34 / 136
第一章
狭間
しおりを挟む
私は意識を失いながら夢を見る。
過去、未来、失った過去、訪れない未来様々な光景は浮かんでは消えていく、まるで、気泡のようだった。
そして、数多の光景を眺めていた私は視線を感じて、振り返ると、そこに美しい人がいた。
「あなたは?」
『久しいな、癒しのモノよ。』
その声には聞き覚えがあった、あの時、「前」の自分が消え、そして、今の「マラカイト」になる前に聞いた声だった。
「どうして。」
『…どうしてか、本来ならば見守らなくてはならぬのだが、思ったよりもアレが関与してきたからな。』
「あれ…………っ!」
私は言われた意味が分からず、首を傾げるとすぐに、あの村で聞こえたアレを思い出し、顔を顰める。
『アレはいくつもの癒しのモノも壊しのモノもの堕とし、狂わせた。
アレは世界の一部であり、そなたたちの一部でもある。』
「アレを葬るのが願いですか?」
『それは無理だな、前のそなたたちでさえ、時間を稼ぐのがやっとだったのだから。』
「前?」
私は目の前の神が言う「前」が私の精霊だった時の事を指していない事を何となく感じ取った。
『……ああ、忘れていた。人は忘れる生き物だった。覚えておらぬのは仕方なき事、でも、前のそなたには大きな感謝を抱いている、だから、力を貸したが、そなた、人の身には過ぎたるのもだったか。』
私をじっと見て悲しそうな顔をする神に、そっと私は首を振った。
「あなたのお蔭で、私たちはあそこから脱出することができました、それに、何度も命を助けられました。」
『生命を削っているのだぞ。』
「私の命は彼に捧げると決めています。」
『………そなたはやはりそなたなのだな、前のそなたにそっくりだ。』
「えっ?」
『彼の壊しのモノを守る為に前のそなたは「悪魔」や「鬼女」と呼ばれでも豪胆にも笑っていた。』
「……。」
神の言葉に私は苦笑する。
「私はそこまで強くありません。」
きっと今のジェダイドと触れ合う前の私ならばそのくらいで傷つく事はなかっただろうが、今の私はきっと僅かに傷ついてしまう。
それなのに、笑えるはずがなかった。
『そろそろ戻らぬと、そなたは人と精霊の狭間に落ちてしまうな。』
「えっ?」
『そなたは人として望んでいるのだから、そなたのその揺れはもう起きぬように、加護を与えるとしようか……その胸元の指輪がよさそうだな。』
神はそっと私の胸元を指さすと、それは熱を発し、そして、すぐに冷めてしまった。
『あまり力を使いすぎるな、最後まで持たぬぞ。』
警告を告げると、私の周りがカッと明るくなり、私の意識は現へと再び浮上する。
過去、未来、失った過去、訪れない未来様々な光景は浮かんでは消えていく、まるで、気泡のようだった。
そして、数多の光景を眺めていた私は視線を感じて、振り返ると、そこに美しい人がいた。
「あなたは?」
『久しいな、癒しのモノよ。』
その声には聞き覚えがあった、あの時、「前」の自分が消え、そして、今の「マラカイト」になる前に聞いた声だった。
「どうして。」
『…どうしてか、本来ならば見守らなくてはならぬのだが、思ったよりもアレが関与してきたからな。』
「あれ…………っ!」
私は言われた意味が分からず、首を傾げるとすぐに、あの村で聞こえたアレを思い出し、顔を顰める。
『アレはいくつもの癒しのモノも壊しのモノもの堕とし、狂わせた。
アレは世界の一部であり、そなたたちの一部でもある。』
「アレを葬るのが願いですか?」
『それは無理だな、前のそなたたちでさえ、時間を稼ぐのがやっとだったのだから。』
「前?」
私は目の前の神が言う「前」が私の精霊だった時の事を指していない事を何となく感じ取った。
『……ああ、忘れていた。人は忘れる生き物だった。覚えておらぬのは仕方なき事、でも、前のそなたには大きな感謝を抱いている、だから、力を貸したが、そなた、人の身には過ぎたるのもだったか。』
私をじっと見て悲しそうな顔をする神に、そっと私は首を振った。
「あなたのお蔭で、私たちはあそこから脱出することができました、それに、何度も命を助けられました。」
『生命を削っているのだぞ。』
「私の命は彼に捧げると決めています。」
『………そなたはやはりそなたなのだな、前のそなたにそっくりだ。』
「えっ?」
『彼の壊しのモノを守る為に前のそなたは「悪魔」や「鬼女」と呼ばれでも豪胆にも笑っていた。』
「……。」
神の言葉に私は苦笑する。
「私はそこまで強くありません。」
きっと今のジェダイドと触れ合う前の私ならばそのくらいで傷つく事はなかっただろうが、今の私はきっと僅かに傷ついてしまう。
それなのに、笑えるはずがなかった。
『そろそろ戻らぬと、そなたは人と精霊の狭間に落ちてしまうな。』
「えっ?」
『そなたは人として望んでいるのだから、そなたのその揺れはもう起きぬように、加護を与えるとしようか……その胸元の指輪がよさそうだな。』
神はそっと私の胸元を指さすと、それは熱を発し、そして、すぐに冷めてしまった。
『あまり力を使いすぎるな、最後まで持たぬぞ。』
警告を告げると、私の周りがカッと明るくなり、私の意識は現へと再び浮上する。
0
お気に入りに追加
27
あなたにおすすめの小説
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

三度目の嘘つき
豆狸
恋愛
「……本当に良かったのかい、エカテリナ。こんな嘘をついて……」
「……いいのよ。私に新しい相手が出来れば、周囲も殿下と男爵令嬢の仲を認めずにはいられなくなるわ」
なろう様でも公開中ですが、少し構成が違います。内容は同じです。

好きでした、さようなら
豆狸
恋愛
「……すまない」
初夜の床で、彼は言いました。
「君ではない。私が欲しかった辺境伯令嬢のアンリエット殿は君ではなかったんだ」
悲しげに俯く姿を見て、私の心は二度目の死を迎えたのです。
なろう様でも公開中です。

チート薬学で成り上がり! 伯爵家から放逐されたけど優しい子爵家の養子になりました!
芽狐@書籍発売中
ファンタジー
⭐️チート薬学3巻発売中⭐️
ブラック企業勤めの37歳の高橋 渉(わたる)は、過労で倒れ会社をクビになる。
嫌なことを忘れようと、異世界のアニメを見ていて、ふと「異世界に行きたい」と口に出したことが、始まりで女神によって死にかけている体に転生させられる!
転生先は、スキルないも魔法も使えないアレクを家族は他人のように扱い、使用人すらも見下した態度で接する伯爵家だった。
新しく生まれ変わったアレク(渉)は、この最悪な現状をどう打破して幸せになっていくのか??
更新予定:なるべく毎日19時にアップします! アップされなければ、多忙とお考え下さい!

悪役令嬢、猛省中!!
***あかしえ
恋愛
「君との婚約は破棄させてもらう!」
――この国の王妃となるべく、幼少の頃から悪事に悪事を重ねてきた公爵令嬢ミーシャは、狂おしいまでに愛していた己の婚約者である第二王子に、全ての罪を暴かれ断頭台へと送られてしまう。
処刑される寸前――己の前世とこの世界が少女漫画の世界であることを思い出すが、全ては遅すぎた。
今度生まれ変わるなら、ミーシャ以外のなにかがいい……と思っていたのに、気付いたら幼少期へと時間が巻き戻っていた!?
己の罪を悔い、今度こそ善行を積み、彼らとは関わらず静かにひっそりと生きていこうと決意を新たにしていた彼女の下に現れたのは……?!
襲い来るかもしれないシナリオの強制力、叶わない恋、
誰からも愛されるあの子に対する狂い出しそうな程の憎しみへの恐怖、
誰にもきっと分からない……でも、これの全ては自業自得。
今度こそ、私は私が傷つけてきた全ての人々を…………救うために頑張ります!

婚約破棄で命拾いした令嬢のお話 ~本当に助かりましたわ~
華音 楓
恋愛
シャルロット・フォン・ヴァーチュレストは婚約披露宴当日、謂れのない咎により結婚破棄を通達された。
突如襲い来る隣国からの8万の侵略軍。
襲撃を受ける元婚約者の領地。
ヴァーチュレスト家もまた存亡の危機に!!
そんな数奇な運命をたどる女性の物語。
いざ開幕!!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる