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第一章
浮上
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水中から浮かび上がるかのように私の意識は夢から現へと浮上する。
肌から感じるは清浄の空気。
鼻から香は木々の匂い。
耳から聞こえるのは少年の声。
ああ、私はまた彼に心配をかけてしまったのかと、思い、重い瞼を押し上げる。
私の身じろぎした気配を感じたのか視線を感じる。
「マラカイトっ!」
私は目を開けたつもりなのに、私の目にはぼんやりとした光景しか映らない。
『癒しのモノ、ダイジョウブ?』
小さな人が私の目の前に飛んでいる。
「………。」
私は眉間を寄せて、自分のベクトルが精霊寄りになっている事を悟る。
「大丈夫か?」
「ええ、少し、視界が……。」
「全然大丈夫じゃないかっ!見えないのかっ!」
ガシリと私の肩を押さえるジェダイドに私は慌てる。
「違うの、ちょっと力を使いすぎた反動で、力に引きずられてジェダイドたちが見えていない世界が見えているだけ。」
「……どういう事だ?」
怒気が籠っている声音に私は苦笑する。
「昨日、自分の限界以上に力を使ってしまったのは自覚していたのだけど、思った以上にダメージがあったみたいで、自分の感覚がマヒしているみたいで、ちょっと、異常が出ているというか……。」
「治るのか?」
「ええ、ところで私が倒れてからどのくらい経っている?」
「半日。」
「……思っていたより寝込んでいたようね。」
私は目を瞑り、自分の内に力を流す。
「………丸一日かかるかな……でも……少しは止めれば……。」
「やめておけ……急ぐわけじゃないんだ。」
「でも、野宿になるし。」
「……マラカイト。」
私が無理をするのが分かっているのか、ジェダイドは多分険しい顔をしている、声音からそれが十分に伝わってくる。
「ここなら、そこの奴が結界を張ってくれいるんだろ、安心じゃないか。」
「分かるの?」
「いや、セラが安心しているから、そうじゃないかと思ってな。」
私は視線をめぐらせれば、そこには落ちつた寝顔を見せるセラフィナイトの姿があった、セラフィナイトの姿がはっきり見えるのは多分、精霊とのはざまの存在だからだろうか。
「その通りよ。」
「なら、大丈夫だ。」
「でも…。」
「どうせ、帰るまで日数が掛かるのは始から分かっていた事だ。」
「ジェダイド。」
「お前は自分の体の事だけ心配していてくれ、というかこれ以上無茶をするな、俺を殺す気か?」
「ジェダイドには幸せになって欲しい、そして、おじいさんになっても幸せだと言って、欲しい。」
「恥ずかしい事を平気で言うな………。まあ、そこまで言うんだったら、お前は自分の事をもっと見直してくれ。」
「……。」
私が黙り込むと、ジェダイドは溜息を零し、私の頭をポンと叩く。
「お前は一人じゃないんだ。」
「……。」
「お前には俺もセラフィナイトも、そして、マギーさんもついている、お前はどうしてそうまでして俺を中心として考えてくれるのかは知らないが、お前の事を心配する人がいるんだ。」
「……。」
「たしかに、お前を怖がっていた奴も、嫌悪していた奴もいた。正直そう言った奴は俺が力を持っていたら物理的にも社会的にも潰してやりたい、でも、俺にはそういった力は持っていない。」
私はそっとジェダイドの手を取り、私の頬に持っていく。
「……脱線したな。俺としてはお前の優しさは俺だけのものにしたいところだけど…それだけじゃ駄目だと思う。」
私は分からず首を傾げる。
「消えそうに思うんだ……、お前が…。このままだと、お前が俺の前から泡のように弾けて消えてしまいそうに思うんだ。」
「消えないよ?」
「……そうかもな、でも…、俺は思うんだ、お前はもっと、人と付き合った方がいいんじゃないかと、なぁ…マラカイト。」
「何?」
「頼むから自分を犠牲にするのは止めてくれ……、俺はそんなお前を見るのが嫌なんだ。」
「……。」
私は彼の言っている意味が分からず、首を傾げる。
「……………や……か…。」
私はジェダイドの呟いた「やはり、分からないのか」という言葉が何を意味しているのか分からなかったので、それを聞き流した。
そして、本調子ではない私の体が眠りを求めて、なのか、何らかの自己防衛なのか、それは私の意識を奪った。
肌から感じるは清浄の空気。
鼻から香は木々の匂い。
耳から聞こえるのは少年の声。
ああ、私はまた彼に心配をかけてしまったのかと、思い、重い瞼を押し上げる。
私の身じろぎした気配を感じたのか視線を感じる。
「マラカイトっ!」
私は目を開けたつもりなのに、私の目にはぼんやりとした光景しか映らない。
『癒しのモノ、ダイジョウブ?』
小さな人が私の目の前に飛んでいる。
「………。」
私は眉間を寄せて、自分のベクトルが精霊寄りになっている事を悟る。
「大丈夫か?」
「ええ、少し、視界が……。」
「全然大丈夫じゃないかっ!見えないのかっ!」
ガシリと私の肩を押さえるジェダイドに私は慌てる。
「違うの、ちょっと力を使いすぎた反動で、力に引きずられてジェダイドたちが見えていない世界が見えているだけ。」
「……どういう事だ?」
怒気が籠っている声音に私は苦笑する。
「昨日、自分の限界以上に力を使ってしまったのは自覚していたのだけど、思った以上にダメージがあったみたいで、自分の感覚がマヒしているみたいで、ちょっと、異常が出ているというか……。」
「治るのか?」
「ええ、ところで私が倒れてからどのくらい経っている?」
「半日。」
「……思っていたより寝込んでいたようね。」
私は目を瞑り、自分の内に力を流す。
「………丸一日かかるかな……でも……少しは止めれば……。」
「やめておけ……急ぐわけじゃないんだ。」
「でも、野宿になるし。」
「……マラカイト。」
私が無理をするのが分かっているのか、ジェダイドは多分険しい顔をしている、声音からそれが十分に伝わってくる。
「ここなら、そこの奴が結界を張ってくれいるんだろ、安心じゃないか。」
「分かるの?」
「いや、セラが安心しているから、そうじゃないかと思ってな。」
私は視線をめぐらせれば、そこには落ちつた寝顔を見せるセラフィナイトの姿があった、セラフィナイトの姿がはっきり見えるのは多分、精霊とのはざまの存在だからだろうか。
「その通りよ。」
「なら、大丈夫だ。」
「でも…。」
「どうせ、帰るまで日数が掛かるのは始から分かっていた事だ。」
「ジェダイド。」
「お前は自分の体の事だけ心配していてくれ、というかこれ以上無茶をするな、俺を殺す気か?」
「ジェダイドには幸せになって欲しい、そして、おじいさんになっても幸せだと言って、欲しい。」
「恥ずかしい事を平気で言うな………。まあ、そこまで言うんだったら、お前は自分の事をもっと見直してくれ。」
「……。」
私が黙り込むと、ジェダイドは溜息を零し、私の頭をポンと叩く。
「お前は一人じゃないんだ。」
「……。」
「お前には俺もセラフィナイトも、そして、マギーさんもついている、お前はどうしてそうまでして俺を中心として考えてくれるのかは知らないが、お前の事を心配する人がいるんだ。」
「……。」
「たしかに、お前を怖がっていた奴も、嫌悪していた奴もいた。正直そう言った奴は俺が力を持っていたら物理的にも社会的にも潰してやりたい、でも、俺にはそういった力は持っていない。」
私はそっとジェダイドの手を取り、私の頬に持っていく。
「……脱線したな。俺としてはお前の優しさは俺だけのものにしたいところだけど…それだけじゃ駄目だと思う。」
私は分からず首を傾げる。
「消えそうに思うんだ……、お前が…。このままだと、お前が俺の前から泡のように弾けて消えてしまいそうに思うんだ。」
「消えないよ?」
「……そうかもな、でも…、俺は思うんだ、お前はもっと、人と付き合った方がいいんじゃないかと、なぁ…マラカイト。」
「何?」
「頼むから自分を犠牲にするのは止めてくれ……、俺はそんなお前を見るのが嫌なんだ。」
「……。」
私は彼の言っている意味が分からず、首を傾げる。
「……………や……か…。」
私はジェダイドの呟いた「やはり、分からないのか」という言葉が何を意味しているのか分からなかったので、それを聞き流した。
そして、本調子ではない私の体が眠りを求めて、なのか、何らかの自己防衛なのか、それは私の意識を奪った。
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