いざ開幕!!

乙女ゲームの悪役令嬢に転生したけど何もしなかったらヒロインがイジメを自演し始めたのでお望み通りにしてあげました。魔法で(°∀°)
ラララキヲ
ファンタジー
乙女ゲームのラスボスになって死ぬ悪役令嬢に転生したけれど、中身が転生者な時点で既に乙女ゲームは破綻していると思うの。だからわたくしはわたくしのままに生きるわ。
……それなのにヒロインさんがイジメを自演し始めた。ゲームのストーリーを展開したいと言う事はヒロインさんはわたくしが死ぬ事をお望みね?なら、わたくしも戦いますわ。
でも、わたくしも暇じゃないので魔法でね。
ヒロイン「私はホラー映画の主人公か?!」
『見えない何か』に襲われるヒロインは────
※作中『イジメ』という表現が出てきますがこの作品はイジメを肯定するものではありません※
※作中、『イジメ』は、していません。生死をかけた戦いです※
◇テンプレ乙女ゲーム舞台転生。
◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。
◇なろうにも上げてます。

鑑定能力で恩を返す
KBT
ファンタジー
どこにでもいる普通のサラリーマンの蔵田悟。
彼ははある日、上司の悪態を吐きながら深酒をし、目が覚めると見知らぬ世界にいた。
そこは剣と魔法、人間、獣人、亜人、魔物が跋扈する異世界フォートルードだった。
この世界には稀に異世界から《迷い人》が転移しており、悟もその1人だった。
帰る方法もなく、途方に暮れていた悟だったが、通りすがりの商人ロンメルに命を救われる。
そして稀少な能力である鑑定能力が自身にある事がわかり、ブロディア王国の公都ハメルンの裏通りにあるロンメルの店で働かせてもらう事になった。
そして、ロンメルから店の番頭を任された悟は《サト》と名前を変え、命の恩人であるロンメルへの恩返しのため、商店を大きくしようと鑑定能力を駆使して、海千山千の商人達や荒くれ者の冒険者達を相手に日夜奮闘するのだった。

悪役貴族の四男に転生した俺は、怠惰で自由な生活がしたいので、自由気ままな冒険者生活(スローライフ)を始めたかった。
SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
俺は何もしてないのに兄達のせいで悪役貴族扱いされているんだが……
アーノルドは名門貴族クローリー家の四男に転生した。家の掲げる独立独行の家訓のため、剣技に魔術果ては鍛冶師の技術を身に着けた。
そして15歳となった現在。アーノルドは、魔剣士を育成する教育機関に入学するのだが、親戚や上の兄達のせいで悪役扱いをされ、付いた渾名は【悪役公子】。
実家ではやりたくもない【付与魔術】をやらされ、学園に通っていても心の無い言葉を投げかけられる日々に嫌気がさした俺は、自由を求めて冒険者になる事にした。
剣術ではなく刀を打ち刀を使う彼は、憧れの自由と、美味いメシとスローライフを求めて、時に戦い。時にメシを食らい、時に剣を打つ。
アーノルドの第二の人生が幕を開ける。しかし、同級生で仲の悪いメイザース家の娘ミナに学園での態度が演技だと知られてしまい。アーノルドの理想の生活は、ハチャメチャなものになって行く。


異世界帰りのゲーマー
たまご
ファンタジー
部屋でゲームをしていたところ異世界へ招かねてしまった男
鈴木一郎 16歳
彼女なし(16+10年)
10年のも月日をかけ邪神を倒し地球へと帰ってきた
それも若返った姿で10年前に
あっ、俺に友達なんていなかったわ
異世界帰りのボッチゲーマーの物語
誤字脱字、文章の矛盾などありましたら申し訳ありません
初投稿の為、改稿などが度々起きるかもしれません
よろしくお願いします
アロマおたくは銀鷹卿の羽根の中。~召喚されたらいきなり血みどろになったけど、知識を生かして楽しく暮らします!
古森真朝
ファンタジー
大学生の理咲(りさ)はある日、同期生・星蘭(せいら)の巻き添えで異世界に転移させられる。その際の着地にミスって頭を打ち、いきなり流血沙汰という散々な目に遭った……が、その場に居合わせた騎士・ノルベルトに助けられ、どうにか事なきを得る。
怪我をした理咲の行動にいたく感心したという彼は、若くして近衛騎士隊を任される通称『銀鷹卿』。長身でガタイが良い上に銀髪蒼眼、整った容姿ながらやたらと威圧感のある彼だが、実は仲間想いで少々不器用、ついでに万年肩凝り頭痛持ちという、微笑ましい一面も持っていた。
世話になったお礼に、理咲の持ち込んだ趣味グッズでアロマテラピーをしたところ、何故か立ちどころに不調が癒えてしまう。その後に試したノルベルトの部下たちも同様で、ここに来て『じゃない方』の召喚者と思われた理咲の特技が判明することに。
『この世界、アロマテラピーがめっっっっちゃ効くんだけど!?!』
趣味で極めた一芸は、異世界での活路を切り開けるのか。ついでに何かと手を貸してくれつつ、そこそこ付き合いの長い知人たちもびっくりの溺愛を見せるノルベルトの想いは伝わるのか。その背景で渦巻く、王宮を巻き込んだ陰謀の行方は?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる